「月や火星圏以遠への探査や人類の活動範囲の拡大に向けた我が国の国際プレゼンスを確保」すること等に向けて、大気中から酸素を取得できない月面環境に適応した再生型燃料電池システムに必要となる純酸素の貯蔵技術や昇圧技術等の技術開発等を実施する。
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背景・目的
アルテミス計画を始め、世界各国の月面探査が活発化していく中、有人活動を含む持続的な月面活動を実現するためには、その活動を支える様々な大型の月面インフラ・システム(月面拠点、月面プラント等)に適用できる電源システムが必須となる。
この電源システムについては、特に、2週間毎に昼夜が訪れる月面特有の環境において、太陽電池による発電が困難な夜間及び日陰時でも電力を供給可能な大型の蓄電システム(例:2週間の越夜では数百kWh以上の蓄電量)が必要となる。
しかし、従来の宇宙機向けリチウムイオン電池のみで大容量の蓄電を行い、必要な電力を供給することは、月面に輸送できる物資の重量制約の観点から困難であり、大容量蓄電時のエネルギー密度が高く、軽量化が可能な再生型燃料電池システムの実現が期待されている。
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再生型燃料電池システムの実現に向けて、月面では、地上のように大気中の酸素を取り込むことができないため、再生型燃料電池システムを構成するサブシステム(水電解、燃料貯蔵、燃料電池)において純酸素を取り扱うための新たな技術開発が必要となる。
我が国では、これまで地上において航空機や潜水艦等の大型システムへの適用に向けた再生型燃料電池システムの技術開発が進められていることや、水素社会の実現に向けて、自動車産業等を中心として水素関連の技術開発が活発に行われている。
このため、これらの強みを活かして、大型の月面インフラ・システムに必要な電源システムを構成する共通的な基盤技術となる再生型燃料電池技術を獲得する。
また、獲得した本技術により、我が国の民間企業等による大型の月面インフラ・システムを用いた月面活動の促進やビジネス創出への貢献を目指すという。
技術開発テーマの目標
基本方針に示されている「月や火星圏以遠への探査や人類の活動範囲の拡大に向けた我が国の国際プレゼンスを確保」すること等に向けて、4年間で、大気中から酸素を取得できない月面環境に適応した再生型燃料電池システムに必要となる純酸素の貯蔵技術や昇圧技術等の技術開発や、当該技術を適用し水電解、燃料貯蔵、燃料電池の機能を組み合わせた再生型燃料電池システムの設計・開発・試験を実施する。
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これにより、月面環境での運用を想定した再生型燃料電池システムの地上実証を完了させ、月面で実用化できる段階(TRL5 相当の完了)まで技術成熟度を高めるとともに、開発した技術により、我が国の民間企業等による大型の月面インフラ・システムを用いた月面活動の促進やビジネス創出への貢献を目指す。
なお、再生型燃料電池システムの設計、開発において、大型の月面インフラへの適用を想定する場合は、以下の条件、要求に配慮することが必要となる。
- 1. 国際的な相互運用性を確保する観点から、International Space PowerSystem Interoperability Standardに準拠した入出力電力仕様であること。
- 2. 長期運用性を考慮した故障許容性と整備性を有すること。また、月面での保全機会が限られるため、整備や補給の制約に配慮されていること。
- 3. 適切な安全性が確保されていること。(公知の高圧ガス設計標準への適合、NASA NPR8715.3によるシステム安全性の評価、NASA-STD-6001およびNASASTD-6016による材料適合性の評価、その他提案者が必要と考える基準への適合)
- 4. 月面環境への耐性を有すること。また、月面への輸送を想定し、打上げから月面着陸までの期間に晒される環境(荷重、振動、熱環境等)に耐えることができること。
技術開発実施内容
月面環境での運用で必要となる以下項目を含む技術開発を実施し、本テーマが目標とする高エネルギー密度の再生型燃料電池システムを開発・実証する。
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純酸素の貯蔵技術や昇圧技術
月面では地上と異なり大気中酸素を取得できないため、純酸素の貯蔵技術、及び貯蔵タンクを小型・軽量化するための昇圧技術を開発します。 -
水素/酸素混合気の除去技術
水電解プロセスで生じる水素/酸素混合気による発火・燃焼を防ぐため、触媒等を用いた混合気ガスの除去技術を開発します。 -
高圧純酸素運用を可能とする耐発火・耐燃焼技術
高圧純酸素の運用には発火・燃焼リスクが伴うため、構成材料の適合性評価に加え、発火リスクを高める不純物混入を抑制する材料加工やシステム組立プロセスに必要な技術を開発します。