以前から、ドローンレース界で活躍される方々のマインドセットに、直感的に惹かれていた。そんななか、コロナ自粛生活が始まったのだが、SNSで見かけるドローン×桜の映像には心が癒された。WTWオンラインドローンレースには“新たな日常”も垣間見えた。ドローンキャリアコラム第3弾では、株式会社ドローンエンタテイメント代表 ドローンレーサー横田淳氏と、WTW運営メンバーMAD X氏に直近の取り組みを訊いた。
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ドローンならではの日本の桜をオンラインお花見
ドローンエンタテイメント代表 ドローンレーサー横田淳氏
ドローンエンタテイメントが、「桜ドローンプロジェクト2020」を発足したのは、2020年1月。桜前線とともに移動し、日本各地の美しい桜景色を4Kドローンで撮影して、本当にお花見をしているような感動体験を、各地の自治体やクリエイターと共創するというチャレンジだ。
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新型コロナウイルスによる世界情勢を鑑み、撮影ツアーは中断したのだが、日本全国50数か所で撮影できたという。これまでにない多様な角度や視点、スピード感で撮影された桜の魅力が、1つの動画にまとめられ特別一般公開された。
オンライン花見YouTubeリンク
全ての撮影予定をこなせなかったわけだが、横田氏いわく“必ずしも逆風だけだったわけではない”という。自然に還った満開の桜を撮れたのだ。
横田氏:例年なら出店が多く景観が崩れていたところが自然本来の姿に戻りありのままを撮影することができたり、うるさいくらいに鳥が囀り回るなど、自然が生まれやすくなっていた。各地の自然を記録するという観点でも、価値ある取り組みができたと考えています。
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長野県伊那市 高遠城址公園の桜(株式会社ドローンエンタテイメント プレスリリースより引用)
ドローンという一つの手法が活用された映像表現やアートは、僕らが思っているほど、一般には認知されていない。ましてドローンレースなんて、世の中の99.9%の人は知らないと思います。
1年、2年、その先を見つめて動いている横田氏は、桜ドローンプロジェクトの構想をこう語る。
地方にある本当に美しい場所やモノをドローンを使った面白い映像表現を通して、世界中の人に感動を届ける。そして、この映像を見た人のたった1%でも“ドローンの映像だけど、ちょっと違うよね”と違和感を持ってくれたら大きな一歩で、ドローンレースの存在に気づき、裾野が広がっていくひとつの大きなきっかけになると考えています。
コロナ自粛の影響で、Web動画視聴時間が伸びているいまだからこそ、“オンラインお花見”でドローンレースの存在を知ったという人もいるだろう。
ドローン×エンタメには「善」しかない
奈良県吉野町のシロヤマザクラ(株式会社ドローンエンタテイメント プレスリリースより引用)
昨年までは、ドローンレースの主催者を増やすために、レースの開催はもちろん、講座やイベントを実施してきた横田氏。桜ドローンプロジェクトでも、ドローン×エンタメの母集団を増やすことを狙った。実際、映像クリエイターなど、ドローン業界外からの「ドローンを教えてほしい」といった引き合いが増えているそうだ。
横田氏の根底には、「ドローンレースの市場を大きくしたい」という数年来の想いがある。普及活動には興味ないと笑いつつ、横田氏は真摯に語った。
いまのドローンレースをピラミッドに例えると、底面がめちゃめちゃ小さいのに、その小さなピラミッドをなんとか周知しようとして、一部のニッチな層を除いて誰の目にも止まらないという状況。そもそもピラミッドを大きくするための裾野を広げて、市場を大きくしたい。市場が大きくなれば、供給過多でコスト高になる現状を打破できる。ドローン×エンタメに関わってくれる母集団を増やすことが重要だと思って動いています。
ドローンレースが一般に広がらない理由を、単刀直入に聞いてみた。法規制、無線免許、コストなどもさることながら、横田氏は「歴史が浅いゆえに、ストーリーが見えない」ことを指摘する。
イチローさんにしても松井さんにしても、小さい頃から積み上げてきた長い体験があり、そこから生まれる哲学やファンや周りのサポートなど、いろんなストーリーがあるわけですよね。そこに人は魅了される。応援する。自分もやってみたくなる。だけどドローンレースには、まだそういうストーリーが存在しないんですよ。ある程度の時間が必要な部分ですけどね。
高知県仁淀川町の仁淀ブルーと桜(株式会社ドローンエンタテイメント プレスリリースより引用)
もともとはITエンジニアだった横田氏が、脱サラしてまで、なぜ不確実な未来を必死に追い続けるのか。どうやら、「ドローン×エンタメには、善いことしかない」ということがポイントのようだ。
僕がやっていることは、今の時点でも、過去においても未来においても、善いことしかない。以前の仕事と比べて、それが圧倒的に違いますね。例えば小学生向けのドローンレースでは、新しいテクノロジーを低価格で経験できる。その中で子どもたちが泣いたり笑ったりするだけでなく、ドローンを通じて社会を知る。
