FAI公式世界選手権は初開催
ドローンレースが世界各国で開催されるようになり約3年。FAIの公式世界選手権としては初めてとなるFAIドローンレース世界選手権(FAI World Drone Racing Championships)がドローン先進企業のメッカでもある中国深センのスタジアムで開催された。
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日本からは岡聖章選手、音田哲男選手、阿左美和馬選手、後藤純一選手、そして女性選手として白石麻衣選手が日本代表チームとして参戦。日本代表チームのサポートメンバーとして選手や運営に近い位置で観ていた筆者の視点で今回のドローンレース世界選手権をレポートする。
世界34カ国から127名のドローンレーサーが深センに集結
Photo: Marcus King / FAI
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本大会はワールドカップであり、世界トップクラスのアメリカやオーストラリアはもちろん、世界最速と言われる韓国など34カ国の127名のパイロットが中国深センに集結し激戦を繰り広げました。選手の選出は各国のレース成績上位者や選抜レースなどにより決められており、日本においても各レース団体の推薦をもって5名の選手が選抜されました。
ドローンレース日本代表チームメンバー
右から後藤純一選手、岡聖章選手、音田哲男選手、阿左美和馬選手、白石麻衣選手、そしてチームマネージャーとして上関竜矢氏がチームを牽引し、その他国内サポートメンバー総勢14名で日本チームが結成されました。
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ドローンレース世界選手権の厳格なルール
岡選手のドローン。LEDが40玉搭載されており直視できないほどの眩しさ
レースに利用するドローンは当然のことながら、招待制ではないため航空券やホテル宿泊、食事などすべてが各自で負担するのが同世界選手権であり、予め主催者より配布されるレギュレーションにはこれまでのレースにはない初めてのことが多い大会であり、各国の選手は苦労した部分が少なくない。
利用する周波数やそれに伴う機器が限定されたり、ドローン本体のレギュレーションにはLEDが40玉以上で6色以上に可変可能なタイプで上下左右と搭載位置までしっかり設けられている。また安全対策としてのフェールセーフはもちろんのこと、今回特徴的だったのはDJI社の新製品であるHD伝送装置を搭載することを義務付けられた点だ。
阿左美選手の機体。黄色のマウントの上下にあるのがDJI社のHD伝送装置。ベスト64以上の選手は搭載義務がある
パイロットはこれらの準備を終え、予備機を3~5台ほど持参したうえで運営側のチェックを受けエントリーが認められた。当然ながらチェック事項が認められない機体は修正をする必要があり、その場で修理をするチームや設定をしなおしが必要なケースも存在した。
豪華絢爛なだけではない”動く”LEDコース
Photo:Marcus King/FAI
2016年3月にドバイで行われたドローンレース世界戦は世界各国のメディアに取り上げられその綺羅びやかなLEDコースがデザインされたが、今回装飾面がさらにパワーアップされるだけでなくテクノロジー的にも観る人を考えた演出やシステムが利用されている。
Photo:Marcus King/FAI
それらの説明の前に、これまでのドローンレースが抱える大きな課題を一つ説明しておく。ドローンレースは21世紀の新たなスポーツとして世界各国で開催されているがエンタメ視点で考えたときに観客が「視認できないレース展開」が課題として挙げられる。時速100kmをゆうに超えるスピードドローンレースは近くで見る人に迫力を感じさせるが、早いがゆえに目視で視認することは非常に難しい。この3年間、世界各国のレース団体は同じ課題に悩み、機体を大きくしたり視認性をあげるためにLEDを搭載義務化するなど行ってきた。徐々にわかりやすくはなるものの、誰がどこをどのような順位で飛行しているかは明確にわかりづらいという課題があった。
Photo:Marcus King/FAI
今回とても特徴的だったのは、コースの”LED自体が動く”ことだ。ドローンがコースの上を飛ぶとドローンに沿うようにLEDも一緒に動くのだ。例えばドローンの色が青であるならば、青いLEDがコース上ずっと光り続けるということである。
Photo:Marcus King/FAI
