ついにデリバリーが始まったDJIの新型ドローンMavic 3シリーズ。一部機能は2022年1月のアップデートで開放となる予定ですが、基本的な撮影機能は使える状態にありますので一度実飛行及び撮影をテストしてみたいと思います。Inspire 2同等の4/3インチセンサーを積んだカメラ、5.1K高解像度、4K120fpsのスロー映像、劣化の少ないApple ProRes 422 HQ、ズームカメラ…その実力はいかに?
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機敏なフライトはMavicシリーズNo.1。それでも映像の安定性とプロペラの静音性は問題なし
では、何はともあれ、まずは離陸してみます。機体のホバリング安定性はDJI製品ならではです。そして、静だったMavic 2 シリーズと比較しても静なプロペラ音。プロペラ形状はシンプルになっていますが、静音性はさらに向上しているようです。
また、動きはMavic 2と比較すると驚くくらい機敏です。レビュー環境でのNモードの最高速度は14.7m/s程度だったのでそれほどスピードが速いという感覚はなかったのですが、初速(動き出し)が速い。以前レビューしたAutel EVO IIに近い機敏性に感じました。
上昇&下降スピードも6m/sなので、Mavic 2の動き(上昇4m/s・下降3m/s)と比較するととてもスピーディ。映像撮影時の画角の変化もつけやすそうです。ただ、Mavic 2やPhantom 4 Proシリーズに慣れてしまった方には少し機敏すぎるくらいに思うかもしれません。
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そして、飛ばしていて気づいたのですが、バッテリーがとにかくモチます!一通り飛ばして一息ついて「そろそろ帰還するか…」と思いバッテリー残量を見るとだいたい50%前後は残っているというレベル(個人的な感覚で申し訳ない…)。普段はMavic 2 Proを飛ばすことが多かった筆者なので、その感覚で飛ばしているのだと思います。持っていくバッテリー本数も減らせますし、着陸がかなわない連続撮影(電車・バス等の撮影待機、30分以内の花火大会など)などで重宝しそうです。
ほかにも、DJI FPVで搭載されていた「緊急停止ボタン」もプロポがRC Proの場合は利用できます。ただ、このボタンを押さなくても操作スティックを中央に戻せばかなりの精度で停止してくれますので、本当に緊急でどうしようもないときに押すボタンになりそうです(それが本来的な役割かもしれませんが…)。
Mavic 2から買い替えを悩んでいるアナタへ。Mavic 3 vs Mavic 2 Proの映像比較
Mavic 3よりついに5.1K50fpsの映像を撮影できるようになりました。より高解像度の映像により、ディテールの美しい映像を撮るのもよし、クロップ(切り抜き)をして擬似的なズーム映像として活用するもよしです。ただ、画角が通常のよりも横長になっているのでお気をつけください。
前回のレビュー記事でも紹介した5.1K50fps収録映像。少し横長の画角となる
Mavic 3シリーズが搭載している3/4インチサイズの大きなセンサーは、暗がりの色をより美しく表現してくれます。人間の目は、明るいところに鈍感で暗いところに敏感なので、変化を見るには少し暗めの映像がよいでしょう…ということで、朝方の映像を撮影してみました。手動操縦なのでズレはありますが、同日ほぼ同時刻の同じ場所と高度からの撮影です。
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ほぼ同時刻に同じ場所・高度で撮影。4K30pfs、カメラ設定はオート。Mavic 3の24mmレンズとMavic 2 Proの28mmレンズの画角の差も大きい
同時間帯の撮影映像ですが、Mavic 3の映像は空のグラデーションがオレンジから少し青がかったところまでキレイなグラデーションが表現されています。それに対してMavic 2 Proの映像は、青がかったところがオレンジ寄りで色数も少なく、何よりも町並み部分が黒く潰れ気味です。
今まで、こういった朝日や夕日、花火やイルミネーションなどの撮影をする際にはどうしてもMavic 2 Proでは物足りず、Mavicシリーズと比較すると大掛かりなInspire 2のカメラに頼っていました。特にイルミネーションはMavic 2 Proで撮るとLEDの光が平面的になってしまうという残念感も。しかし、これからはMavic 3で問題なさそうですね。
さらに美しく撮影する D-Log撮影。LUTを使えば手軽に色補正も
せっかくなので、10bit D-Logでの撮影もしてみました。より表現度≒色数が増していることがわかります。
特に太陽周辺の明るさのなめらかな変化や、空のより一層のなめらかな色合いなどは注目です。
多少時間のズレがあるので影やハイライトの入り方に若干の違いはあるがLog撮影のなめらかな階調の変化は必見
Log撮影は明るいところの飛びや暗いところの潰れを防ぐ特殊な撮影方法で、撮影したデータは映像冒頭の"(グレーがかった)眠い"ものになっていまいますが、色補正を加えることで通常撮影時よりも表現力の高い映像に仕上げることができます。自分で色補正をすることもできますが、簡易的に仕上げるならばDJIが提供している「LUT(ラット)」(ダウンロードはこちらから)を映像編集ソフトで読み込んで色補正データとして使うことも可能です。一手間は増えますが、より美しい映像表現を目指すならD-Log撮影はおすすめです。
