DJIの新型機が日本では発売されない
悲しいことが起きました。先月、2022年8月末にDJIの新型ドローンAVATAが発表になりました。前々からリーク動画等を見ていて、とても楽しみにしていた機体でした。そして発表のお知らせが日本ではなかったのです。DJIの日本語サイトにはティザーの表示すらなく、言語を英語にすると現れました。ショックでした。
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以前Vol.20で紹介したDJI FPVの派生機で、FPVによる飛行に特化したものです。DJI FPVより小型で、全体がダクトのようなガードで保護されているため、室内や人に近づいて撮影できるドローンです。このタイプのドローンはCINE WHOOPと呼ばれるジャンルで、今までも存在はしましたが、自作機の域のものしかなく、完成度は業務に使うには頼りないものでした。これで不具合の解消を機数で補う運用とおさらばできるかと思った矢先にこの事態です。
これはドローンでも「おま国」現象が起きてしまうのではないかと、ちょっと恐怖心さえ出はじめています。「おま国」とはネットスラングで、「お前の国では売ってやらない」の略です。
主にゲームでの話で、日本はゲームの表現に対する審査団体の規制が厳しく、海外のゲームを日本で発売する際に、内容を変えたり、表現を変える必要があるため、海外では発売されたゲームが、日本では発売されず、どうしてもやりたい場合は海外版を購入して、ちゃんと理解できない英語でプレイせざるおえない場合がありました。
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なんで日本では発売されないのか、ちょっと考えてみようと思います。
日本以外で発売されていない国
まずはざっくりと日本以外でAVATAが発売されていない国を調べてみました。調べ方は雑ですが、DJIのサイトの下にある、地域と言語の切り替えをして、AVATAが表示されない地域を調べました。結果は、日本、香港、ロシアの3か所のみでした。香港はFACEBOOKの投稿で香港在住の方が購入して動画を投稿していたので、全く購入できないわけではなさそうです。ロシアはウクライナの件があるのでないのでしょうか?ただ、他のドローンは表示されますので、ちょっとなんとも言えないです。もっと発売されていない地域があるのかと思っていましたが、ちょっとショックです。
電波法による規制
一番理由として濃厚なのは電波法による規制です。AVATAのスペックから無線の部分を抜粋すると
- Communication Frequency
- 2.400-2.4835 GHz (RX only)
- 5.725-5.850 GHz (RX and TX)
と書いてあります。以前発売されたDJI FPVにも
- Operating Frequency
- 2.400-2.4835 GHz
- 5.725-5.850 GHz
と書いてあります。違いとしては、2.4GHz帯にRX onlyとは書いてないのです。
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操縦と映像送信合わせて2.4GHzと5.8GHzを選択していたDJI FPVに対し、AVATAでは2.4GHzを操縦専用に限定しているのですね。ここからは想像なのですが、DJI FPVは2.4GHzで低遅延の映像送信をしていたのですが、5.8GHzと比べると使える帯域が狭いため、チャンネルを多く使ってしまいます。そのため、他のドローンが2.4GHzを使用していると映像が途切れたり、距離が出ない問題がありました。それを解決するために、映像送信を5.8GHz帯に絞ったのかもしれません。
ちなみに、日本のDJI FPVのスペック表には
動作周波数
- 2.400〜2.4835 GHz
- 5.725~5.850 GHz(日本国内は2.4 GHz帯のみ利用可)
と書かれており、2.4GHz帯しか使えません。これはMAVIC3など他の機種でも同じです。
ではなぜ日本国内では2.4GHzしか使えないのか、総務省のドローン等に用いられる無線設備について「総務省 電波利用ホームページ」というサイトで、見てみましょう。
分類 | 無線局免許 | 周波数帯 | 最大送信出力 | 主な利用形態 | 備考 | 無線従事者資格 |
免許又は登録を要しない無線局 | 不要 | 73MHz帯等 | ※1 | 操縦用 | ラジコン用微弱無線局 | 不要 |
不要※2 | 920MHz帯 | 20mW | 操縦用 | 920MHz帯テレメータ用、テレコントロール用特定小電力無線局 | ||
2.4GHz帯 | 10mW/MHz※3 | 操縦用、画像伝送用、データ伝送用 | 2.4GHz帯小電力データ通信システム | |||
