労働人口の減少は日本でも大きな問題になっていますが、中でも農産物を収穫する現場の人手不足は深刻な問題に直面しており、テクノロジーを活用したさまざまな解決策が求められています。
- Advertisement -
いち早く動きが進んでいるのが、広大な農地で栽培されるとうもろこしや小麦、じゃがいもなどを収穫する技術で、衛星技術を使ってリモートコントロールする自動運転トラクターはすでに実用化が始まっています。米国の大手農業機器メーカーJohn Deere社は、耕作から水や肥料の散布まで自動化できるトラクターを開発していますが、今年のCESではAIを用いていろんなタイプの農作物にあわせて自動収穫ができる完全自律走行型のトラクターを発表しています。
(提供:John Deere)
日本でも自動運転トラクターの運用が進められていますが、それよりも今は、スペースが限られた屋内でハウス栽培された農作物を自動収穫するロボットの開発が注目されています。
- Advertisement -
カメラや各種センサー、IoTを組み合わせて、狭い場所でも自在に動いて、農作物の種類にあわせた収穫ができるのがポイントです。対象となる農作物は増えていて、イチゴを収穫するアイナックシステム社の「ロボつみ」をはじめ、トマトの収穫向けにはデンソーの「FARO」やパナソニックホールディングスなど、大手も参入しています。
ロボットの精度もどんどん上がり、ピーマンを収穫するAGRIST社の「L」は、余分な茎まで切り取る性能を備えています。他にもアスパラガスやキュウリなど、色の識別や収穫が難しそうな農作物についても対応できる新しい技術が次々に登場しています。
一方で、高い樹に生る果物などの農産物については、まだそれほど自動化が進んでいません。果物を収穫するFruit pickersと呼ばれる労働力は年々減り続け、2050年には500万人が不足すると推定されていますが、収穫にはハシゴやクレーンなどが必要で、安全面でもリスクがあるため、もともと安定した人材を確保しにくく、大きな課題となっていました。
収穫のタイミングや必要な労働力がその年ごとに変わるので、数週間の遅れが大きな損失につながり、あるデータによると全世界で収穫できないまま腐敗する果物は10%以上で、欧州全体の果物の年間総消費量に相当するのだそうです。金額にすると年間約300億ドルもの損失になり、運良く収穫できたとしても、2週間遅れると果物の価値は80%も失われ、その影響は価格上昇という形であらわれています。
そんな自動化が最も求められているにも関わらず、なかなか最適な技術が登場しなかったこの分野でも、いよいよドローンの出番がやってきたようです。
- Advertisement -
イスラエルのスタートアップTevel Aerobotics Technologies社が数年前から開発を続けてきた「FAR」は、有線タイプのクワッド式ドローンで、高い樹から熟した果実だけを摘み取ることができます。
ローターの周囲は農作物を傷つけないようにカバーで覆われ、果樹から一定の距離を保ちながら安定した飛行ができます。搭載されたカメラとセンサーで収穫する果物に狙いを定めると、機体から伸びるロボットアームが1個ずつ器用に果物を収穫し、電源を供給する基地局を兼ねた収穫カーゴまでやさしく運びます。基地局は樹に沿って自律的に移動しますが、一定量の収穫ができるとそのまま倉庫へ運ばれるので、24時間365日無人で運用することができます。
同社のビデオでは、ふわふわと飛びながらロボットアームでリンゴを掴み、くるりとひねって収穫し、カーゴへ取り込むなかなかにかわいい動きをする様子が紹介されています。
(提供:Tevel Aerobotics Technologies)
収穫そのものはドローンに搭載されたカメラの映像をリアルタイムで画像分析し、自律的に行われますが、専用のアプリを使って、収穫したい果物の種類、色の等級、希望する重量とサイズをパラメータで設定できるようになっていて、商品価値が高い実だけを選んで摘み取れるのが大きなポイントになっています。キズの有無までセンシングできるので、収穫後に選別する無駄も減らせるうえに、収穫された果物の量、重量、殺虫剤の効果、病気があったかどうかを確認できるという、なかなかにマルチな機能が用意されています。
もちろん果物によってパラメータは異なり、ものによってひねる方向が時計回りかその反対かも判別する必要があります。それぞれに適したデータを持っていることがFARの強みでもあります。リンゴからスタートし、桃、ネクタリン、プラム、アプリコットが追加され、現在は形も収穫時期の選定も難しいアボカドにも挑戦しているとのこと。同社では今後もライブラリを増やしていくとしています。
セットアップは1,2時間程度ででき、1週間ほどトレーニングをすれば使いこなせるようになるそうです。トレーニングはリモートなので、都合にあわせて習得できるのも忙しい農家にとってはありがたいところです。ちなみにドローンは規模にあわせて複数台を飛ばすことができますが、その管理やコントロールはリモートでサポートできるため、大規模な農園から活用が拡がるかもしれません。
Tevel Aerobotics Technologies社はクボタとも協力していて、世界最大の農業機械展示イベントのAGRITECHNICAで「Agrifuture Concept Winner 2022」を受賞しています。さらに将来的には、ドローンが収穫した果実を自動運転トラックに積み込み、納品先まで届けるところまで自動化を進めているとのことで、今後の技術の発展が気になるところです。