実証の概要
兵庫県とNIRO(公益財団法人新産業創造研究機構)は、令和元年より「ドローン社会実装促進実証事業」を行ってきた。令和5年度も、兵庫県内でのドローンを活用した新しいビジネスモデルの確立と社会実装を目指して企画提案公募を行い、10件の事業を採択した。
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本実証は、「令和5年度 兵庫県ドローン社会実装促進実証事業」の採択事業の1件で、(株)SkyDriveが主体となって実施した。目的は、建設業の資機材運搬における課題解決だ。
その事例の1つとして、地元の測量・建設会社である(有)征和建設と、有志ボランティア団体「恒屋城保存顕彰会」の協力のもと、登山道整備用の資機材運搬を行った。
使用した機体は、(株)SkyDriveが開発する物流ドローン「SkyLift P300S」。サイズは横幅1.2m×縦幅1.9m×高さ1.0m、機体重量は58.0kg(バッテリー込、空荷の場合)。最大積載重量は30.0kgで、ホイスト運用時は20.0kgになる。
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今回はホイスト運用で、2日間で合計44往復のピストン輸送を実施。
山頂ステージへは、敷設マット2枚1組(19kg)、ポリタンクに入った水(19kgと16kg)、機材(12kg~20kg)やテント(16kg)など、総回数16回で総重量284kgを運んだ。
中腹ステージへは、クランプ(19kgと20kg)、角材3本(20kg)、杉板3枚(20kg)、合板平板(20kg)、水タンク(17kg)など、総回数25回で総重量463kgを運んだ。
「ドローンを使えば、もっと仕事が捗る」
場所は、戦後時代の山城である「恒屋(つねや)城」。兵庫県姫路市香寺町恒屋に位置し、標高200mの前城と標高236mの後城に分かれる。登山道と前城の距離が大変近く、つまり前城までは一気に駆け上る形状だ。
土塁や堅堀などの遺構が多く残り、瓦が多数出土した恒屋城には、全国から城跡ファンが訪れる。また近年では、初日の出を拝もうと登山客も増加しているという。
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姫路市指定史跡であるものの、その維持管理はボランティア頼みのようだ。住民たちが有志で立ち上げた「恒屋城保存顕彰会」が、一時は雑木林と化していた山城をきれいに整備している。
しかし、ボランティアの担い手も高齢化が進む。地元では活動継続性への危機感を募らせる。
さらに立ちはだかるのが、前述のきつい傾斜だ。登山道をもっと整備したくとも、資機材を背負って登ることは容易ではなく、簡単には手を出せないのが実情のようだ。
実証当日は、心地よい秋晴れだったが、滑落しないよう、怪我をしないようにと気を張って登る山頂ステージまでの約30分で、正確には前城に到着する前に、すっかり息が切れた。
一方で、草が伸び切って歩きづらいということがなく、幟や立て看板が見やすく設置されていることが印象的だった。ビニール袋やペットボトルなどのポイ捨てゴミを目にすることもなかった。
橋本会長:見ていただいた通り、きれいに草を刈ったりしている。登ってくるだけでもしんどいため、ボランティアのみんなで草刈機やチェーンソーを分担して持って上がってくるのだが、登っただけで疲れてしまって、なかなか作業に手がつかない。ドローンで資機材を上げていただいたら、もっと仕事も捗るし、また活用したいと思う
「ドローンにできないことも分かった」
山頂ステージへの輸送は、まず登山口から車で2分程度のところに設置した離陸地点で荷物を搭載し、「SkyLift P300S」をマニュアル操縦で離陸。
山頂ステージのパイロットと常に音声通話でコミュニケーションをとりながら、両者が互いに機体を目視確認できるところで、プロポを受け渡した。
続いて、山頂ステージのパイロットが荷物を下ろす地点の上空まで、マニュアル操縦で機体を操作した。
離陸から約3分で、荷物はゆっくり吊り下ろされた。風をあまり感じない状況だったためか、荷物は大きく揺れらされることなく静かに下りた。ただし、機体のプロペラ音はやはり大きめだ。
ホイストで荷物を下ろした後、機体はしばらく上空でホバリングしていた。
通常の運用では、すぐに着陸地点に戻るが、50名近く集まった参加者に機体を披露するため、一度着陸。そのタイミングで、関係各位が実証の意義や所感を語った。
(株)SkyDrive ドローン事業開発室 室長の成松敏男氏は、「山間部での鉄塔保守作業において、昨年から実際にSkyLiftの運用を行っている」と話したうえで、「従業員の高齢化」「担い手不足」「人肩による比率の高さ」「運搬時間が長い」「労災リスク」などの資機材運搬の諸問題を挙げつつ、「その結果、工事がなかなか進まない」と課題を指摘し、機体の特徴を説明した。
