「Drone Talk vol.01」質疑応答の様子
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空・陸・水中のロボティクスの先人達に訊くことで、彼らはどうキャリアデザインをしてきたのか?キャリアコラム第1弾は、ドローンスクール卒業生4名が各界での活躍と最新情報を語ったイベントレポート。
ドローン×スタートアップ、ドローン×起業、ドローン×地方創生、ドローン×異動、それぞれの進路から浮かび上がった「共通項」とは—。
ドローンを起点に「自ら事を起こす」
2月22日、デジタルハリウッドロボティクスアカデミー(以下:デジハリ)で「Drone Talk vol.01」が開催され、デジハリを卒業しドローン各分野で活躍する4名が登壇。
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卒業後の取り組みといまの仕事について聞く中で、彼らの「共通項」に気がついた。1つは、2017年〜2018年に学び始めたこと。もう1つは卒業後に、ドローンを起点に「自ら事を起こす」。いま、こうして活躍を報告するに至るまで、年単位のたゆまぬ努力があったのだ。
しかし努力とはただすればいいというものではない。これまでの自身のキャリアを踏まえ、合理的な努力を積み重ねることが大切だ。同イベントの講演を聴いて、改めてそう思えた。4名の事例を紹介したい。
ドローン×スタートアップ
システムエンジニアというキャリアを生かすべく、ドローン・ジャパン主催 ドローンソフトウェアエンジニア養成塾にも“自腹”で通った。現在は同塾で講師も務めている
ドローンスタートアップ、アイ・ロボティクスに転職した我田友史氏は、2020年2月にOsaka Metroでの導入が発表された「狭隘部ドローン点検サービス」の立役者だ。2017年デジハリでドローンの知識と操縦方法を学んだあとは、「経験を積もうと思った」という。
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バッテリー試験やドローン体験会のスタッフ募集には、積極的に手を上げた。平日は大手コンピューター販売会社のシステムエンジニアとしてPMの責務を果たしながら、土日はドローンに関わることをひたすらやった。2018年8月、銚子市の「海難救助コンテスト」では、PMのスキルを生かして自ら企画と運営に携わった。
我田氏は経験を積むうえでのポイントをこう話す。
我田氏:自分は何ができるか、まずGiveすることが大事。Takeはそのあと。いろんな体験を積んで、それをSNSで発信することで、新たな人ともつながれる。
実は背景には、ドローンを活用した新規事業で会社に貢献したいとの思いがあった。残念ながら新規事業提案は「まだ早い」との経営判断が下ったが、「目標から逆算して積み重ねた経験」があったからこそ、スタートアップに転職し新規事業始動にこぎつけたのではないだろうか。
ドローン×起業
空撮が測量に役⽴つポイント解説、オート設定での写真測量など技術教授まで独⾃のサポート領域は幅広い
同じくこれまでのキャリアとドローンを掛け合わせて、起業したのは高山ドローンリサーチ代表 高山誠一氏。航空測量会社に10年勤務、2017年デジハリ通学を経て、2019年に念願の起業を果たした。
同社のFacebookを見ると、起業前2018年からのアウトプット量がすごい。ドローン関連および測量関連の60本近いナレッジコンテンツを、日次または週次で定期配信した。空撮動画のSNS投稿も活発。ウェブメディアでの記事執筆も行っており、「空撮と測量、双方の橋渡し役」だと一目でわかる。
高山氏:起業は、自分で自分の人生を選ぶ、究極のカードだと思う。
高山氏は、生活レベル、安定性、収入が著しく下がった一方で、裁量はずば抜けて上がったことを図解。起業の実情を赤裸々に語る一方で、前職のつながりでの仕事に助けられつつ、デジハリ講師の田口氏らと共著本「空飛ぶプログラム」を出版するなど、「無人移動体のプロフェッショナル育成」というミッションに邁進できる喜びを語った。
田口氏は「測量とドローン空撮の両面で、原理やソフトウェアのことも分かっている、ノウハウも持っている高山氏のような人材は新しいサービスを提供できる」と評し、卒業から2〜3年を経てそうした人材の活躍が目立ってきたことを強調した。
ドローン×地方創生
