筆者は2015年よりドローン・ジャパンという会社を共同経営しているが、ドローン・ジャパンのいくつかある業務の内、中心を成しているのが、ドローンによる農業リモートセンシングである。
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その内容として、作物は米を初めとして、麦・大豆などの穀物以外、野菜、果実、花にまで至り、また、屋外だけでなく、ハウスなどの室内を空だけでなく、地上を走るローバーなどを活用し、センシングを行っており、日本の中ではドローンの農業リモートセンシングにおいて、存在感を示していると思っている。
日本における農業リモートセンシングの歴史
ドローンが普及する前までは、農業リモートセンシングは人工衛星からのセンシングが中心であり、一部、北海道などで、小麦の刈取り順番を決めるために使われていたが、どちらかというと実用というより、研究的な目途が日本では中心であった。
2014年ぐらいから、ドローンおよびコンパクトなマルチスペクトラムカメラが普及する中で、世界中でドローンでの農業リモートセンシングへの試みが拡がってきた。日本では、大学の農学部などの研究でまずは使われてきたが、ドローンおよびカメラの操作の難しさや不安定な要素が多く、一般ではあまり使われてこなかった。
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■ハードウェア(機体とカメラ)の変遷
ドローン・ジャパンでは、2015年から、農業リモートセンシングの実験を行ってきているが、そのハードウェア(機体とカメラ)の変遷を記したい。
2015年
- 国産ドローン+Red Edge(MicaSense社)
2016年
- SOLO(3DR社)+Sequoia(Micasense社→Parrot社)
- Phantom2 Vision+(DJI社)
- Phantom3 Pro(DJI社)
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2017年
- SOLO(3DR社)+Sequoia(Micasense社→Parrot社)(2016年より継続)
- eBee SQ (eBee+Sequoia)(SenseFly社)
- Phantom4 Pro(DJI社)
2018年
- SOLO(3DR社)+Sequoia(Micasense社→Parrot社)(2016年より継続)
- eBee SQ (eBee+Sequoia)(SenseFly社)(2017年より継続)
- Bluegrass(Bluegrass+Sequoia)(Parrot社)
- DISCO-Pro AG(DISCO+Sequoia)(Parrot社)
- Mavic Pro(DJI社)
- Phantom4 Pro(DJI社)+Survey3(MAPIR社)(検証用)
2019年
- Bluegrass(Bluegrass+Sequoia)(Parrot社)(2018年より継続)
- DISCO-Pro AG(DISCO+Sequoia)(Parrot社)(2018年より継続)
- Mavic Pro(DJI社)(2018年より継続)
- Mavic2 Zoom(DJI社)(検証用)
2020年予定
- Bluegrass(Bluegrass+Sequoia)(Parrot社)(2018年より継続)
- DISCO-Pro AG(DISCO+Sequoia)(Parrot社)(2018年より継続)
- Mavic Pro(DJI社)(2018年より継続)
- P4 Multispectral(P4M)(DJI社)
- Phantom4 Pro(DJI社)+MSZ-2100G(SONY社)
ドローン・ジャパンが採用・評価してきた機体とカメラを列挙した。
個々の機体とカメラの説明は割愛するが、個々様々な特徴があり、使ってきた感想を率直にいえば、まさに試行錯誤で色々なトラブルに見舞われ、その対応に奮闘努力したものだ。
特に、Micasense社のSequoiaはMicasense社より直接購入しており、世界の中でもファーストユーザーであったこともあり、多くのトラブルがあり、それをフィードバックすることで、製品改良にだいぶ貢献してきたと思う(汗)
また、ドローンの農業リモートセンシングにおいて、当初はドローンとカメラの動作が連動しておらず、複数のタブレットやスマホを使いながら操作をしたり、それに伴うトラブルも多かった(例えば、カメラが動いていなかったとか、途中で止まったとか)。