成松氏:弊社の機体の特徴は、やはりホイスト。一般的な杉の木で、一番成長しているものが約30mと言われているが、このホイストは40mほど巻いている。荷物を下ろすスピードは約7m/sなので、30m下ろすとそれなりに時間はかかるが、山間部の場合は木を切ること自体が認められていない現場が多く、そのような機体を着陸させるスペースが確保できない場所でも、木の間から荷物を真っ直ぐに下ろすという運用ができる。
これを受けて、ドローンを活用した3次元計測を手がける(有)征和建設 代表取締役社長の橋本征和氏は、「今回の実証を通じて、ドローンにできないことも分かった」と話した。
橋本社長:山の現場では草刈機やチェーンソーだけでも5kg、10kgになるので、ドローンで上げてもらえたらと思うが、建設現場では当たり前の5~6mある長尺ものや、900×1800のサイズを上げられない。今回の実証を通じて、ドローンにできないことも分かった。重量についても、エンジン工具などを全部計測した結果、ペイロード30kgというのはぎりぎりなので、もしも50kg運ぶことができたら、建設業界では結構活躍するような機体になっていくのかなと感じている。
兵庫県 産業労働部 新産業課の井上大輔氏もこのように挨拶した。
井上氏:技術も世の中的な関心も高まり法整備も進んだが、実際にドローンが飛び交っている世の中になっているのだろうか。兵庫県では、ドローンを社会に普及させていくため、5年前からドローンの社会実装促進実証事業を実施してきた。今回のユースケースを通じて、ドローンの可能性を皆さんにも感じ取っていただければと思う。
参加者は50名近く。価格やバッテリーなど、さまざまな質問が飛び出していた。ちなみに、現在(株)SkyDriveでは機体販売は行っておらず、同社機体を使った役務提供を行っているという。基本的には、5名体制での運用だ。バッテリーは、フルペイロードで約7分間、往復約2kmの距離で、荷物を下ろして戻ってくることができるよう、荷物を下ろすことができずに戻ってくるケースも考慮しながら、運用しているという。
中腹ステージでは、建設現場の見学も
さらに、登山道整備用の資機材を一時保管するために設置されたという中腹ステージでは、実際に建設業で使われる資機材運搬の実証も公開された。
900×1800のままではドローンで運べないため、900×900にサイズ変更して運搬しているという。(有)征和建設の橋本社長は、「ドローン用の木材を作っていけばいいと気づいた」と話す。
橋本社長:今回、ドローンでの資機材運搬をやってみて分かったのは、ドローン専用の木材を作っていく必要があるのかなということ。大体のサイズ感も分かったので、チャレンジしていきたい。
山の斜面に設置されたステージ上空から、実際に荷物を吊り下ろした後、機体は離陸地点に戻っていった。離陸地点のパイロットと中腹ステージのパイロットが、お互いに機体を目視確認しながらプロポを受け渡して機体を操縦した。
ちなみに、機材洗浄用、トイレ用水、タバコを吸う人もいるので安全対策としても水は必須だが、従来は人肩で運んでいるという。実証当日も、黄色いタンクに入った水が中腹ステージに置かれていた。
いまの課題と、今後に向けて
「正直、実際に使っていきたいか」について、(有)征和建設の橋本社長と、保存顕彰会の橋本会長にコメントを求めた。
橋本社長:そのつもりでやっている。海の仕事でも食糧や燃料の運搬などで活用できるよう、検討したい。
橋本会長:ここまで持って上がるのは、みんな高齢化してきて、やっぱりもうしんどいので、上げてもらえたら助かる。
今後は、建設業界で一般的なサイズや重量の荷物を運搬できるよう、ドローンに合わせた資材の仕様変更の検討や、建設現場の知見を活かした運び方の工夫を進めるという。
橋本社長:今回の実証実験の中で、どのように運んだら風の抵抗を抑えられるか、一緒に検証させていただき、いま考えているところ。着陸時にダウンウォッシュで部材が暴れてしまうが、建設現場ではいろんなクレーンでものを吊っているので、そうした知見も踏まえて一緒にやっていければと思う。
(株)SkyDriveは、機体の揺れを制御するシステムや、耐雨性に優れたプロペラなどの開発を急ぎ、建設現場の要望に応えていく構えだ。また、風況予測機器開発の実証にも参画中だという。
一方で、発電機をフル稼働させて充電したバッテリーを1回のフライトで何本も使って運搬する、という効率性には疑問も残る。実際の役務提供の前に下見もあるなど、価格感のハードルも高そうだ。
とはいえ、例えば往復20~30分などの短距離ではなく、何時間も人肩で資機材を運搬するような現場では、工事の進捗、労働力の確保、作業安全性などの観点から、ドローンによる代替へのニーズは高いという。
「1日に1.8トンを運搬した実績もある」という(株)SkyDriveが、現場の声に寄り添いながらどのような新たな用途で社会実装を進めていくのか、今後も注目だ。