上の写真では、緑のLEDが光っているコースとその上をドローンが飛行しているのがわかる。つまり、観客はどのパイロットがどのドローンなのかさえ覚えておけば、ぱっとコースを観てどこに”誰が”いるかがわかるのだ。もちろん会場には大きな誰でも観る位置にあるモニター2つで常にパイロットが何色なのかを表示している。
また、配信面では幾多のカメラを利用し、非常に素早く動くドローンを的確に捉え、スピードセンサーもコースに各種設置しデータ利用し、そしてなにより画面の切り替え表示などの最適なディレクションがなされていており、観たいポイントが表現されていてとても感心させられた。ライブ映像がアーカイブとして残っているのでぜひみていただきたい。
世界初の公式大会で優勝したのはオーストラリアのRudi Browning
Photo:Marcus King/FAI
筆者もドローンレーサーであり国内外の世界大会に多く参戦しているが、本大会のパイロットのスキルレベルの平均点がとても高いと感じた。日本からも世界に通用するトップパイロット達が戦いを挑んだが決勝トーナメントで戦うことができるBEST64に進出したのは5人中2人という結果であり、決勝トーナメントに戦った岡選手、阿左美選手も非常に惜しいところまでいったものの残念ながら途中敗退となった。
そのような強豪ひしめく中、見事初代チャンピオンとなったのが若干15歳のオーストラリアのRudi選手だ。予選を上位通過し、続く決勝トーナメントでは一時クラッシュがありながらも逆転1位ゴールするなど実力だけでなくここぞというときに運も味方する少年だ。決勝では危なげなく1位で逃げ切り優勝し24000ドルを手にした。ちなみに賞金総額はざっと3000万円ほどだ。
また、本大会では個人戦のみならず、女性のみのレース、子供のみのレースなどカテゴリーが別れており、またスピードを競うFPVドローンレースとは別に、100mのストレートコースのスピードを競う「100m走」も実施され、日本代表の岡選手は3.04秒という圧倒的な速さで127人中予選3位という好成績を残していた。
ドローンレースだけではないド派手な演出と工夫
Photo:Marcus King/FAI
大会は2018年11月1日から4日までの4日間行われ、3日夕方から4日は観ている人が楽しめる仕掛けとして様々なエキシビジョンやセレモニーが執り行われ、そこで行われたドローンの編隊飛行ショーには度肝を抜かれた。なお、ドローンの編隊飛行ショーは2日目のオープニングセレモニー、3日目の夜、4日目のエンディングセレモニーと合計3回も行われ、その前後にはアーティストによる演奏やLEDをあしらった飛行機によるデモフライトなどが行われた。
Photo:Marcus King/FAI
また、会場の外ではドローンの操縦体験が多くの行列を作り、無料配布される模型飛行機を遊ぶ子供たちや、実寸サイズのヘリコプターが設置されたシミュレータやAR/VRコーナーなど、より会場のパイロットと一体となるための仕掛けもみられた。
想定以上だった「FAIドローンレース世界選手権」
Photo:Marcus King/FAI
当初、私が伝え聞いていたFAIの選手権とは、とても厳粛なものでエンタメ性を決して重視しない競技性が最重要視された大会であり、どちらかといえば”つまらない”大会を想像していた。しかし、振り返ってみてもこれほどまでに見事なコース設計を行い、ルールに則って、PROTESTという形で抗議を公平に取扱い、厳重な警備体制も含め安全面にも最大限配慮されていた。そして入賞した選手たちには大きな栄誉と多額の賞金が授与された。
主催者目線でみると、もっとスムーズな運営はできたし、興行的・エンタメ的な改善、無線などのテクニカルな部分においては大きく改良の必要はあるだろう。しかし、中国深センのリソースの大きさと成長の速さは本当に侮れない。あっという間にそれらを解決し、ドローンレース業界を牽引する存在になるだろう。今回世界各国のドローンレース主催者とも本大会における意見交換をしたが、全員が口を揃えて中国の圧倒的なパワーをリスペクトしていた。なお今回の大会は、DJIやBMWなどのビッグスポンサーがついているが、予算の多くは深セン市からの補助金であると関係者から話を聞いており、次回の世界選手権も中国で開催される可能性は非常に高いと考えている。
Photo:Marcus King/FAI
今回、深センで行われた世界選手権は本当に面白い戦いが何度もあり、ドローンレースが興奮できるスポーツとして再認識できたとてもよい大会でした。127名の選手達はそれぞれが熱い想いをもってフェアに戦い、ときに悔し涙を流す選手もいました。日本代表の選手も本当に悔しい思いをしていると思います。初めてとなる世界選手権で奮闘した日本代表選手達に大きな拍手を。次の世界選手権、必ずや勝利の国旗を掲げてやりましょう!