そんな意味では、2017年ぐらいまでは、農業リモートセンシングの中身の活用といった部分よりも農業リモセンのドローンのデモを見せるといった機会が多かった。また、ほぼ全部の現場で自分達が出向いて、センシングを行っていた。
機体としてはeBee SQが私にとって初めての機体とカメラが連動したものであった(その便利さにびっくりした)。なお、eBee SQは固定翼であり、大きな面積を1回の飛行でセンシング出来るというメリットがある。デメリットとしては、着陸のスペースとして、25mプールぐらいの大きさが必要なことだ。
私にとって、ドローンの農業センシングという中で、画期的だったのは2018年に発売されたParrotのBlueGrassであった。これはParrotが自社開発したBlueGrassという機体にSequoia(当初MicaSense社のブランドであったが、親会社のParrot社に移管したカメラとなる)を組み込んでおり、自動飛行ソフトウェア(Pix4D Capture)で設定した農地を自動で航行し、その飛行に連動してカメラも撮影を行うということで、これによりかなり使いやすくなった。
また、農業リモートセンシングというとマルチスペクトラムカメラでNDVIという植生指数で分析を行うことが知られているが(詳細は後述)、2018年ぐらいから通常のRGBカメラでの分析にも力を入れ始めた。このRGBカメラの分析であれば、通常の空撮機(PhantomやMavicなど)で農業リモートセンシングが可能になり、センシングコストも安くなり、また、操作もより簡便になる。
そして、この2020年にDJIがいよいよ農業リモートセンシング専用機P4 Multispectral(P4 RTKの機体にDJIが開発したマルチスペクトラムカメラが搭載されたもの)が発表された。また、この2020年のシーズンにおいては、SONYが米国で先行提供しているマルチスペクトラムカメラMSZ-2100Gの様々な検証を行う予定であり、興味ある方はお声がけください。
DJI P4Mクイックレビュー
P4Mに関しては、既に何度か飛行させており、その性能評価をしている。機体はP4 RTKをベースにしており、DJIが自社開発した6眼のマルチスペクトラムカメラを搭載している。
6眼の中身は、Red Green、Blue、可視光(RGB)、近赤外線、レッドエッジとなっている。
事前準備として、以下のソフトウェアが必要となる。
- DJI Assistant2 for Phantom4(PCベース)
本体、プロポのファームウェアアップデートを行う。飛行ログ解析も可能。 - GS Pro (Professional)(iPadベース)
機体のアクティベーションを行い、DJIアカウントでGS Proにログイン後、コードが利用可能との通知(通常有償だが、1年分の無償ライセンスが紐付け)。 - DJI Terra(Basic)(PCベース)(PCスペックに注意)
PCベースのアプリケーションで2Dの画像合成や植生指数化を行う(通常有償だが、1年分の無償ライセンス)。 - 本体には機体保険も含む保険であるEnterprise Shield Basicが1年間付与
■操作方法
・iPad+GS Proで設定および操作
・P4Mを接続し、DJIアカウントでログイン
DJI GO4などのコントロールソフトサポートしていない。全てGS Proで設定。
・各種設定(キャリブレーション、フェールセーフ、カメラなど)
この設定が終えると、手動で飛行させることが可能(RGBモードとNDVIモードの切替可能。撮影記録は静止画のみ。ただし、裏技として、iPadの動画録画機能で動画も保存可能)。
・ミッション作成(GS Proと同様)
・自動航行(GS Proと同様)
■データ
・他のDJI製品通り、100MEDIAフォルダに連続で撮影
(0010<RGBもしくはNDVIのJPEG>からスタート。<0011、0012、0013、0014、0015が各バンドのTif>次が0020に)
・解像度:1600×1300、JPEGは980KB程度、TIFは4MB程度のため通常1ショット21MB
Tipsとしては、他のDJI機でも同様だが、“100MEDIA”というフォルダの名前を飛行ごとにRenameすると飛行ごとにフォルダ管理が出来る。
■画像合成
・3rdパーティの各種画像合成ソフト(Pix4DやDroneDeployなど)で可能だが、DJI TerraでもPC上で行える
・DJI Terraであれば、現場で画像合成および植生指数化が比較的短時間で行える
