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テストに向けた練習
午後からはテスト、正確には実地試験の終了審査に向けた練習になる。
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いちいち面倒なのだが、語句は正確ではないとこのご時世いろいろなところから突っ込みが入る。国家資格になったからこそ「免許」や「ライセンス」と言ってもそこまで間違いではないのだが、民間資格のころは「資格」と書いただけで「民間資格」なのにとか、「免許」「ライセンス」は国土交通省(国交省)が認めたわけでもないだのなんだの総突込みである。
まあ確かに国交省のウェブサイトに掲載されている講習団体を「国交省公認」と書いてしまうのはやりすぎではあるが、「航空局ホームページに掲載されている無人航空機の操縦者に対する講習等を実施する団体」なんて広告に記載したところで何のことかわからない。「技能証明」というより「免許」「ライセンス」のほうが文字数やわかりやすさで選びたくなるものだし、多少の誇張をするものだと思うので仕方がないだろう。
国家資格になったことで、呼び方が変化したものもある。いままで「夜間飛行」と呼んでいたが「昼間飛行の限定変更」、「目視外飛行」を「目視内飛行の限定変更」となっている。舌を噛みそうなので、結局は「夜間飛行」と「目視外飛行」と言ってしまっているのが現状だ。
横道にそれたが、ここではテストと言わせていただく。
今回の受講生Aさん、Bさん、Cさん3人とも形だけのスクエア飛行、8の字飛行、異常事態における飛行を行ってきた。午後からは実際のテストと同じコースでの飛行と、点検や日誌などの口述試験練習と分かれて行う。
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テストコースでの飛行
午後は実際のテストと同じコースでの飛行を行う。例外も一部あるが、基本的には飛行コースの左右1.5mを外れてしまうと減点になってしまう。更に1m外れると不合格だ。つまり、3mから5mの幅の中を飛ばなくてはならない。実際の飛行でここまで制限された状態を維持する飛行を求められることは非常に少ない。
最新の機種であれば問題ないが、少し前の機種の障害物センサーは3mで反応してしまい、ブレーキがかかってしまうためまともに飛べない。会場の広さを規定しなければいけないため、あまり広いエリアを確保できないなど事情があるにせよ、少し厳しい範囲での飛行になる。
Aさんはテストコースでも問題なくクリアできる。若干スムーズではない動きがあるものの、練習するたびに修正されていく。非常に安定した飛行だ。
Bさんはスクエア飛行は順調だが、8の字飛行では減点エリアに入ってしまうことが度々あり、下手すると不合格エリアの侵入もあった。ただ、徐々に感覚を掴みつつある。
Cさんはスクエア飛行では方向が狂いがちで、直進性が悪く、減点エリアの侵入がある。ただ、一区画1回は警告で済むので、そこまで減点はないだろう。問題は8の字だ。どうしても小刻みな動きになり、飛行経路も全く安定しない。たまに機首方向を見失っているときすらある。
今までの経験上、考えられるのは視力である。案の定、機体が遠くなると機体の細部が見えておらず、どちらを向いているのか判断できないようだ。これは年齢の問題もある。私も電車の向かいのホームにある反対車線の時刻表を読めるほど視力が良かったのだが、40代中盤に差し掛かると徐々に視力の低下を感じてきた。さらにCさんは眼鏡があっていないことが判明。それでは苦労することだろう。
二等無人航空機操縦士経験者の講習時間は2時間である。講習を重ねて感じるのは、テスト内容の説明と確認にほぼ費やしてしまい、この2時間では実際の講習というレベルまでいかないのだ。実際にドローンを扱ってきていて、十分理解のある人であれば、2時間の講習でささっと資格の取得ができるので良いのだが、じっくりとドローンの操縦を学びたいという人には物足りないし、合格すら難しいのだ。
机上試験・口述試験
実地試験は飛行試験だけではない。机上試験と口述試験がある。机上試験は飛行計画に関する筆記テストだ。4択問題が4問あり、試験時間は5分。問題自体は実際の飛行の際に考えなくてはいけない機体の性能や、フェールセーフについての問題になる。問題自体はとてもためになり、有益である。
ただし、なぜ実地試験に組み込まれているのかなぞである。別途筆記試験があるのだからそちらに組み込んでくれればいいのに。できればこの時間を飛行練習に当てたいのが現状だ。あと、問題用紙の図と文字が小さい。レイアウト次第でもっとましになるはずなのだが。