空撮カメラでスロー映像を!4K120fpsの世界
4K120pの映像を撮れるのもMavic 3の魅力かもしれません。普段、肉眼では見ることができないスローの世界を空撮で見ることができます。
今回、たまたま海鳥が飛び立つ瞬間を撮ることができましたが、4Kで撮影ができると、FHDで作成する映像を想定した場合にはクロップして被写体を大きく表現することができます。
近づきにくい動物や風で動きが乱れてしまいそうな落ち葉や花びらなどは4KからFHDへのクロップという手法もありですね。
4K120fpsの空撮映像は今までにない映像を撮影できる可能性を持つ。クロップしてもFHDでは実質画質劣化がないのも4Kで撮れるメリット
最大28倍のズーム機能。倍率固定での利用がベター
Mavic 3の特長のひとつとしてあるのが、デュアルカメラシステムです。
168mm(24mmの7倍)のレンズがサブレンズとして搭載され、4倍のデジタルズーム機能と組み合わせて、最大28倍のズームが可能です。
ただ、注意点としては物理的なズーム機能を持っているわけではないので、光学等倍(24mm)⇒2〜6倍:デジタルズーム⇒7倍光学(168mm)⇒8〜28倍:デジタルズーム…という劣化のない光学映像は等倍と7倍のときのみ、それ以外の倍率のときはデジタルズーム映像となります。サブカメラのセンサーは1/2インチとなり、4K30fpsまでの撮影となっていますので、メインカメラのような表現力は持ち合わせていないのが残念なところ。
最大28倍のズーム映像。光学とデジタルが交互に組み合わさるためだんだん被写体によっていくような動きではつかいづらい
Mavic 2 Zoomでは光学2倍ズームのカメラ(デジタル併用で最大4倍)をいろいろ活用して撮影することもあったのですが、Mavic 3のズームカメラは遠方の被写体を確認するときに使ったり(そういえば、アプリ上では「探索モード」となっていた)、デジタルズームによる劣化のない7倍の光学映像を倍率固定で使ったりという使い方が適しているように感じました。
高画質Apple ProRes 422 HQ形式を試す!
Mavic 3 CINEは「Apple ProRes 422 HQ」という形式で撮影することもできます。ProResは、MP4やMOVと比較して劣化を少なくする動画圧縮方式で、圧縮ノイズの少ないキレイな映像を保存することができます。ただ、データ量も膨大になりますので、今回30秒程度の映像を撮影しただけでも4GBを超えるデータとなっていました。いつも筆者使っている64GBのMicroSDカードではとてもじゃないですが容量が追いつきません。Mavic 3 CINEには本体に1TBのSSDが搭載されていますが、このSSDはApple ProRes 422 HQ形式の映像を保存するためということになります。
Apple ProRes 422 HQで収録したデータを編集、Apple ProRes 422 HQで書き出してYouTubeにUP。YouTubeではネット回線スピードに合わせて解像度やビットレートが変わるので意味はないが…どれだけ高画質を保てるのかテストも兼ねて敢えて公開中!(1分24秒で18GB)
動画サイトにサンプル映像をUPしても比較できないため、撮影映像データの1フレームをTIFF静止画で書き出し、並べてJPG保存しました。それでもあまり違いはわからないかもしれないですね。
しかしながら、編集業務の中で圧縮されたMPEGデータを切り貼りして再度圧縮データで書き出すよりも確実に画質は保持できますし、そもそも業務の中ではProRes収録指定やProResでの納品を求められる場合もあります(ハイエンドの場合はさらにRAWデータ収録を求められる)。そのような必要がある人にとっては、高額と言う方も多いMavic 3 CINEは必須のアイテムとなるでしょう。逆にSNSやYouTube等の動画共有サイトへの公開がメインの方はCINEモデルはオーバースペックかもしれません。Apple ProRes 422 HQ でアップロードはできますが、公開時に映像が圧縮やリサイズされてしまうためせっかくの高画質をいかせません。
また、データの取り出しは高速なUSB-Cケーブルを使って機体とPCを直接接続して行います。データ転送はとても高速なのでそれほどストレスはないのですが、贅沢を言うと、機体の電源を入れなくても転送が可能な仕様か、機体内蔵SSDを取り出せるようにしていただけたらより良かったように感じます(現状はデータの取り出し時に機体電源を入れないとならない)。
従来の高級機がMavicサイズに凝縮。コスパの良し悪しはユーザーの選択次第
Inspire 2レベルの機能まで取り込んだ感のあるMavic 3シリーズですが、価格と機能のパフォーマンスは使う方によってだいぶ変わってくると思われます。ご自身の映像制作環境とよく照らし合わせ、必要な機能を持った組み合わせで購入する必要がありそうです。Apple ProRes 422 HQの利用頻度が低いユーザーは「Mavic 3 Fly More Combo」に別売「RC Pro」プロポを組み合わせるという選択肢もあるのではないでしょうか(CINE Premium Comboよりも110,000円安い)。
ただ、このMavicシリーズの手軽なサイズ感で3/4インチセンサーの映像を撮影できるのは何物にもかえがたい魅力。
Mavic 3によってクリエイターのクオリティが上がり、また、新たなクリエイターが多く誕生するのは間違いでしょう。後編もお楽しみに!