「今後はすべての美しい村をまわり、地域の魅⼒を発掘したい。もっとスキルアップもしていきたい」と地方からオンラインで参加河⽥⽒の笑顔は最⾼に眩しかった
ドローンの空撮動画を活用し、地方創生領域で活躍するのは、河田愛氏。兵庫県美方郡にある香美町小代の地域おこし協力隊の一員だ。2018年デジハリ通学後は自ら小代をドローン空撮し、インスタのフォロワー数は10,000人を突破した。
小代とは「小さい田んぼ」の意味。山間に広がる棚田の景観は多くのカメラマンを魅了し、小代は「日本で最も美しい村」連合にも加盟している。
河田氏:私がドローンを飛ばせたら、これまで見えていなかった小代の魅力を、もっと発信できるのでは。
河田氏には、スクール選びの段階から自ら撮りたい映像のイメージと明確な目的があった。プライベートで訪れた小代で、地域の空気感や温かさに惹かれ地域おこし協力隊になった「原点」が先にあって、ドローンは「ツールの1つ」だったのだ。
動画作品「天空の棚田」
任期は3年。集大成の1つが、地域のお年寄り向けに実施したドローン映像の上映会だ。ドローンを使って小代の魅力をPRするにあたり地元の方の理解は不可欠だが、1年前は「容易ではない」状況だったという。少しずつ受け入れてくれる地域、理解を示してくれる人が増え、活動を支えてもらった。感謝を伝えるための企画だ。
河田氏:映像を見て思い出話に花を咲かせる姿、「こんなに綺麗なところだったんだ」と喜ぶ笑顔を見て目頭が熱くなった。
地域に惚れ込み、その地域の人と積極的に触れ合い巻き込む情熱と突破力こそ、ドローン活用に限らず地方創生の要諦なのかもしれない。
ドローン×異動
岡崎氏は、「今年こそ農薬散布にチャレンジする」という約束を伯父さんとしているという
某大手通信会社に勤務しドローン関連事業に携わる岡崎信二氏も、2017年デジハリ卒業生だ。「4人のうちで最もリスクを取っていない」と笑うが、通信会社はレベル4(有人地帯の補助者なし目視外飛行)の実現や広域空間における複数機の同時飛行など、難易度の高いドローン活用の環境整備に向けて重要な役割を担っている。業務に関する多くの情報が秘匿情報という重責だ。
岡崎氏:仕事自体が良質なインプットになり、企業や自治体と連携し産官学で新しい価値を創造できる充実感はあるが、自分が知り得た先端技術などの情報は、守秘義務等の関係により自由な裁量で発信することが制限される。
岡崎氏は、大企業での醍醐味とジレンマを語ったが、ドローン業界の最前線で実績を積めることは理想的なキャリア開発。計画的なスクーリングだったのかと思いきや、「たまたま」が重なったという。ドローンに興味を持って学ぶのと同時期に、現所属企業においてドローン関連事業の立ち上げが公表され、デジハリ卒業後に異動を志願した。
意外なことにドローンのきっかけは、プライベートでの1コマだった。愛媛県松山市の実家で82歳になる伯父が、真夏の気温30度を超える朝、家族総出で農薬を体に浴びながら手で撒いている姿を見て、「ドローンがあれば生育状態の監視や農薬散布ができる」と伯父に説いた。デジハリ卒業後も会社の業務とは関係なく、農薬散布専用機「DJI Agras-MG1」の実務実習を北海道旭川で受講、ライセンス取得し、実家での散布に向け準備を行なっている。
「困りごとを助けてあげたい」、「社会課題の解決に貢献したい」という想いが根底にあることも、登壇した4名の「共通項」であるように感じられた。
総括:ドローンスクールは、「エコシステム」に
「やりたいことを仕事にする」ためには、ドローンを起点に「自ら事を起こす」、そしてその経験を通じて人と繋がることが重要。そしてデジハリには、その素地があったのかもしれない。
デジハリで講師を務める田口厚氏(ドローンエモーション)は、4年のときを経て「卒業生のエコシステム」が形になってきたと話し、同イベントに込めた想いをこう明かす。
田口氏:講義や実技で大事にしているのは、「人を通して学びたい」ということ。全く違うバックボーンの人たちと、1つの目標に向かって一緒に学ぶと気づきが多い。卒業生と一緒に仕事をするようになって、より多くの幅広い仕事が“まわる”ことにも気がついた。このことを、入学検討中の方や卒業生とも共有したいと思った。
独自の縦横のつながりから、ドローン人材のエコシステムが有機的に機能し始めたデジハリだが、ほかにもスクールを起点としたエコシステムがきっと生まれているだろう。今後機会があれば、ぜひ取材したいと思う。