概要
このシステムを用いて収穫日を決定することで、規格外野菜の割合を最小化し生産者の収入を増やす可能性を示しました。
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開発したシステムを検証するために、圃場で2年間にわたってブロッコリーを栽培すると同時にドローン空撮をおった。その結果、開発したシステムを使うと、ブロッコリーの花蕾が高精度(多くが2-3cm以内の誤差)で推定でき、気象データと組み合わせることで約10日後まで予測できることが分った。
さらに、ブロッコリーの全個体のサイズ変化と、サイズごと(S, M, L, LL)の出荷価格を組み合わせ、全個体を収穫したと仮定したときの総出荷価格(=生産者の収入)を日毎に計算しました。すると、収穫日が1日変わるだけで規格外が最大約5%増加し、収入が最大約20%減額することがわった。
この成果は、全個体の大きさを測定するというシンプルな技術が、規格外野菜を減らし、収入の向上と環境負荷の低減という一挙両得につながることを示唆しています。このシステムは、キャベツやハクサイなど様々な露地野菜に応用可能です。今後、このシステムを発展・実装することで、持続的な農業に貢献するという。
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研究内容
ドローン空撮と深層学習を組み合わせて作物の収量を予測する研究は多くありますが、その多くは『面の収量』が大事なイネやコムギ、トウモロコシなどの穀物だ。一方、『個体の大きさ』が重要な野菜を対象とした研究は多くない。
野菜の出荷では、数センチの違いによって規格が変わり出荷価格が変化してしまうため、高い精度で大きさを推定する必要がある。また、農業現場で使える技術のためには、風などのノイズがあっても、一部が葉で隠れていても高い精度で大きさを推定でき、かつ計算に膨大な時間がかからないシステムが必要だ。
本研究では、ドローン空撮画像で深層学習(全株の位置検出とブロッコリー花蕾の領域分割)を行う際にいくつかの技術的改善を行い、これらの課題をクリアした。そのうえで、ドローン空撮からブロッコリー全株のサイズ推定までをカバーする一連のシステムを開発した。
さらに、このシステムを収穫日決定の支援に使うには、空撮時点のブロッコリーサイズだけでなく、将来のブロッコリーサイズが予測できる必要がある。そこで、既存の生育モデルと気象予報データから、約10日後までのサイズを予測するモデルを構築した。
これらのシステムの有効性を検証するため、東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構で2年間にわたり1,714個体のブロッコリー栽培試験を行った。栽培したブロッコリーを対象に定期的にドローン空撮を行い、開発したシステムによって全個体のサイズを自動で推定した。
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同時に、520個体のブロッコリーの花蕾サイズを実際に手で測定し、ドローン空撮の推定精度を検証した。その結果、本システムは高い精度で花蕾サイズを推定できることが分かった。誤差はおおよそ2-3センチ以内で、平均花蕾サイズ8cmと小さいときからうまく推定できた。
最適な収穫日を決定するため、生育モデルと気象予報データを使って、約10日後までの花蕾サイズの変化を予測しました。そしてこの予測値と、実際にその日にドローン空撮で推定した値を比較したところ、平均花蕾サイズが20センチ以上と大きくなりすぎた日以外は、精度よく推定できた。
いくつかの農業協同組合(JA)に対して聞き取り調査を行い、ブロッコリーのサイズごとの規格と、規格ごとの出荷価格のデータを得た。このデータと、畑の全個体のサイズ変化を組み合わせることで、ある日に畑の全個体を収穫したらどれくらいの規格外野菜が出るのか、また総出荷価格(=収入)はいくらになるか計算できる。
この計算を栽培期間中の全ての日に対して行い、収入が最大になる収穫日と、規格外野菜の割合が最小になる日を調べた。すると規格外野菜の割合が最小になり収入が最大になる最適な収穫日がわかった。また、重要な点として、最適な収穫日からたった1日ずれて収穫すると、規格外野菜の割合が最大約5%増加し、収入が最大約20%減額することもわかった。ドローン空撮によって畑の全個体を測定することで、規格外野菜の割合や収入が収穫日によって大きく変化することを初めて定量化できた。
今後の展望
この成果は、全個体の大きさを推定するというシンプルな技術が、規格外野菜を減らし、環境負荷の低減と生産性の向上という環境と生産性の両立につながることを示している。ただし、今回の研究では畑の全個体を一斉収穫する、という規格外野菜の割合が増えやすい条件で行われた計算であることに注意が必要だ。実際の生産現場で行われる様々なパターンの収穫方法において、このシステムが有効かを検証する必要がある。
また、このシステムの枠組みは、キャベツやハクサイなど様々な露地野菜に応用できる可能性がある。そして圃場の全個体の植物を時系列で測定するという技術は、農学・植物学・生態学の様々な研究分野で有効だ。今後、このシステムを発展・実装させることで、環境負荷を低減させつつ生産性を向上させる持続的な農業や植物科学・生態学を加速させることが期待されるという。