4月で新年度を迎えたが、ドローン関係者の中で強く感じたことは国の開発系予算が「ドローン」から所謂「空飛ぶクルマ」にシフトしたことであろう。
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国プロが及ぼしてきたこととその現状
これまでドローンおよび関連するソリューションの開発や実装に関して、2015年ぐらいより国の予算が寄与して部分は大きい。それは各省庁の管轄する分野でのドローン活用のための実証実験費といった内容であった。その中でドローンの活用は拡がってきているし、業種や分野によっては既に実運用の局面にあるものも多い。
しかし、実証実験から実運用として定着させるにはまだまだ課題を抱えているものも少なくない。その理由は業種や分野によっても異なるが、現状ではまだ民間の間での活用サイクルが回っていないケースが多い。それはシンプルにいうと、ドローン活用のための経済循環が構築されていないということになるだろう。
今までは、国プロというものがある程度、ドローンの実証実験(ドローンは何に使えるのか)に対して支援をしてきており、この5年間ぐらいはどのドローン関連企業も何らかの国プロの支援を多かれ少なかれ得てきており、その恩恵を受けるかたちで各ドローン関連の企業は経営を回してきたということになるだろう。
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これからも各業種や分野の課題の解決や効果が見込まれるドローン活用の実装の拡大に寄与するものに関しては、国の予算が使われていくことはあるかと思うが、その文脈はDXであったり、SDGsであったり、そういったテーマに準ずる形に急速に変わっていくだろう。
「空飛ぶクルマ」へのシフト
以前ドローンは「空の産業革命」といったかたちで喧伝されていたケースも多かったが最近は「空のモビリティ」といった形で捉えられるケースも多くなっている。
これはそのドローンの延長線上に「空飛ぶクルマ」が位置づけられてきたときと時期を一にしている。
モビリティの定義
- モビリティとは英語の「mobility」のことで、「動きやすさ」、「可動性」、「移動性」、「流動性」などを意味し、職業の移動や階層の移動、または乗り物など人やモノの移動に関する用語として使用。
- 自動車メーカーをはじめ、関連する企業を含めた自動車業界のことをモビリティ分野と呼んでいるケースが一般的。
空のモビリティ
ドローンによる拠点間のモノの移動や、空飛ぶクルマによる人の移動といった、新たな領域における技術の社会実装・産業振興を通じて、社会の課題を解決し、"安全・安心+ワクワク"な未来を創造するチャレンジ。
出典:経済産業省「次世代空モビリティ」より
これをみると、「陸」のものであった自動車業界を「空」にまで伸ばしていくという気持ちが現れている。
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いうまでもなく、日本最大の売上高の企業はトヨタ自動車(売上高は31兆円超)であり、自動車産業は日本経済の停滞が言われる中で、なお世界一の水準となっている。逆に日本経済の停滞の中で、この水準を保っているということは、日本産業の中での立ち位置も相対的に高くなっているということだろう。
そんな中、「陸」でのEVや自動運転車といった競争に加えて、海外ではこの「空」をモビリティで活性化していこうという動きがここ数年で目立ってきている。日本としては、この浸食に対していかにキャッチアップしていくかといった大きな流れになってきている。そして、そこで台頭してきているのが、自動車も同様であるのだが、中国である。
ここに何とか楔を打とうとする動きが「空のモビリティ」推進ということであり、交通インフラを担う国土交通省だけでなく、経済産業省もここにかなり加速化しているのはそんな背景があるのだろう。
その戦略が合理的かどうかはここで論評をしないが、この戦いに勝利するには「空飛ぶクルマ」のように、よりハードウェアとソフトウェアが複合化された技術やそのプラットフォームやビジネスモデルに関して長けた人材をきちんと育成していかなければ「絵に描いた餅」、ある意味では「絵」も描くことができないだろう。
「ドローン」の延長線上に「空飛ぶクルマ」はあるのか?
これはYesでありNoである。この項を進めるために、もう一度ドローンの役割を整理しよう。ドローンの役割は大きく分けると3つある。
一つめが作業代行である。これは農薬散布、搬送、塗布などドローンが「撒く」「運ぶ」「塗る」などの作業を人やその他の機械の代わりに行うことである。
二つめが空撮である。これは一番わかりやすいドローンの役割であり、現状も様々なシーンで使われている。最近のTVのバラエティ番組の中にはドローン空撮が前提で成り立っているものも多いし、ドラマなどでは当たり前のように使われている。
三つめがデジタル情報収集である。点検、測量、観測、センシング、監視などドローンの登場により、多くの分野で新しい活用に拡がりをもっている。広義の意味においては空撮もデジタルでの画像や映像を取得しているということもあり、その用途においてはこちらに含まれるといってもいいだろう。
「ドローン」の延長線上にある「空飛ぶクルマ」の機能としてYesなものは、作業代行である。そして、その中でもその中心は、搬送ということになるだろう。そして、デジタル情報収集というのは「空飛ぶクルマ」においてカバーされる機能ではないし、その技術やビジネスモデルは異なるものだ。
「ドローン」の延長線上にある「空飛ぶクルマ」
現在も多くの場所で様々なドローンによる物流実証実験が行われている。
ドローンの物流に関しては、これまでもコラム(Vol.54 ドローン物流のビジネスモデル構築にむけて[春原久徳のドローントレンドウォッチング])で書いてきた。
