カリフォルニア州の山火事に投入されるドローン
近年、米国のカリフォルニア州では気候変動や土地管理の不備、その他の人為的な要因などが重なり、山火事が頻発・激甚化している。今年1月7日から発生し、甚大な被害をもたらしている山火事はその際たる例だ。
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こうした危機的状況を受け、ロサンゼルスを含む各地の消防当局や関連機関は、山火事対策の一環としてドローンやAIの活用を進めている。検討や実験の段階ではなく、実際の山火事現場において、ドローンが炎の近くまで安全に接近して情報を収集したり、AIを使って膨大な火災関連データを高速で分析したりする事例が生まれているのだ。こうした先端技術の導入は、今後の消防活動のあり方を変えるものとして期待されている。
たとえば2018年11月8日にカリフォルニア州北部で発生した山火事「キャンプファイア」では、16の緊急対応機関が協力し、ドローンを用いて被災地の広範なマッピングを実施している。この際、計518回ものドローンのフライトが行われたそうだ。
また2021年7月から8月にかけて発生した大規模火災「ディクシー・ファイア」では、ドローンに取り付けられた「ドラゴン・エッグ」と呼ばれる球体(過マンガン酸カリウムで作られた物体で、グリコールを注入することで炎が噴き出す)を投下し、あえて燃えていない地域に火をつけて延焼を防ぐ「バックファイア」の手法が実施された。
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さらに赤外線カメラなどを搭載したドローンが、山林や建造物に潜むホットスポットを特定し、消防隊に貴重な情報を迅速かつ安全に提供するという取り組みも行われている。
これらはまさに、ドローンが山火事や大規模火災への対応に大きく貢献している好例と言えるが、一方でその限界や問題も明らかになっている。
たとえば今回のロサンゼルスの火災では、付近に非常に強い風が吹いており(それがまさに深刻な山火事を引き起こす一因だ)、ドローン使用が制限されているとの報道がある。
そしてより深刻なのが、当局やメディアなど公的な機関によるドローン活用とは別に、無許可で使用されるドローンが引き起こす問題だ。
無許可ドローンが引き起こす問題
ロサンゼルスの山火事では、非常事態宣言下にある火災現場付近で、ドローンの飛行禁止区域(TFR:Temporary Flight Restriction)が設定されている。にもかかわらず、一部の個人がドローンを勝手に飛行させる行為が続き、問題となっている。
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報道によれば、2025年1月15日現在で既に3名の逮捕者が出ている。
また別の報道では、今回の山火事が発生してから、48機もの私的所有のドローンが規制区域内で飛行していたことが判明している。
さらには消防機関が運用する、山火事の消火支援を行う大型航空機「スーパー・スクーパー」とドローンの衝突事故も発生。スーパー・クーパーはカナダから派遣されたもので、低空飛行しながら水を収集・散布する能力を持ち、1,600ガロンの水をわずか5分で補給可能だ。しかし、この事故で主翼にこぶし大の穴があき、飛行不能となったため、同機による人命救助の機会が失われることとなった。
たとえ衝突事故が起きなくても、ドローンが飛行禁止空域に侵入するだけで大きな問題となる。消防当局の航空機が上空で消火活動や情報収集にあたる際、もし付近に民間ドローンが飛んでいると、衝突リスクを回避するために消火活動や救助作業を中断せざるを得なくなるからだ。
こうした無秩序な飛行が続くと、消防の中核を担う航空支援が停止し、消火活動全体の効果が大幅に削がれてしまう危険がある。
もちろんこうした違反行為に対して、当局が手をこまねいて見ているわけではない。米FAA(連邦航空局)によれば、飛行制限違反は1年の懲役や最大7.5万ドルの罰金が科される可能性がある。にもかかわらず違反者が相次ぐのは、そう、映像配信者の存在が一因となっている。法を犯しても「バズる」動画が取りたいのだ。
実際、YouTubeを始めとする各種の映像共有サイトやSNS等では、ドローンにより撮影したものと思われる、ロサンゼルスの山火事に関連する映像が投稿されているのを確認できる。
上掲の映像は報道機関により、正式な許可を得てドローンを飛行させ撮影されたものだが、こうした「衝撃的な」映像を取りたいという欲求が違反者を生むのだろう。だからといって、消火活動、ひいては人命救助作業を妨害する行為は絶対に許されない。
ロサンゼルスの山火事は、ドローンが山火事対策において大きな威力を発揮し得ることを再確認させると同時に、いくら法律で規制しても、無許可飛行は防げずに現場に致命的な障害をもたらすという教訓を突きつけた。
今後は一層、合法かつ安全な運用を推進するために、技術的なイノベーションと法規制・モラル教育の充実が不可欠となる。今回の事例は、それに向けての大きな教訓をもたらしてくれるだろう。