口実試験は法令、飛行空域、気象の確認の後、飛行前点検として、電源を入れずにチェックする作動前点検、電源を入れる作動点検、実際に飛行させる飛行点検、そして飛行テスト後に行う飛行後点検を行う。それが終われば飛行記録を記入して、最後に事故、重大インシデントに関する口述試験だ。
何も知らずに口述試験に挑むと、この口述試験で不合格になる。2等の実地試験は100点の持ち点中70点以上残っていれば合格の減点方式である。飛行前点検で1つでも漏れがあると10点、飛行後点検で5点、飛行記録で10点、事故・重大インシデントで10点の減点がある。十分30点の減点もあり得る範囲だ。
そして、Aさんは飛行点検、飛行記録をちゃんと行っていたようだが、Bさんは知ってはいたが行っていないようだ。Cさんに至っては飛行点検、飛行記録が義務化されたことさえ知らなかった。
少なくとも口述試験での減点は限りなく0点で抑えるべく、指導に熱が入る。飛行試験での減点を0にすることは難しいが、口述試験は不可能ではない。どこを気をつければよいのか、どう覚えればいいのかといった押さえるべきポイントは心得ている。
終了審査
いよいよテストである。まずは机上試験。5分と短いが、演習問題で傾向と対策は済んでいるので問題はない。ただ、Cさんは老眼との戦いのようだ。そう、文字が小さいのだ。更に図も不鮮明、凡例など読めたものではない。ただ、結果は全員満点であった。Cさんは老眼に打ち勝ったようだ。
次はAさんから一人ずつ口述試験と飛行試験に移る。さすが、実務を繰り返しているAさんだけあって、受け答えも明確だし、点検もぬかりない。テキパキとこなしている。飛行試験に入っても、スクエア、8の字、異常事態における飛行、軽微な減点はあるものの、最低限の減点に抑えている。飛行後点検、飛行記録も問題なく、事故・重大インシデントの口述試験もよどみなく答えてテスト終了である。
続いてBさん。口述、飛行前点検は問題なく進み、飛行試験に移ると緊張からなのか若干操作がぎこちない。減点エリアに入ってしまうことも2回ほどあり、その他にも細かい減点が積み重なっていく。集計しないと明確には分からないが、採点中になんとなく大きな減点があるとまずいぞと思い出す。多分ギリギリだろう。なんとか飛行テストを終え、飛行後点検、機構記録も終え、最後の事故・重大インシデントの口述試験を残すのみとなった。
「無人航空機の事故にあたるものを3つあげてください」
私は質問をした後、Bさんの顔を見る。
Bさんの目の焦点があっていない。これは完全に頭が真っ白になっている。なんにも頭に浮かんでこないのだろう。時計を見る。制限時間は3分だ。これを間違えると多分減点が30点を超えるだろう。沈黙が続く。私はどうすることもできない。1分半が経過した頃、
「もう一度質問を言ってください」
とBさんが言うので、
「無人航空機の事故にあたるものを3つあげてください」
と言うと、Bさんはハッとした表情を見せ、
「人の死傷と、航空機との接触、えーっと、あ、物件の破損です」
なんとか絞り出したようである。その後の事故後の対応も問題なく答え、Bさんのテストを終えた。
私も、妙な緊張感に包まれたせいで、どっと疲れが出た。
最後にCさんだ。開始早々何かがおかしい。口述もしどろもどろだ。Cさんは極度に緊張してしまっているようだ。人間、程よい緊張感があったほうがいい場合もあるが、極度に緊張しすぎると、普段の成果も出ない場合がある。Cさんは確実に後者だ。点検を行っている手が震えている。悪い予兆だ。
さらに私は気がついてしまった。点検記録簿に名前と場所と日付を書く欄があるのだが、空欄だ。指導する際に、忘れる可能性があるので最初に書くように言っているのだが、緊張のあまり忘れているのだろう。この際も私は何もできない。言いたい。
しかし、終了審査の減点項目にも助言は不合格と書かれているし、公平性を保つうえでも、教えることは絶対にできないのだ。ただ、そのもやもやも8の字飛行で吹っ飛んだ。Cさんは最初の前進で浅い回転しかしなかったため、大きな孤を描いてしまい、不合格エリアに侵入したのだ。
試験結果
Aさんは問題なく合格、Bさんはギリギリ合格、Cさんは不合格という結果となった。正直、飛行テストだけを見るとそこまで難しいテストではない。ある程度飛行経験があるなら飛行テストはパスするだろう。ただ、口述試験などを含むと、対策を知らないとなかなか難しいだろう。飛行経験が浅い人は飛行テストも難易度が高い。8の字など普段しないし、スクエアも微妙な遠近感の把握が必要だ。
ドローンの飛行技術の中の半分ぐらいは精神力ではないかと私は思うことがある。緊張感やプレッシャーをとても感じるからだ。それらを克服する方法はなく、経験だけがそれを緩和してくれる。Cさんにはそこが足りなかった。Bさんは再質問をするという図太さでそれをはねのけたのだろう。あ、あと眼鏡の調整。これも大事である。
※このコラムの内容は、事実を元にしたフィクションです