お母さんたちもガラス越しに見て笑ってるけどアンケートを見ると貴重な経験をさせることができたと満足度も高い。僕も楽しいしお金もいただけて、主催の企業さんは新しいコンテンツを提供できてカスタマー満足度も上がる。さらにはその体験は、遊びにも学業や職業の選択にも繋がるし、事実中学生でも仕事をもらうこともできる。
写真の撮影にしても、早朝から三脚を据えて場所取りをしなくても、空を飛べば良い画角の撮影スポットは無限にある。それ以外にもドローンはいいことだらけでスマホ並に普遍的な便利なツールなのに、手を出せていない人がいっぱいいる。面白さや価値が十分に伝わっていない。そのギャップこそ、可能性の塊なのだ。
このギャップを解決してファンを増やしていったら、面白い市場になるし、ビジネスが生まれて、僕がやっていることに実ると考えています。まずは、どれだけ自ら楽しめるか、ドローンレースをフックにした仕掛けで、どれだけ面白いと感じる人を増やせるかが重要ですよね。
WTWオンラインレース開催へ
Wednesday Tokyo Whoopers(WTW)開催の様子
そんな横田氏から機体の組み立てを教わったこともあるという、ママドローンレーサーしろまい(白石麻衣)氏が代表をつとめるドローンコミュニティWednesday Tokyo Whoopers(WTW)でも、見逃せない動きがある。
WTWは、毎週水曜日を中心に、東京をベースに活動するTiny whoopの集い。会場は、メンバー制のワークスペースTONNEL TOKYO(東京都品川区)やFabCafe(東京都渋谷区)などさまざまだ。誰がいつ訪れてもOKという安心感が魅力で、私も子連れで何度かお邪魔した。
リアルに集まって飛ばせる場所の提供、その場で生まれる人と人との交流を大切にしてきたWTWだが、緊急事態宣言が発令された直後の4月8日から、毎週水曜の集いを「オンライン」に切り替えたのだ。
4月16日に行われたWTWONLINE CUP01のYouTubeライブ配信の動画
WTW ONLINEでは、実際のコースを3Dデータ化してFPVドローンレーシングシミュレーターVelociDrone(ベロシードローン)にアップし、参加者はコースデータを各自ダウンロードして、ネット経由で参加する。チャット機能やランキング表示があり“集まってる感”を味わえるほか、チャットに入力されたコメントが音声同時翻訳機能まで装備されていた。
私もへなちょこながら何度か参戦させていただいたのだが、コース1周に3分もかかるようなド素人が、日本最速レベルのレーサーが所属するJAPRADARの面々と一緒にレースをしていることに気づいたときには、かなり興奮した。これは、オンラインならではの“付加価値”のひとつかもしれない。
探究心、そしてGIVE&GIVE
レースの実況をするMAD X(松留貴文)氏。WTW ONLINEでも、実況や運営に、レーサーとして自らも参加し大忙しだ
WTWがオンラインレースを始めた速さには驚いたのと同時に、絶対にMAD X(松留貴文)氏の“仕業”だと思った。
MAD X氏は、2018年からWTWにジョインした運営メンバーの1人で、ドローンレースラップカウントと演出を同時実現したシステム、通称「マッドシステム」を開発したエンジニアだ。
これにより、レーサーの視界をリアルタイムに観客が見られるほか、レース中の順位も分かりやすくなり、レース観戦の魅力は格段に上がった。東京モーターショー2019で行われたドローンレースでも採用されたほか、海外からも使用許諾の問い合わせがあるそうだ。
そんなMAD X氏は、普段は大手電機メーカーでシステムエンジニアとして働いている。実は、ソフトウェア開発のほかにも新規事業を手がけており、一時期は2年で40数回も、ハッカソンに出場していた経験がある。「とりあえず形にする」爆速開発はお手の物だった。
オンラインドローンレースシステムも、「1〜2日で開発した」というMAD X氏だが、そこにはある想いがあった。
MAD X氏:WTWは、飛ばす場所の提供をしているけど、東京以外に住んでいるメンバーは定期的には集まれません。東京に来るにしても、交通費や宿泊費がかかってしまう。新型コロナウイルスの前から、遠隔でドローンレースに参加できる仕組みを作りたいと考えていました。
もちろん1人で全ての開発をしているわけではない。本気で遊ぶドローンレース仲間達による、よりよい場づくりとシステム開発への探究心、1にも2にもGIVEする精神が、オンラインなのに心地よい熱量と一体感を作っているのだと思う。今後はさらに、物理的な距離の超越を目指すという。
今後は、リアルとシミュレータとの垣根を超えて、レースができるような仕組みも開発していきたい。
5月20日には大阪のフライトベースとのコラボ企画も実現。「オンラインを活かして全国のWhooperたちと交流を深めよう」と呼びかける
最後に余談だが、昨年知り合った小学生の男の子が、ものすごく速く飛ばせるようになっていることも、このWTW ONLINEで初めて知って感動した。
大人が探究心をむき出しにしてスキルをシェアしながら本気で遊ぶ姿を、子供が見ながら一緒に遊べるドローンレースは、キャリア教育の観点からも「善いことしか見つからない」。