9月24日、iPhone13シリーズが発売されました。
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発表前には動画性能が向上していると噂されていましたが、発表会でアナウンスされた新機能は我々ユーザーをワクワクさせるものでした。そんな中でもわたしがiPhone13 Proシリーズで注目しているのは、
- Apple ProRes
- シネマティックモード
の二つの機能です。
ProResはこの記事を執筆している10月10日時点でサードパーティアプリのFilmicProで扱えるようになっていることから、正式リリースはもう近いと思います。
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もう一つの注目機能であるシネマティックモードについては、アップル発表会で紹介された次の動画をご覧いただくことで面白さは伝わると思います。
アップル シネマティックモード サンプル映像
シネマティックモードで撮影するとピントの合う被写体を次々に変更できます。どの人物、あるいは何に注目すべきなのかが簡単に伝わるのです。
これは従来のiPhoneシリーズにあったポートレートモードが動画で利用可能になったということに他なりません。
被写界深度(DOF)の常識
カメラに於いてピントの合う奥行き幅のことを被写界深度、英語ではDepth Of Field(DOF)と言います。
センサーサイズが小さいカメラはこの被写界深度の幅が広く、写している被写体の全てにピントが合います。逆にセンサーサイズが大きいと被写界深度が薄くなり、例えば複数人が奥行き方向に並ぶとその中の一人にしかピントが合わないといった映像になります。
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つまりiPhoneのような小さなセンサーを搭載したスマートフォンカメラでは被写界深度の浅い、先に紹介したアップルのサンプル映像は撮れないはずなのです。
なぜiPhone13 Proは「ボケ映像」が撮影できるのか?
iPhone12以降のiPhone ProシリーズにはLiDARスキャナという、被写体とiPhoneカメラとの距離を測る仕組みが搭載されており被写体を二次元ではなく奥行き情報を含めた3次元で認識可能です。この深度情報とAIを使うことでピント位置や被写界深度のコントロールが可能になっています。
今や多くの人がミラーレスカメラを使って動画を撮っていますが、もともと静止画カメラで動画を撮り始めた人たちはボケ映像が欲しくてセンサーの大きな静止画カメラを使い始めたという経緯があります。
その当時の一般的な動画用ムービーカメラはセンサーサイズが小さくボケ映像は思ったようには撮れませんでした。そんなところに動画機能を搭載したCanon 5D Mark IIが登場したことでボケ映像を使いたいユーザーが一気に5D MarkIIになだれ込みました。Canon 5D Mark IIはボケ映像マニアにとってのゲームチェンジャーだったのです。
それ以降、「被写界深度の浅いボケ映像を撮るにはフルサイズセンサー搭載カメラ」が常識だったわけですが、今回のAppleが発表したシネマティックモードによりそういった高価な機材を使わず、iPhoneだけでボケ映像が撮れるようになったのですから、これが次のゲームチェンジャーになる予感がします。
10年前、iPhone4に独自のハードウエアでシネマティックモードの実現を試みた
今から10年前、iPhone4が発売された頃、私はこの被写界深度の浅い映像をiPhone4で撮るためのDOFアダプタを開発しました。
このDOFアダプタは、キヤノンEFレンズをiPhoneで利用できるようにするアダプタで、下の動画はその当時iPhone4とDOFアダプタにキヤノン50mm F1.8レンズを装着して撮影しています。
10年前のぼんやりした映像ですがボケのコントロールが出来ていることはご理解いただけると思います。
このDOFアダプタの仕組みについてはこちらで解説しています、興味のある方はご覧ください。
このような苦労をしてようやく手に入れた機能、しかしながら仕組み上、あまりクリアな映像は撮れませんが、それでも面白い表現ができることに興奮しました。
アメリカでこの製品を累計約3000台販売しました。当初予想では30台も売れれば御の字だと思っており製造体制はわたしを含めた三人での手作り、連日夜なべをしながら製造していたことを思い出します。
寄せられたコメントには批判が多かったのですが、それでも「こういった機能を待っていた」とか「これで一眼は不要になる」と歓迎してくれるコメントもありました。もちろん実際の映像をみれば一眼とは比べられないのですが、それでもそこに面白さや未来を感じてくれた人がいたのです。
シネマティックモードが今後のカメラに及ぼす影響
アップル創業者スティーブ・ジョブズが2011年10月5日に亡くなってからちょうど10年経過しました。この10年間で最も進化したのはAIを始めとしたソフトウェアではないでしょうか。
例えば、以前は手ブレ補正はハードウェアが優れていて、ソフト手ブレ補正はあくまでも補助的なものという認識でしたが、いまやハードウェアを凌駕するレベルのソフト手ブレ補正が出現しています。
またナイトモードにおいては人の眼よりも明るく撮影ができ、さらにノイズ低減できているのはコンピュテーショナルフォトグラフィーの成果です。
十分な資金のない学生や若い人たちが映画撮影の際に高価な機材を揃えず、iPhoneだけでシネマティックモード撮影ができるのは画期的です。 何年かしてこのシネマティックモードがもっと成熟した時には「昔はボケ撮影も苦労したねぇ」なんて話しているかもしれません。
もう一点、蛇足ですが、先に話したDOFアダプタを作った後に発売したのがこのTriEyeというiPhoneカメラの画角を3種類に変更できるアダプタでした。クリップ式のレンズは使うのが面倒であり、ワンタッチで画角を変えるにはどうしたらいいかと考え開発したものです。手前味噌ではありますが今でもカッコイイデザインだと思います。今やiPhone 13 Proは3つのカメラを搭載しており、このようなアダプタも必要性はなくなりました。
このようにiPhone 4の時代にわたしが苦労して実現しようとした2つの機能が、10年の月日を経てiPhone13 Proに搭載されたことは非常にうれしく、感慨深いものがあります。
スマートフォンカメラの進化がコンパクトデジカメの存在意義を脅かしたことは明白ですが、今回のシネマティックモードはその流れを加速し、もっと上位モデルまで脅かすことになる気がします。
もちろんドローンなど小型機器に搭載されるカメラもスマートフォン同様の進化が進むのではないでしょうか。