進むドローンスワームの実用化
複数のドローン、特に「群れ(スワーム)」と呼べるほど大量のドローンを同時に操る「ドローンスワーム」技術だ。この連載でも何度か取り上げているが、広い範囲を対象とした調査や探索、あるいはドローンを使ったライトショーなど、さまざまな用途で実用化が進みつつある。
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それに伴い、大量のドローンを効率的に管理し、ドローン同士の衝突などの事故を回避しながら、高速で飛行させる技術も進化している。たとえば次の映像は、中国の香港科技大学(HKUST)と浙江大学が公開した、重量300g以下という超小型のドローン10台で構成されたスワームを、障害物の多い空間で飛行させるという技術のデモンストレーションだ。
障害物を自動で回避するドローンはさまざまな研究機関で開発されているが、香港科技大学と浙江大学の研究者らが実現したのは、個々のドローンが自律的に「考えて」、最適な飛行ルートを割り出すという技術だ。これは自律分散協調アルゴリズムと呼ばれており、個々の機体に搭載されたセンサーを通じて得られた情報を共有し、周囲の状況をマッピングした上で、各機体が常に適切なルートを算出している。
2022年に公開された論文によれば、それぞれのドローンは、マッピングされた空間に対して「これからどこを飛ぶつもりなのか」という「予定」を立てる。そして、その予定を他のドローンと共有することで、衝突回避などの目標を達成するわけだ。とはいえ突発的な事態、たとえば突風にあおられるなどして飛行ルートから外れ、他のドローンや障害物に近づき過ぎた際には、センサーによってそれを把握して挙動を変えるようになっている。
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研究者らはこの技術によって、障害物が多い空間での捜索活動が効率化されるという可能性だけでなく、都市部でのドローン普及が進むかもしれないと指摘している。都市部を飛ぶ大量のドローンを管理する場合、中央集権型の大規模システムを想定するのが一般的だが、この技術のようにドローンが自律的に考えるというシステムでも効率化と衝突回避を実現できる。特に都市部での急速な物資輸送などに役立つだろうと研究者らは指摘しており、ドローンスワームの実用化をさらに進めるものになるかもしれない。
バッテリー消費もアルゴリズムで軽減
このように技術の進化と用途の拡大が進むドローンスワームだが、大量のドローンを飛ばすということは、その分困った問題も出てくる。そのひとつが前述のようなドローン同士の衝突だが、機体の数が増える分、バッテリー消費も新たな課題として浮上してくる。
飛行するドローンの数が増えれば、当然ながら消費する電力の量も増える。逆に言えば、個々の機体が消費する電力を少しでも抑えられれば、その分大量のドローンを飛ばした際の省エネ効果は相当なものになるわけだ。またバッテリー消費を抑えて個々の機体の航続距離を延ばせれば、その分各機がカバーできるエリアが拡大し、トータルで見た場合のカバー可能領域を大きく増やせることも期待できる。
この課題に取り組んでいるのが、プラハにあるチェコ工科大学研究者らだ。IEEE Robotics and Automation Letters誌で発表された論文によれば、彼らはこの課題をドローンによる「複数セット巡回セールスマン問題(Multiple Set Traveling Salesman Problem)」であると捉え、それを解決するアルゴリズムを開発することにした。
複数セット巡回セールスマン問題は、「巡回セールスマン問題(Traveling Salesman Problem)」の一種だ。巡回セールスマン問題とは、「いくつかの町を訪れなければならないセールスマンが、各町を1回だけ訪れてスタート地点に帰って来られる最短のルートを割り出す」というもので、訪れる必要のある町(ポイント)が多くなれば多くなるほど正答を求めるのが難しくなる。複数セット巡回セールスマン問題では、町が複数のセット(グループ)に分かれており、全体の距離が最適化されるルートを見つけるのはさらに難しくなる。
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論文によれば、既存の方法では、パスの長さを最小化することが必ずしもエネルギー消費の最小化にはつながらない。そこで研究者らは、飛行速度を最適化し、さらに正確なエネルギー消費推定アルゴリズム(97%の精度で消費量を予測できるとのこと)を組み合わせることで、エネルギー消費を最小化する新しい手法を編み出すことに成功した。
研究者らは開発されたアルゴリズムを使って、いくつかのテストケースを実際に解かせてみた。このテストケースには農地や平原、雪山など、異なる条件のシナリオが設定された。すると、こうした環境や飛行条件にもよるものの、ドローンが消費するエネルギーを最大で40.4%削減できることが確認されたそうだ。実用化の取り組みはこれからだが、ドローンスワームの可能性を大きく広げるものと言えるだろう。
研究者らはまた、このアルゴリズムによって、異なる形状やサイズのエリア、さまざまな飛行禁止ゾーンが存在する環境でも、効果的に飛行経路を計画できると期待している。そうした複雑な環境が存在する都市部において、ドローンスワームを実用化する上で欠かせない技術になっていくかもしれない。