テレフォニカの山火事対策アイデア
昨年11月、米カリフォルニア州で「史上最悪」と呼ばれる山火事が発生した。もっとも被害の大きかった都市の名は「パラダイス」で、人口約2万7000人だったこの街のほぼ全体が焼失している。そんな残酷な皮肉もあり、日本でも大きく報じられたので、覚えているという方も多いだろう。
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焼失したパラダイスの街並みのドローン映像
BBCの報道によれば、米FEMA(連邦緊急事態管理庁、米国で大規模な災害や事故の対応に当たる連邦政府機関)のブロック・ロング長官は、パラダイスの被害について、今までに見た中で「最悪の災害のひとつだ」と述べたそうである。
ただカリフォルニア州の山火事は、毎年のように発生しており、それ自体は珍しいことではない。事実、米国版Wikipediaにまとめられている情報によると、1932年以降に発生した大規模な山火事トップ20に限定しても、最近では2012年、13年、15年、17年と立て続けに起きている。なぜ昨年の山火事は「史上最悪」になってしまったのだろうか。
原因のひとつとして指摘されているのが、当然ながら異常気象だ。カリフォルニア州では例年、春から夏の終わりにかけて空気が乾燥し、山火事が発生しやすくなる。しかし2018年は特に降雨量が少なく、秋に入った9月から10月にかけても、例年の数値を大きく下回っていた。
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そして火事のあった11月、この付近を強風が吹き荒れ、発生した火の手が瞬く間に延焼したと見られている。そのため従来の予想を上回る速さで被害が拡大し、山火事の発生を予期していたはずの住民たちの間でさえも、逃げ遅れる人が続出した。従来の早期警戒・報知の体制では、この「猛スピードで広がる」山火事に太刀打ちできなかったのである。
この事件を受けて、世界各地で、山火事への新たな早期警戒システムのアイデアに対する注目が高まっている。その中のひとつが、スペインの大手通信事業者テレフォニカが研究する、ドローンを使った仕組みだ。
山火事のような自然災害から、密猟のような犯罪行為に至るまで、何らかの対象を広い範囲で監視するのにドローンを活用するというアイデアは、もちろん今回が初めてではない。
ただテレフォニカのアイデアでユニークなのは、ドローンを常に滞空させておくのではなく、サーマルカメラと組み合わせ、それで検知した火事発生の疑いをドローンに調査させるという点である。ごく簡単な内容だが、テレフォニカが公式に公開しているコンセプト映像を掲載しておこう。
ドローンによる早期警戒は有効か
このシステムはマドリード・カルロス3世大学で開発されたドローン技術と、テレフォニカの通信技術を組み合わせて完成されたもので、モバイル通信用の基地局、サーマルカメラ、そしてドローンから構成されている。
基地局の塔に設置されたサーマルカメラで周囲の森を撮影、異常な熱が発せられていないかを常にチェックし、火災が疑われる場合にはドローン(同じく基地局内に設置された格納庫で待機している)を派遣して、詳細な調査を行わせるという仕組みだ。
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カルロス3世大学の発表によると、ひとつの基地局でカバーできる範囲は、半径15キロメートルに達するとのこと。これは東京駅を中心とした場合、東京23区をすっぽりと収める円を描くことができるほどの距離だ。
この領域内で異常な熱を感知すると、コンピューターが熱源のだいたいの位置を割り出し、自律型のドローンに発進を命じると同時に、人間の消防員にも警報が送られる。またドローンから送られてくる情報(サーマルカメラと光学カメラで収集されたデータ)も、リアルタイムで消防員に共有される。
現場に到着したドローンに対し、別の場所にいるオペレーターが遠隔で指令を出すことも可能で、カメラの映像を確認しながら適切な位置を飛行させることができる。情報収集が終われば、ドローンに帰投指示を出すだけで、機体は自動的に格納庫まで戻って充電を行う。
本連載の第28回でも消火活動におけるドローン活用を取り上げ、その際にドローンの耐熱性向上に関する取り組みが行われていることを紹介したが、テレフォニカのドローンでは、機体内部の状態を監視するセンサーを取り付け、ドローン自体に異常が発生していないかもリアルタイムで監視するそうだ。
火災そのものを撮影したサーマルカメラと光学カメラのデータ、さらには機体から収集されるセンサーデータをやり取りするとなると、かなりハイスペックな通信が要求されることになるが、そこは大手通信会社であるテレフォニカが保有する資産、とりわけ5G関連技術が活用されている(5Gとドローンの組み合わせによる災害対応についても、本連載の第22回で触れている)。
現在この仕組みは、マドリード自治区周辺で試験的に運用されているとのこと。スペインも山火事の多い地域とのことで、たとえば2017年には、スペインとポルトガルをまたぐ山火事で45人の死傷者が出ている。また米国同様、異常気象による山火事の増加が懸念されており、ドローンの活用による問題の軽減に期待が寄せられている。
この試験運用によって、ドローンと基地局を活用するというアイデアがどこまで有効か、ある程度明らかになるだろう。実運用までには、ドローンが山火事付近でも適切に飛行できるか、また半径15キロという範囲を無事に行き来できる機体を開発できるかなど、クリアすべき課題が多い。1つの国や企業だけでなく、各国での取り組みやノウハウが共有され、実用化がいち早く進むことを期待したい。