RGB
NDVI
■考察
(長所)
・データ取得の操作の簡易さ
・カメラもジンバル付きで画像も安定
・NDVIのライヴ映像(P4MをOnにすれば、その場でNDVI化した映像を見ることができる)
・DJI TerraはPCにはなるが、現地で画像合成・植生指数化まで可能なので、クイックなアクションにつなげることが出来る
(短所)
・GS Proのみの対応のため、使い勝手に戸惑う
・DJI Terraの機能が少ない(例えば、過去比較などしにくい)
ライヴでNDVIを見ることが出来る機能は画期的ではあるけれど、実際の使用用途に関しては、検証中。近距離では6眼ということもあり、ズレが出る。
まだいくつかのバグも散見されるようだが、圧倒的に使いやすいモデルになっており、農業リモートセンシングが非常に楽になった。また、リリースしてから半年ほど経過する中で、3rdパーティの画像合成ソフトなどの対応が進んできている。
農業リモートセンシングの流れ
農業リモートセンシングは以下の流れで進んでいく。
画像合成は通常のオルソ画像化であるが、農業で使うデータの多くは2次元でOKなので、3次元化ほどの緻密さは必要がない場合が多い(農地測量の場合はその限りではない)。
植生指数化は、各波長の植物に対応した反射率の違いにより、その状態を見やすくするものだ。代表的なものは、NDVI(エヌディーブイアイ、Normalized Difference Vegetation Index)だが、これは近赤外(NIR)と赤(RED)の葉の光合成状態による反射率の違いによる中で、葉の生育状態を示すもので、以下の式で計算される。
NDVI=(NIR-RED)/(NIR+RED)
解析のステージにおいては、植生指数や画像認識などの手法を使いながら、各目的のためのレポーティング作業を行う。この解析やレポーティングというものが活用ユーザーにとっては一番重要なものだ。
そして、各農家やその他農業関連のユーザーにとってはその解析を受けて「アクション」を起こすという部分が重要であり、逆を返せば、農業リモートセンシングをする目的は、この何らかの「アクション」を補助することであり、それ以外のところは手段に過ぎず、昨年ぐらいからリモートセンシングが容易になってきているが、本質的な意味において、この手段が簡便化されてくる中で農業リモートセンシングが本格化していく動きになるだろう。
農業リモートセンシングの目的
農業リモートセンシングの目的を考えるときに、まず重要なのは、対象である。対象としては主に3つあり、(1)農家、生産者(2)農協、自治体農政部、農業設備業者、損害保険会社(3)商社、食品加工、レストラン、スーパーなどの観点から捉えることが必要だ。
(1)農家、生産者
- 収量増
- 品質向上
- 病害虫抑止
- 作業軽減、生産性向上
→営農、農機連動
(2)農業設備業者、損害保険会社
- 農業設備故障
- 災害/ダメージ調査
→管理システム連動
(3)商社、食品加工、レストラン、スーパー
- 収穫予測(収量、時期、品質)
- ダメージ調査
→社内システム連動
農業リモートセンシングの今後
農業リモートセンシングというと農家にフォーカスが集まりがちであるが、実際は農業界全体の中で非常に重要なツールになってきている。現在、各産業の中でデジタルトランスフォーメション(DX)が注目されてきているが、欧米では、農業の分野でドローンを活用したデジタルトランスフォーメーションが進んできている。
米国でのカリフォルニア州のコーンフィールドでは、ドローンを活用してフィールドを定期的にモニタリングしている。これにより、灌漑の故障や病害虫の発見、収穫適期の判断、収量の予測などに使われ始めている。また、そういったドローンの飛行データを定期的に収集して分析することで、特定の地域などの詳細な農地データや作物データを管理できるようになる。
そのデータによって、商品加工業者や大手スーパーマーケットなどでは、今まで自社倉庫に作物が入るまで確定しなかった作物データが早くから予測可能になり、物流や倉庫手配、加工工場でのライン計画、マーケティング活動などの多くの部分での効率化やコスト削減などに大きく寄与するものだ。
今までも、天候不順や異常気象の中で、農地情報の管理に農業界全体で注目が集まってきてはいたが、今回の新型コロナウイルスの影響により、人手の不安定さや物流や貿易の混乱により、なお一層、農業界において、農地情報の管理は重要になっていく中で、ドローンの農業リモートセンシングでの情報は各農業界にとって、必要な情報となっていくだろう。