汎用性と高い飛行性能を兼ね備えた機体Matrice 300 RTKに続き、今年は、小型産業用ドローンMatrice 30シリーズを投入しドローン市場を常にリードするDJI。日本国内に控えた法制度の改正や国産ドローン重視の流れの中、日本市場でどのような舵取りをしていくのか日本法人DJI JAPANの呉韜(ご とう)社長よりお話をうかがった。
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産業用途が圧倒的に多い日本市場
ワールドワイドにビジネスを展開するDJIだが、日本市場ならではの特徴はあるのだろうか。国や地域によるドローンの活用傾向を聞いてみた。
呉氏:国によってドローンの活用方法には傾向があり、アメリカや中国はコンシューマ市場のほうが大きくなっています。しかしながら、日本は65%が産業用途(DJI無償付帯保険登録データより)。コンシューマが少ないというのが特徴的です。
また、日本市場ならではの傾向として、農業分野のニーズの高さをあげる。今となっては普及している農薬散布用ドローンだが、DJIにおいて最初に試作機を制作したのは日本オフィスだという。
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呉氏:DJIとして日本で率先して事業展開しているのは農業です。従来から産業用無人ヘリコプターによる農薬散布は行われてきました。DJIにおいて、農業分野でのドローンの活用は中国以外では日本が初めて取り組みました。アジアが中心となっている水田はドローンの活用に適しています。アメリカなどは圃場が広大なのでドローンよりもセスナなどによる農薬散布が効率的です。
農業においては、もともと日本国内で無人航空機を活用した農薬散布市場が成立していたこともあり、DJIのチカラの入れ方も格別なものであった。振り返れば、MG-1(10L)からスタートして現在のT30(30L)への進化、農薬散布だけでなく粒剤散布やクラウドプラットフォームなど、農業分野のドローン活用環境の進化は他分野と比較して特に著しい。
ほかにも、測量や点検分野では各国の事情に合わせてカスタマイズした上で商品やサービスを提供しているとのこと。このあたりの柔軟性と開発・生産能力もDJIが世界規模でシェアを獲得している所以なのだろう。
呉氏:また、そのほかの分野では、測量は中国・アメリカ・ヨーロッパでルールや使うシステムが違います。点検も各国で基準が違うので、それぞれの国に合わせてカスタマイズしてサポートしています。もちろん、日本市場に合わせて商品やサービスをカスタマイズして提供しています。
ユーザーの声を反映し高コストパフォーマンスで勝負する
では、世界市場でシェアを席巻するDJIの強みはいったいどこにあるのだろうか。
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呉氏:ドローンの使い方がどんどん細分化されてきているので、それに合わせてさまざまなペイロード(カメラ等の搭載用センサー類)、ドローンに搭載されているセンサー、飛行時間、飛行性能、衝突防止機能など、さまざまな点において進化させないとなりません。弊社ではそれに合わせてドローンを開発しコストパフォーマンスの高い製品を提供し続けているというのが強みだと考えています。
確かに、DJI製品の進化、及びそのスピード感は群を抜いている。産業機Matrice 200シリーズがデビューしたときには、カメラを2つぶら下げることができ(上方を入れれば3つ)、しかも赤外線や高倍率ズームカメラなどをかんたんに付け替えることができたことに衝撃を覚えた。
しかし、それも慣れると付け替えること自体が面倒(付け替えるたびに着陸も必要)になってしまったのだが、そのころにはMatrice 300RTKがH20Tという光学・高倍率ズーム・赤外線カメラ・レーザー距離センサーが一体となったカメラとともにデビュー。カメラを付け替えることなく、アプリ画面のタップだけでさまざまなカメラを利用することができるようになった(しかも40分以上の飛行時間)。今では小型のLiDARや超高解像度フルサイズセンサーカメラもオプションに揃えられている。
そして、今回のMatrice 30シリーズのデビュー。Matrice 300RTKの高機能・利便性は間違いないのだが、飛行に必要なもの一式を運搬すると大きめのキャリーケースサイズになってくる。
Matrice 30は、Matrice 300RTKの可搬性という弱点(と言ってもそれほど弱点というレベルでもないのだが…)を克服したモデル。LiDARやフルサイズセンサーカメラはないものの、H20T同等の光学・高倍率ズーム・赤外線カメラが一体となった小型カメラが、Mavic 3を一回り大きくしたレベルの機体に収まっている。点検用途で産業機を導入するならば Matrice 30があればだいたいのことは事足りるのではないだろうか。そして、導入費用もMatrice 300RTKの6〜7割程度で済む(構成内容による)というのだから嬉しいことこの上ない。
また、Matrice 30は、国産ドローンで言うと「蒼天」あたりが価格帯・用途として似たポジションにあるのではないだろうか。
呉氏:国内市場でいろいろなメーカーがドローンの開発に取り組んでいくことはとてもよいことだと思っています。DJIとしても負けないようにユーザーのニーズに合わせてどんどん良い商品を作っていくしかないと考えています。
と、冷静に見ていた。蒼天もすでに国内で500機以上が出荷されており、今後のユーザーフィードバック次第で大きく進化していく可能性もある。その時代時代でライバルを変えながら、世界シェア70%と言われる膨大なユーザーからのフィードバックで大きく・早く進化してきたDJI。日本メーカーとの切磋琢磨の中でもさらに進化していくはずだ。
ドローン普及のポイントは人材育成
さまざまな分野・用途でドローンの活用が広がろうとしているが、今後、産業用ドローンの普及を支えるカギは人材育成にあると言える。2022年末には初の国家ライセンスも新設される中、DJI JAPAN の人材育成は今後の展開についてどのように考えているのだろうか。
呉氏:人材育成は不可欠と考えております。2016年よりDJI CAMPを提供し続けており、当初なかった測量の内容についても今では追加しています。DJI製品特化した民間資格であるDJI CAMPに新たにDJI CAMP ENTERPRISEを新設いたしました。
DJI JAPANが指定するエンタープライズ製品むけ導入カリキュラムとなり、今後はENTERPRISE製品購入者には各製品のオペレーター講習を受講いただくことで製品の活用を考えております。
現在は機体もさらに進化していますので、まずは Zenmuse L1(LiDARセンサー)などレーザーを使う教育プログラムが準備進めております。
また、農業分野では農薬の使い方まで教える必要があるのですが、農薬も年々変わってきているので教育プログラムもどんどん更新していかなくてはなりません。それはメーカーの責務でもあると考えています。
国も国家ライセンスを新設しますが、それは一般的にドローンを飛ばせる技能を証明するライセンス。ドローンで業務をするためには、更に必要な知識や技能を追加する必要があります。DJI CAMPはDJI製品を正しく、より安全に使用できる操縦者を認定するもので、技術情報、操作技術、機体管理など製品全般の技術協力をしています。
機体に対する「研修」だけでなく、ドローンに対する包括的な教育プログラムを提供しているメーカーは数少ない。しかし、メーカーに特化した教育プログラムを提供することでユーザーが安全にツールとしてのドローンを活用することができ、その活用実績が豊富なユーザーフィードバックを生むことで新しい製品に活かされていく。
この好循環を生むには、日々進化する環境やテクノロジーに対する教育プログラムの開発、膨大なユーザーフィードバックに耳を傾けることを時間と労力を惜しまずやりつづける必要がある。この一見当たり前で、しかし難しいことをやり続けているところにDJIの強みがありそうだ。