画像は会場全体の様子
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慶應義塾大学で2020年1月27日、「エアモビリティ前提社会に向けて新たな交通秩序を共創する」というテーマのシンポジウムが開催された。空と陸の交通が交差する未来を見据え、一般社団法人全国自動車学校ドローンコンソーシアムと、慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムが共催した。本レポートでは、シンポジウム前半の4つの講演から象徴的なコメントを抜粋して紹介する。
「空飛ぶ車×自動運転×自動車学校」と題した同シンポジウムは、前半の4つの講演と後半のディスカッションで構成された。冒頭の挨拶には、一般社団法人全国自動車学校ドローンコンソーシアム理事長の朽木聖好氏が登壇。
- 新しい交通モビリティに関する社会需要性、一般流通性
- 陸と空の交通が多面的に交差し混在し、新たに生まれる交通機会について、現実的な可能性
この2つを主なテーマとして議論を深めたいと宣言し、「これからのビジネス展開の新しいきっかけにしてほしい」と呼びかけた。
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慶應義塾大学総合政策学部教授 古谷氏
最初の講演は、慶應義塾大学総合政策学部教授の古谷知之氏。「先端モビリティ前提社会」と題して話した。ドローン、エアモビリティ、自動運転といった先端モビリティが、いまどこまで進んでいるか、エアバスやメルセデスベンツのプロモーションムービーを流して紹介。
古谷氏:先端モビリティによって、生活空間、道路空間、空域の使い方、交通安全の考え方などを変える必要があるが、一方で生活者がエアモビリティや自動運転を実際に体験する機会がほとんどない。自動車学校が担える部分があるのでは。
また、アニメ「チキチキバンバン」に、空を飛べて水にも浮く車が描かれていることを例に出し、自分の子供たちも含めて若い世代に、先端モビリティへの関心を高める機会を一緒に作っていきたいと語りかけた。
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Drone Fund共同創業者/代表パートナー 大前氏
次に登壇したのは、Drone Fund共同創業者/代表パートナーの大前創希氏。「ドローン技術の先にある空の移動革命と未来の社会~エアモビリティの最新動向と将来展望~」というテーマで講演。当初登壇予定だった、Uber Japanの遠山雅夫氏が欠席となったため急遽代役を務めた。
「ピンチヒッターの大前です」と会場を和ませつつ、ドローン前提社会はどのように認識するべきかについて深掘って解説。まず、「移動できるロボット」である点をドローンのポイントとして強調した。
大前氏:例えば、アジアの工場は盗難被害が多い。警備用の据え置きカメラではバレてしまう。移動体であるドローンなら、巡回監視が可能になる
その上で、「3つのことができる」と、産業分野におけるドローンの役割を説明。農業を例に挙げて、活用シーンも説明した。
- 意思決定支援(カメラセンサー):リモートセンシング
- 作業支援(ロボット):農薬散布
- 移動支援(モビリティ):移動する、収穫したものを運ぶ
この移動支援の役割が、まさにエアモビリティだ。政府のロードマップでは2023年に空飛ぶ車の事業開始と目標設定されているが、大前氏は「2023年に人が乗るエアモビリティは非現実的だ」という見解を示した。
2023年の段階では、数10キロ~100キロのペイロードを運べる中程度サイズの物流ドローンが台頭するのでは。2026年くらいまでには日本国内で人が乗るドローンの商業利用がまとまるのではと考えている。
人が乗るエアモビリティについては、名古屋~志摩半島を例に挙げて利便性の高さを説明した。陸上輸送では5時間かかるが、海上を使えば1時間かからない。ちなみに同エリアでは、PRODRONEとKDDIが、長距離物流の実証実験を行なっている。
志摩のように、都市部から離れた観光地になっていて、現状は生活するのが難しいが、エアモビリティを使うことで都市部と接続した生活圏になり得るエリアが、日本国内には非常に多い。
内閣官房小型無人機等対策推進室内閣参事官 長崎氏
休憩を挟んで、内閣官房小型無人機等対策推進室内閣参事官長崎敏志氏が登壇し「空と陸の交通安全行政」というタイトルで、行政の最新動向を紹介した。
平成27年、首相官邸にドローンが墜落した事件から始まった、行政のドローン対応。令和元年、成長戦略会議においてドローンの利活用が議論され、「ようやく、テロ対策だけから、利活用の両輪になった」という。
法的な環境の整備について、今年度中に制度設計を進め、下記4つの課題のうち「所有者情報の把握(登録制の導入)」については、今国会での法案成立を目指す。残り3つは次期通常国会への法案提出を狙うという。
4つの課題
ドローンに関する投書や手紙は、いま数多く届くそうだ。そのほとんどが、ドローンに対する警戒心をあらわにしているものだという。
長崎氏:制度が重要なのではなく、最終的に社会に受け入れられるかどうかが大事。そのために、福島や秩父、白馬などで、社会実験を行なっている。自動運転は、自動車にはすでに基準があるという点で、ドローンやエアモビリティよりもやりやすいが、やはり社会実験を国民の皆様に見てもらって、どういう風に受け入れてもらえるかを考えていかなければならない。
東京大学生産技術研究所特任講師 伊藤氏
前半最後に登壇したのは、東京大学生産技術研究所特任講師の伊藤昌毅氏。「低空飛行の地方公共交通に救いはあるか?空を飛ぶ前に考えること」という視点で、主に自身の専門である地方交通のデジタルトランスフォーメーションについて解説した。
モビリティは100年に一度の大変革の時代。CASEという、もともとダイムラーが言い出した方向に向かって、自動車産業全体が動いている。MaaSという交通の新しい方向性もある。様々な移動サービスがつながっていく中で、日本の特に地方では、鉄道やバスなど地方公共交通で起きているのは「断絶」だ。
人口が減少して利用者は激減しているのに、バス会社ごとにバス停の名前が違うなど、サービスが乱立している。収支の厳しい路線を切り離して行政が引き取るなどで細分化し、交通事業者の数も増えているという。
伊藤氏:MaaSは統合していく動きなのに、地方では疲弊化し細分化が進んでいる。
こうした状況に対し、「IT×交通」を専門領域とする伊藤氏が地道に働きかけているのが、「公共交通のオープンデータ化」だ。バス停の位置情報や時刻表、運賃などの情報をデジタル化して、検索表示されるようにしたり、プラットフォームに情報を掲載するなどを手がけている。
ドローンはすごく大事だけど、今目の前にあるバスや鉄道といった、昭和から100年以上続いている分野でもまだまだイノベーションはありえる。交通をどうやって横に繋げていくか、どうやって壁を壊してつながりを作りオープンイノベーションを作っていくのかというところは、大事な仕事になると思う。
全員の集合写真
シンポジウム後半では、前半の講演登壇者に、サンインテルネット株式会社 代表取締役社長 三田竜平氏が加わり、「交通安全と先端モビリティの社会受容性」というテーマでディスカッションが行われた。人口減少を背景として、ドローンやエアモビリティ、自動運転いった「ロボットに頼らざるを得ない」状況で意識すべきは、1人の人間が複数のロボットを管理できる自動化や遠隔管理が不可欠であることや、そのためには人材育成が急務であることなどが話題に上がった。