災害や事故、事件などが起きた緊急現場へ真っ先に駆けつけ、情報収集を行うファーストレスポンダ(緊急事態第一対応者)の役割は、問題解決を支援する上でますます重要なものになっています。人命を救うため危険を承知で動くことができる、献身的な人たちの努力と苦労によって支えられている仕事でもあることから、その大変さを少しでも減らしながら精度を上げる方法として、ドローンの活用が進められています。
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米国ではドローンによるファーストレスポンダをDrones as First Response(=DFR)と呼び、実際に現場に駆けつけるスタッフたちを支援するシステムや緊急対応プログラムを政府機関が開発しています。また「DRONE RESPONDERS」と呼ばれる、公共の安全を守るUASを推進する非営利プログラムがあり、ドローンの運用方法を研究したり、イベントを開催して知識を共有したり、トレーニングなども行われています。
DFRの活用シーンはいろいろあり、例えば、災害時の捜索救助活動の場合、現場を広範囲に撮影するドローンを手配し、さらに熱画像を撮影できるカメラを使用することで、現場の状況と被災者の有無を同時に把握することができます。山火事の場合には、ホットスポットを特定できるセンサーを使用するなど、現場に応じて臨機応変に対応できるというメリットもあります。
意外に効果が大きいのは都市部での活用で、通報があったと同時にドローンを飛ばすことでより早く現場の状況が確認でき、誤報やいたずらで警官がわざわざ駆けつける必要がなくなります。現場がどれだけ危険かといったことも事前に把握でき、適切な対応ができるだけでなく、夜間で視界が悪い場合もドローンの方が安全で正確に状況を確認できます。
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2018年からDFRを活用しているカリフォルニア州のチュラビスタ警察署によると、2024年2月までに計18,571件の通報に対応し、平均で約94秒以内に現場へ到着できたことで、2,537件もの逮捕につながったとのこと。課題は現在あるドローン規制との兼ね合いで、緊急時の利用ができるよう当局と協力して運用ルールを作ったり、あらたな安全基準を設けたりすることも検討されています。
並行して進められているのが、DFRに対応できるドローンの開発です。24時間365日いつでもリモートか、場合によっては無人でも自律して運用できる機能が求められていることから、ドローンを待機させるドッキングステーションやドローンボックスは不可欠になっています。DFR向けに製品を開発しているメーカーは複数ありますが、モジュール式で運用パッケージを提供するFlytBase社では、緊急時の初動対応に信頼性の高いソリューションとしてDJIドックを採用しています。緊急時に迅速かつ安全に運用できる耐久性を持ち、厳しい天候での遠隔操作に最適だという点がポイントのようです。
DFRはヨーロッパでも活用されています。ベルギーでは2023年5月から全土に35の緊急ゾーンを設け、70機のドローンを配備しています。使用しているのは、ベルギーの通信事業者Citymesh社が運用する「SENSE」というDrone-in-a-Boxユニットで、箱入りドローンとして無人でどこにでも配備することができます。リモートで自律運用するために5Gのドローングリッドが構築され、緊急通報から平均して15分以内に現場で重要な情報を収集し、救急隊員に詳細な状況を伝えることができることから、対応時間の短縮と効率アップにつながっています。
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さらにベルギーでの成功を受けて、スイスでの活用も始まっています。スイス全土に300台ものDrone-in-a-Boxユニットを導入するというもので、こちらはベルギーでも参画していたNokia社が Swisscom Broadcast社と連携して運用を行います。しかもDFRだけでなく、交通の監視やインフラ検査など、産業面での運用にも対応するのがポイント。目視外(BVLOS)による自律操作にも対応する「Nokia Drone Networks」は、スイス国内での大規模な Drone-as-a-Service(DaaS)を実現し、ライドシェアサービスと同じようにドローンを活用できる環境を提供しようとしています。
緊急ドローンの活用は、日本では仙台市が「津波避難広報ドローン事業」を2022年10月から本格活用しており、そこでも24時間365日出動できる箱入りドローン(正確にはドッキングステーション)が利用されています。災害時の人命救助は初動が大事なだけに、ドローンを活用していこうという動きが全国でも増えるようになってほしいものです。