社会解決の課題という点において、ドローンでの物流は様々な検証が行われてきて、技術課題に関しては、だいぶ解決してきている部分が多いように思うが、やはり難しいのが運用する「お金」をどうやって回すのかという問題である。これはこのソリューションがその他の過疎地問題などと同様で人口減時代での社会インフラをどうするかといった問題に立脚しているからだろう。そういった点においては医療や福祉といった問題と同様で公共事業としてどう捉えていくのかという問題とイコールである。その点において、経済合理性のもとに一般の民間企業が回していくのはなかなか解決しえないということである(鉄道やバスの廃線と変わらない議論だ)。「ドローン」の延長線上にある「空飛ぶクルマ」もこういった問題から目を背けるわけにはいかない。
ここから「空飛ぶクルマ」のソリューションを作っていくまでに多くのハードルが横たわっている。そのハードルを解決していくために、国は中型ドローン(25kg~50kg程度)、大型ドローン(~100kg程度)、空飛ぶクルマ(100kg以上)といったステップを踏んで、技術の確立や法律やルールの策定を行っていく方向で進み始めている。それが今年度の国土交通省や経済産業省(NEDOを含む)などの予算においてアサインされているものとなっている。
「ドローン」に関しては、2015年から進められてきた人口集中地区での目視外飛行に関してのルール(操縦資格や機体認証)が一定のゴールに達したこともあり(その内容の妥当性に関しては引き続き検証していく必要があるものの)、次は「空飛ぶクルマ」に関して、同様なルールを策定していくという命題が生まれたこともあり、こういった法律やルールを司る官庁は一気にその方向に走り出している。そして、その一旦のターゲットが大阪万博(2025年)である(ドローンも、そして、自動運転車も、その一旦のゴールは東京オリンピック<2020年>だった。新型コロナもあり、そのゴールは曖昧になってしまったけれど)。
ここから現在のドローンのルールや法律に加え、どういった項目が必要になっていくか議論が重ねられていくとともに、その検討のための「空飛ぶクルマ」が開発されていくのだろう。
しかし、現在のドローンでも同じだが、実証実験で使える機体と実運用に耐えられる機体との差は大きい。それは何らかの製造に携わっている人にとっては、プロトタイプとマスプロダクションの間に大きな差が横たわっていることを理解するだろう。そんな意味では、「空飛ぶクルマ」が現在の中型ドローンや大型ドローンの延長線上にあるのかといったことさえ、揺らいでくる。
とにもかくにも、「空飛ぶクルマ」の実現のためには数千億では足りない、数兆円の開発コストが必要になってくることも想像される。その前に、それを実現しうるリソースが日本にあるのかもよくわからない。
いずれにせよ、そこに対して国が投資し始めている中で、現在のドローンでの物流をきちんと立ち上げるための事業計画は真剣に考えていかねばならないだろう。それが「空飛ぶクルマ」の第1歩になってくる。(もしかしたら、その事業は日本での実現を考えるより、海外の適した環境での立ち上げをまず考えたほうがよいかもしれないが。<Ziplineのように>)
「空飛ぶクルマ」の方向にはない「ドローン」のゆくえ
多くのドローンの関連事業者にとって、この「空飛ぶクルマ」はそのビジネスの中心にはならない。ドローン関連事業者にとって理解すべきことは、既に国が支援してくれていた実証実験の予算は途絶え始めており、自らの事業をより実用化、事業化の方向に進めていくということだ。
そこでのキーワードは「取得する/したデジタル情報の活用」である。幸いなことに世の中はDX(デジタルトランスフォーメーション)への投資を加速させている。
特に今回のDXの特徴は、今までのIT化と異なり、サービス産業中心のものでなく、農林水産業や製造、建設・土木といった第1次産業、第2次産業が中心のものになっていっている。それはクライアントサーバー、インターネット、クラウドなどのデジタルデータの連携だけでない、実環境とデジタル環境との接続-それは実環境の管理ということだけでなく、実環境でのロボット活用なども含む-が重要になってきている。
その実環境との接続という役割において、ドローンが担う役割は大きい。それは農業リモートセンシングや点検などは、まさに情報連携の道具としての役割を担っている。
まさにその情報産業の世界はこれまで米国が得意としてきたことであるし、それが加速化している。ドローン関連企業はこの動きはきちんとウォッチをする必要があり、また、場合によっては、中途半端な自社開発はやめにして、そういったソリューションを導入してきたほうが市場参入も早期に進み、日本での市場立ち上げのメリットを得るということもあるだろう。その動きを踏まえて、ドローン関連企業はそのビジネスモデルを再構築しなおす必要が生じてきている。
そこで、「ドローン」そのものにとって重要な点は、その原初に立ち返るが、より使いやすいFlying Cameraがシェアを握るということだ。
この分野においてはDJIが強いエリアであることは間違いがないが、こういったデジタル情報収集端末において、中国企業であることは西側の国にとって不利に働くことは否めない。そのため、米国もMavic相当なものの開発には国をあげて取り組んできた。
日本という国の製造業は、大きなものを作るより小さなものを作るほうが長けてきたように思う。本来であれば、手のひらサイズでより安定的で使いやすい「ドローン」といった領域のほうがそのアドバンテージがあるのではないかと思っている。既にそのアドバンテージも幻想なのかもしれないが、少なくとも「空飛ぶクルマ」よりも開発コストは少なく、また、ルールもさほど難しくならないし、また、一人複数台の利用も視野に収めながら進むことが出来るため、数量上のメリットも出てくるだろう。
もっと未来的な話をすれば、昆虫サイズの自律移動体にデータ収集をさせるというほうが新しい産業を興すことが出来るのではないかという想いもある。
ここでドローンをもう一度、人にとって使いやすい道具-コンパニオンデバイスにしていくような発想の中でドローンのポジションを見直すといったことも重要だろう。