このコラムではこれまでに人を乗せて空を飛ぶドローンこと"空飛ぶクルマ"をいくつも紹介してきましたが、2023年はいよいよ市場が本格化する予感がしております。
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世界で環境問題やエネルギー問題への関心が高まった結果、空の移動は "Flight shame=飛び恥"と呼ばれ、特にヨーロッパでは敬遠される傾向にあります。そうしたことから航空業界でも自動車業界と同様に急速な電動化が推し進められ、参入する企業もかなり増えています。
市場に関しては、米国オレゴン州ポートランドを本拠地とするAllied Market Researchの調査によると、2025年には2億1,554万ドルになると評価され、2035年までに約38億ドルに達すると見込まれています。しかもこの数字はまだ小さい方で、2035年にはヒト桁大きい300億ドルになるというものや、2040年には1,500億ドルに達すると評価しているところもあります。
海外ではFlying CarやAir Taxiと呼ばれる人を乗せて飛ぶドローンは、日本では空飛ぶクルマという呼び方が定着しつつあります。
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毎年1月にラスベガスで開催されている国際デジタル見本市「CES」でも、これまでに数々のFlying Carが紹介されてきましたが、今年は空飛ぶ自動車を開発するスタートアップのASKAが2026年に販売を予定している「ASKA A5」を出展し、大きく注目を集めました。
このASKAという会社ですが、イスラエルを本拠地とするNFT社によって2018年に創業され、本社はカリフォルニアのLos Altosにある拠点とは別にMt.Viewに開発工場を設けています。著者が最初にASKAを知ったのはCES 2020の会場で、2019年に発表した最初のプロトタイプ"Design 1.0"をイスラエル企業が集まるブースの一角にて紹介しておりました。
その時は機体の映像しか公開されてなかったので、詳細はあまりわかりませんでしたが、見た目は普通の自動車に翼が付いたまさしく"空飛ぶ自動車"というデザインでした。通常は屋根の上に折り畳まれて格納された翼が、飛行と同時にゆっくり広がるという、ワクワクするような仕様でしたが、それゆえに実用化には相当時間がかかりそうだなぁと見ておりました。
その後、ASKAは同年に"Design 2.0"を発表していますが、デザイン的にはまだ斬新さはあるもののいわゆるeVTOLになっていて、やはり自動車の形を残したまま実用化するのは難しいのだなと思ってました。
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CES 2022には、2021年に発表された"Design 3.0"のコクピット部分だけが展示されて、このままちゃんと開発が進むのか心配しておりましたが、今年は実機が展示されて、ようやくどのようなデザインになるのかが確認できたのでした。
見た目はだいぶヘリコプターっぽくなりましたが、サイズは大型SUV並みとコンパクトで、足下は大きめのタイヤが4つあり、4シートという、道路を走る機能も含めて何とかクルマっぽいところを残してる感じです。
動力はリチウムイオンバッテリーと小型ガス(ガソリン)エンジンのハイブリッドで、最高時速150マイル(約240km)で飛行し、1回の充電あたりの飛行距離は250マイル(約400km)となっています。発売するのはパイロットが運転するタイプで、価格は78万9,000ドルですが5,000ドルで予約できます。2030年には自律飛行タイプを実現すると発表しています。
そんなASKA以外にもFlying Carの実用化は進んでいて、中国の電気自動車メーカーXPENG の子会社で空飛ぶクルマを開発しているXPENG AEROHTが、2022年10月にドバイで開催されたイベントで「XPENG X2」と呼ぶ機体の初飛行を披露しています。
開発開始から5世代目にあたる機体は2シーターで、カーボン素材の機体は560kgとかなりコンパクトになっていて、デザインもシャープで美しいものになっています。飛行時間は35分と短めですが、ドバイはXPENG社に有人自律飛行体(manned autonomous flying vehicle)として初となる公共飛行許可を与えており、都心部と空港を結ぶ短距離タクシーとしての運用を目指しています。
さらに同社は、ASKAが以前発表していた、見るからに空飛ぶクルマというデザインをした、6世代目の「X3」のテスト飛行も昨年末に成功させています。実際に飛ばしたのは、自動車に翼を付けただけのプロトタイプのようでしたが、デザインボードからわかるように、翼を折り畳みできる変形システムを採用する予定で、低高度飛行ができるようにするそうです。
他にもマレーシアのAirAsia が空飛ぶタクシー事業をスタートしたり、世界各地で次々と試験飛行を成功させているEHangは、2022年末にスペインで試験飛行を実施するなどして、ニュースをにぎわせています。主な運用目的は目的地へ早く快適に移動するための交通手段としてなのですが、珍しい乗り物に乗る観光ツアーとして、専用ポートとあわせて観光地化するアイデアもあったりします。
課題は、かなり厳しいとされている航空免許規制やパイロットの育成ですが、市場を後押しするために国や自治体がルールづくりに動いており、そう遠くないうちに事例が発表されるかもしれません。日本でも2025年の大阪・関西万博にあわせて国が実用化に動いており、JALやANAなどを含む複数の企業や自治体、スタートアップが名乗りを挙げています。
そんなわけで、今年は日本のあちこちで、空飛ぶクルマの姿を目にする機会があるのではないかと期待しております。