伝統的な鎌倉花火大会で、大会初となるドローン空撮
2017年7月19日(水)、関東の海水浴場としても有名な由比ヶ浜(神奈川県鎌倉市)において「第69回鎌倉花火大会」が催されました。そして、この伝統的な花火大会で、史上初となるドローン空撮を筆者の株式会社Dron é motion(ドローンエモーション)で担当させていただきました。
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実は、今年の鎌倉花火大会は春に一度中止の発表がありました。補助金の削減が主な原因だったのですが、地元の方を中心に惜しむ声が多く聞かれ、地元企業などが中心になって立ち上げたクラウドファンディングによって、609人から11,326,000円を調達し、復活開催となりました。近年、伝統的な花火大会が資金不足で中止に追い込まれることが相次ぎ、このような事例は非常に注目されています。多くの人に愛され、そのチカラによって開催された花火大会というわけですね。
今回のドローン空撮の目的は、公式映像の撮影とパブリックビューイング用の生中継素材です。復活した鎌倉花火大会では今後の運営に向けて新しい試みも多く、そのひとつがドローンによる空撮であり、パブリックビューイングです。ほかにも、花火を発射する船台に240°カメラも仕掛けています。このような新しい技術の導入により、花火大会をさまざまな角度から2度も3度も楽しもうという試みが「第69回鎌倉花火大会」の裏側で行われていました。
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ロケハンと飛行計画の作成・飛行許可承認申請
飛行計画の一部。観覧客側にフライトしないルートを設定
■ロケハン
6月初旬、飛行場所および離着陸場所の計画・確保のため現地でロケハンを行いました。2016年の来場者数は15万人とも言われ、安全の確保は最優先で行わなくてはなりません。離着陸場所から飛行場所まで全てにおいて来場者の真上を飛ばないことはもちろん(もともと原則禁止)、来場者から30m以上の距離を確保することも注意して飛行場所および離着陸場所を確定しました。
■飛行エリア設定
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また、飛行エリアについては安全に関すること以外にも、来場者の花火観覧の邪魔にならないことも重要です。ドローンの夜間飛行はLEDなどの灯火が義務付けられています。LEDを光らせた機体が花火周辺をうろちょろすることは観覧する側にとっては邪魔以外の何者でもありません。したがって、弊社で花火大会を撮影する際には、必ず観覧者の邪魔になりにくい、打ち上げ場所を挟んだ観覧側から反対側を飛行エリアに設定します(それでも距離によっては邪魔になってしまうことはあるのですが…)。
■飛行高度の設定
花火大会では飛行高度も重要です。通常の航空法で定められている150m未満の飛行エリアでは、大型の打ち上げ花火が映像に収まりきらないときがあります。そのため今回も東京空港事務所と調整をさせていただき、高高度の飛行を承認(今回は400mまで)していただきました。
これらの計画をもとに国土交通省とも調整、飛行許可・承認をいただいた上で、地元警察署・鎌倉市側とも情報を共有して本番当日を迎えます。ただし、今回の申請も書類の提出から承認まで3週間程度かかりました。準備は1ヶ月以上前から行う必要があります。
鎌倉花火大会当日の準備
パブリックビューイングのためパイロット側と映像配信側の連携も重要になります
当日の天気は晴れ、風速は夕方で4m(地上)ほどありました。少し強い風ではあったものの、夕方は陸と海の温度差で風が起こりやすく、夜になれば弱くなる見通しがありましたので、さほど懸案事項ではありませんでした。むしろ、無風状態での花火大会では花火の煙が滞留し、肝心の花火が見にくくなることがあります。花火大会では多少の風があったほうが美しい花火を撮影しやすくなるのです。
機体の運用は、同時2機体制を作ります。花火大会はLIVEなので、撮りたい一瞬を逃すと二度と撮影できません。映像は迫力のある近景と全体像がわかる遠景を収めたかったため、それぞれを担当する機体を2機同時に運用しました。今回は2オペレーションのDJI Inspire2を遠景に、Phantom4 PROを近景用にフライトさせています。
また、パブリックビューイングの特性上、バッテリー交換などでドローンが飛んでいない空白時間を作るわけにも行きませんので、どちらかが映像を捉えているという状況が必要になります。もちろん、それぞれのプロポからパブリックビューイングのシステムへHDMI出力を行い、パブリックビューイングのコントロール側で映像のスイッチングを行いました。
人的体制はInspire2は操縦1名+カメラワーク1名、Phantom4 PROはもちろん操縦1名です。補助者は2名配置し、そのうち1名が全体の指示を出します。そしてタイムキーパーが1名。タイムキーパーは花火大会のスケジュール表に沿って演目の確認と操縦者への共有、運営側との連絡などを行います。スケジュール管理で何より大切なのはバッテリー交換のタイミングです。鎌倉花火大会は1時間ほどの演目時間があったため、バッテリーは3回(もしくは4回)の交換を想定してスケジュールを組みました。
演目とバッテリー交換のスケジュールは入念に確認と打ち合わせが必要
先ほどのとおり2機同時のバッテリー交換にならないことや、さらには演目の重要なポイント(大玉や水中花火、クライマックス)を逃さないことも重要です。風が少し強かったのでバッテリーの消耗が激しいことも予想され、今回の運用の中では一番難しいポイントでした。
鎌倉花火大会の実際の撮影
筆者はInspire2のパイロットとして従事。タイムキーパーと密に連携して操縦する
撮影自体は大きなトラブルもなく、順調に終わらせることができました。ただ、電波の混雑具合から、肝心のパブリックビューイングが途切れ途切れになってしまったとのことです。これは残念でした。もちろん収録した映像はきれいに撮れていますので、ぜひご覧ください。
■ほぼ完全版
■オープニング
■フィナーレ
ドローン関連の運用では、やはりバッテリーが当初想定していたよりも早く消耗してしまいました。そこは2機のタイミングを見て前倒しでバッテリー交換をすることで対応しています。また、演目自体のスケジュールが前倒したり押したりと計画通りでなかったり、花火の打ち上げ場所や高さもさまざまだったりと、LIVEならではの苦労を上げればきりがありません。しかし、安全に無事故で鎌倉のきれいな夜景とともに美しい花火を収めることができたことはとてもよかったと思います。
資金不足による中止が一転、予定の2,500発を上回る4,000発の盛大な花火で復活開催となった鎌倉花火大会。補助金や自治体の予算に頼るのではなく、一般の方のクラウドファンディングという新しいチカラによって運営され、スタッフも鎌倉に縁のある一流の方々(映像関連は超有名TV番組プロデューサーだったりしました)が尽力されている中に加えていただいたのは、自分にとってもとてもよい経験になりました。
この映像が鎌倉花火大会を2度3度と楽しむためのツールとなり、さらに来年の鎌倉花火大会開催に向けたよい宣材となればありがたく思います。