各地で開催されるドローンショー
前回の記事で、ドローンを使って夜空にさまざまな絵を描く「ドローンショー」について触れた。既に中国では約5200機のドローンを使用したショーが行われるなど、数千機のドローンを操ることが普通に行われるようになっている。そうしたドローンショー用の機体と管理システムを開発している企業の1社であるIntelによれば、彼らが2019年6月に公開した資料において、同社は既に世界中で600回を超えるショーを開催したとしている。さまざまな国際的イベントにおいて、ドローンショーを目にしたことがあるという方も多いだろう。
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実際に2022年11月から12月にかけてカタールで開催された、サッカー最大の祭典であるFIFAワールドカップ2022でも、開会式でドローンショーが行われている。
Fireworks and Drone Show FIFA WORLD CUP 2022 QATAR
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ワールドカップ開会式でのドローンショーでは、サッカーを蹴るアニメーションも見られた(上記映像の2分20秒付近)。
このショーを担当したのはロシアのGeoscan Groupで、同社のウェブサイトによれば、彼らも最大で3000機のドローンを使用したショーを実施することが可能だそうだ。使用するのはGeoscan Saluteという独自開発したドローンで、ショー専用に設計されており、またおよそ250グラムというごく軽量な機体(Intelのドローンショー専用機であるShooting Starの重量は、前述の資料ではおよそ330グラムとされている)のため特別な飛行許可申請が不要であるとしている。
同社のInstagramでは、FIFAワールドカップで実施されたショーとは別物になるが、ドローンのコントロールセンターでオペレーターがショーの管理を行っているシーンも公開されている。
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他にも世界中でさまざまな企業がドローンショー用の機体やシステムの開発、さらにはショー自体の企画・運営に乗り出しており、今後もショーの拡大が見込まれている。そんな中、こうした「ドローンに搭載したライトで3次元の映像を描く」という技術が、より実用的な用途に活用される例が生まれている。
ドローンの光で再建イメージを共有する
その新たな用途を考え出したのが、オランダのアーティスト集団Studio Driftだ。2007年にオランダ人アーティストのLonneke GordijnとRalph Nautaが設立した組織で、世界各地でさまざまなアート作品を生み出している。
彼らが今年10月に発表した新たな「アート」が、公式Instagramに掲載されている。
スペイン・バルセロナのサグラダファミリア教会の上空に浮かぶドローン。そこから発せられる光によって、あたかも塔の一部がそこにあるかのように感じられる(ただこれが実際の光景を撮影した写真か、CGで加工されたイメージかどうかは明らかにされていない)。要は建築中の建物、あるいは何らかの理由によって一部が欠損してしまった建物の近くでドローンを飛ばし、完成時の姿や、元の姿を光で再現しようというわけだ。コンピュータの画面内に描かれるCGを、現実の空間に投影する仕組みと言えるかもしれない。
Instagramの記事では、次のように解説されている。
サグラダファミリアが完成したら、どんな姿になるのだろう?あるいはコロッセオが完全な円形になった姿を想像してほしい…。Studio Driftは過去数年間(2020年から)、ありえないことを視覚化するために、実物大のレンダリングを行うドローンソフトウェアの改良に取り組んでいる。
ここでも解説されているように、彼らはこの「現実空間への実物大レンダリング」を実現するために、独自のドローン管理ソフトウェアを開発しているそうである。そしてそれをアート作品で終わらせるのではなく、建築家やクリエーターに対し、建築物のイメージを与えてコンセプトづくりを支援するベンチャー企業も立ち上げたとのこと。この技術を具体的なビジネスとして運営していこうというわけだ。
Studio DriftのFacebookでは実際に、新しい(建築前の)ビルの姿をドローンショー方式で描いた場合のコンセプト画像が掲載されている。
さすがに高層ビルが完成した際の姿を再現するには膨大な数のドローンが必要になるだろうが、冒頭で触れたように、既に数千機のドローンを使用したショーが普通に行われるようになっている。ビルや橋、スタジアムなど、ある程度巨大な建築物であっても、「現実空間のCG」として再現できるかもしれない。果たしてこれがビジネスとして成立するかどうか、今後の動き、そして技術の進化に期待したい。