携帯局 | 要※4 | 169MHz帯 | 10mW※5 | 操縦用、画像伝送用、データ伝送用 | 無人移動体画像伝送システム(平成28年8月に制度整備) | 第三級陸上特殊無線技士以上の資格 |
2.4GHz帯 | 1W | |||||
5.7GHz帯 |
※1:500mの距離において、電界強度が200μV/m以下のもの。
※2:技術基準適合証明等(技術基準適合証明及び工事設計認証)を受けた適合表示無線設備であることが必要。
※3:変調方式や占有周波数帯幅によって出力の上限は異なる。
※4:運用に際しては、運用調整を行うこと。
※5:地上から電波発射を行う無線局の場合は最大1W。
この表によると、電波の免許無しで使えるのはAVATAの使用周波数帯内で2.4GHzのみです。これでは日本国内では使えませんね。では第3級陸上特殊無線技士を持っていれば使えるかというと、そうではありません。
微妙に周波数帯が違うのです。簡単な表にまとめました。周波数の縮尺等は適当です。範囲を見ていただければと思います。
無人移動体画像伝送システムというのが第3級陸上特殊無線技士の資格があれば使える無線の範囲です。
AVATAの範囲と比べてもほんの少ししか被ってないですよね。これでは使えませんね。図は正確ではありませんが、アマチュア無線の範囲にも収まっていません。では諸外国ではどうなのかというと、上の表にISMバンドというものがあると思いますが、この範囲のものは免許無しで使えるようです。日本でもISMバンドの2.4GHz帯は免許なしでもつかえます。そうでないと、従来のドローンですら使用できませんからね。ですが、なぜか日本では5.8GHz帯のISMバンドは免許なしどころか、三陸特を持っていても使えません。
これでは日本では発売されないのも仕方がないと、いや、納得できませんよね。
まず1つは5.8GHz帯のISMバンドが使えないことです。世界共通規格なのに。これは日本の電波法が世界一厳しいと言われる所以です。もう一つは、帯域確保できなくても構わないのでDJI FPVと同じ仕様にしてくれればいいのにと思います。これはむしろソフトウェアでどうにかできる問題だと思うので、そんなに難しいものでもないのにと。どうでしょうか?DJIさん。
ひとつ、AVATAのスペックに気なる記述があるのです。5.8GHz帯の部分に注釈があり下記のように書かれています。
The 5.8 GHz frequency band is currently banned in certain countries or regions. For details, please refer to local laws and regulations.
訳すと、5.8 GHzの周波数帯域は現在、特定の国や地域で禁止されています。詳細については、現地の法律や規制を参照してください。というわけです。これ日本のことじゃないですか。なぜ規制のない米国のページにわざわざ書いてあるのでしょうか?たぶん、5.8GHz帯が使えないのは日本だけではなく、何カ国かあるはずです。使えないなら日本のように発売されないはずなのに、冒頭で調べたとおり、記載されている殆どの地域で発売されています。規制されていない国で買って、規制されている国で飛ばさないようにという牽制でしょうかね?
航空法による規制
日本では2022年6月から機体登録制度が始まりました。航空法上ではFPV、いわゆる目視外飛行は承認なしでは飛ばせません。これらの法律などが厳しいためDJIは日本を除外したのでしょうか?
実は、米国では機体登録制度が2016年には始まっていました。またリモートIDのようナンバープレートシステムも始まるようです。FAAのサイトを見ると、目視外も規制されています。ただし、補助者がいれば特に承認は必要ないようです。日本の場合、補助者を立てても承認が必要ですが。中国でも登録制度が始まったようです。そして、中国でも目視外での飛行は認められていません。DJIのサイトしか見つけられませんでしたが。
日本でも発売してください
こうしてみてみると、日本のドローンの規制は諸外国と比べても、特に厳しいというわけではなさそうです。ただ、電波については厳しいですね。製品の認可を取る場合も、米国のFCCの審査の書類があれば流用できる場合も多いようです。そうなると、日本は独自の規制があり、かと言って世界規模で考えると市場規模も小さく、そして現在円安。あまり旨味がないため単にAVATAの日本仕様が後回しになっていると信じたいです。このまま新型の機体が日本で発売されないことが続くと、完全に「おま国」になってしまいます。まずは総務省に無線の周波数帯の見直しを、そしてDJIには日本仕様のAVATAをお願いしたいと思います。私は少なくとも2機買いますよ。2機。