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運用を終了した衛星等のデブリは非協力物体と呼ばれ、外形や寸法などの情報が限られるほか、位置データの提供や姿勢制御などの協力が得られない。そのため、その劣化状況や回転レートなど、軌道上での状態を把握しつつ当該デブリに安全・確実にRPO(ランデブ・近傍運用)を実施することは、デブリ除去を含む軌道上サービスを提供するために不可欠な技術だ。
ADRAS-Jは実際のデブリへの安全な接近を行い、近距離でデブリの状況を調査する世界初の試みとなる。具体的には、大型デブリ(日本のロケット上段:全長約11m、直径約4m、重量約3トン)への接近・近傍運用を実証し、長期間軌道上に存在するデブリの運動や損傷・劣化状況の撮像を行うという。
この度実施した周回観測は、デブリの状態や動きについてより詳細に把握するためのものだ。一定の距離を保ちながら物体の周りを飛行するという、RPOの中でも非常に高度な技術だという。
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ADRAS-Jの周回観測の運用では、位置や姿勢の制御にADRAS-J搭載のLiDARとアルゴリズムを駆使し、観測対象のデブリの周囲を約50mの距離を維持して飛行しながらその画像を連続して撮影する。
今回、ADRAS-Jはデブリの周囲を安定して飛行しながら撮影していたが、デブリの周囲を1/3程度(約120度)周回したところでデブリとの相対姿勢制御の異常を検知し、自律的にアボートした。結果としてADRAS-Jはデブリから一旦待避しているという。
デブリ除去や衛星の寿命延長を含む軌道上サービスでは、除去や寿命延長等の対象となるデブリや衛星に安全に接近、必要に応じて捕獲する技術がサービスの基盤となる。ADRAS-Jでは運用において安全性を最も重要視しており、下記のように、RPOのどの過程においても対象物との衝突を避けられるように安全な設計となっている。
- 衛星が自身の内部の異常や対象物体との相対距離や姿勢の異常を検知し、対策を施すシステムFDIR設計を採用
- システムFDIRにより異常を検知した場合、対象物体との距離が特定の距離より近い場合は対象物体との衝突を回避するためアボートマヌーバを実施
- 複数種類のアボートマヌーバを状況や軌道(位置関係や向き等)に応じて使い分け
今回実施されたアボート機能も、安全にRPOを行うためにアストロスケールが設計したものだ。これにより、ADRAS-Jが観測実施中、つまり非協力物体の周囲を飛行しながらでも、安全を確保できることが実証された。
ADRAS-Jの開発では膨大な数のシミュレーションを実施し安全性を検証してきたが、軌道上にて設計通りに自律的アボートマヌーバが実施されたことにより衝突回避機能の設計の正しさを確認した。今回のアボートによる衛星への影響はなく、健全性を保っています。相対姿勢制御異常の原因は判明しており、対策を行い、現在は再接近の準備を進めているという。
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これまでのADRAS-Jミッション運用実績
2月18日:Rocket LabのElectronロケットにより打上げ
2月22日:デブリへの接近を開始
4月9日:相対航法(AON)と近傍接近を開始
4月16日:相対航法(MMN)を開始
4月17日:デブリの後方数百mへの接近に成功
5月23日:デブリ後方約50mへ接近に成功
5月23日:定点観測(1回目)を実施
6月17日:定点観測(2回目)を実施
6月19日:周回観測(1回目)を実施