暗闇での自律飛行を可能にしたドローン
米国のドローンメーカーであるSkydioは、MIT(マサチューセッツ工科大学)の大学院生だった創業者らが中心となって、2014年に設立された若い会社だ。そうした出自もあってか、高い技術力を活かした先進的な機能の実装を売りにしており、特に自律型ドローンを得意としていることで知られている。
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Skydioは消費者向けドローンも開発していたが、2023年8月にその終了を発表。エンタープライズ向けの製品ラインに特化する方針を打ち出している。エンタープライズ向けといっても、同社のドローンを利用しているのは一般企業だけではない。その高性能ぶりから、警察や軍でも使用されている。
そのエンタープライズ向けドローンの最新機種として9月に発表されたのが、Skydio X10である。
X10でもその優れた自律飛行能力は健在で、前世代と比べ、計算能力がおよそ10倍に向上しているそうだ(詳しいは下記を参照)。中でも注目されているのが、「NightSense」と名付けられた、暗闇の中での自律飛行機能である。
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NighteSenseの正式名称は「ダークネス(暗闇)ナビゲーションシステム」で、赤外線カメラに最適化された独自のアルゴリズムを搭載。それによりX10は「昼夜を問わず完全な自律飛行が可能な、市場で唯一のドローン」になっているとSkydioは宣言している。そしてこのNightSenseを使うことで、ユーザーは「24時間いつでも、自動化されたデータ収集」が可能になるとしている。
SkydioはX10のターゲット顧客として、災害や事件・事故現場に対応する消防隊員や警察、軍隊、そして電力・水道会社などのインフラ事業者を想定している。こうした組織には、昼夜を問わず混乱した現場で情報収集を行うことが求められる。暗闇の中で自律飛行し、自動でデータ収集してくれるX10は、彼らの強い味方となることだろう。
先端監視技術は適切に使用されるか
ただこうしたドローンの監視能力が強化されることには、不安の声も上がっている。新しい技術、特に社会や一般市民に大きな影響を与える技術を法執行機関が手にする際には、それが濫用・悪用されないように歯止めをかける必要がある。しかしそうした対応が、常に適切に行われるとは限らない。
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たとえば最近、映像に写る人物の顔からそれが誰かを特定する「顔認識技術」を警察官が使うことに関して、米国で興味深い調査結果が発表された。
米国各地の法執行機関では、この技術をさまざまな事件の捜査に活用している。たとえばひき逃げ現場近くの監視カメラに残された映像を解析して、犯人を特定するといった具合だ。しかしこの技術は適切に使用されているとは言えず、実際に米国各地で誤認逮捕が相次いでおり、中には警察が訴えられるまでに至ったケースもある。
こうした背景から、米連邦議会の調査機関で、連邦政府のプログラムや支出についての監査と評価を米国会計検査院(GAO)がFBIにおける顔認識技術の使用状況について調査したところ、その適切な使用方法を学ぶ3日間のトレーニングコースを受講する対象となっていた捜査官のうち、実際に受講していたのは5%未満だったそうだ。
またFBIを含む7つの法執行機関でドローン利用が確認されたが、2022年までにトレーニングの受講を義務付けていたのは、国土安全保障捜査局(HIS)のみだった。これでは誤認逮捕が増えるのも驚きではない。
法執行機関によるドローン活用も同様だ。テクノロジー系雑誌のWiredは、Skydio製ドローンを導入する警察組織が増える中で、それを批判する声も増えていることを紹介している。それによると、いまのところ警察によるドローン使用を規則する法律や条例はほとんど無く、彼らが自由にドローンの活用方法を模索している状態にある。
またニューヨーク自由人権協会(NYCLU)がニューヨーク州内で行った調査によれば、警察がドローンをいつ、どのように使用し、どのような情報を収集したのか、またその情報をどこで、どれくらいの期間保存し、誰がアクセス可能かを公表することもほとんど行われていない。警察はドローンをほぼフリーハンドで利用でき、その内容が後から検証されることもない――そのような状況で、NightSenseのように高度な追跡・監視能力がドローンに実装されていくのは、濫用のリスクを高めるだけだ。
もちろんドローンの進化自体は悪いことではなく、NightSenseを搭載するX10は、夜間に事件・事故にあった人々の捜査や救援での活躍が期待される。それを推進しながら、同時に捜査官らに対して法順守のトレーニングを施したり、運用状況に関する情報公開を義務付けたりするなど、ガバナンスの確立に向けた取り組みも求められるだろう。