Inspire 1の登場から待つこと2年。クリエーターの大きな期待を背負って発表されたInspire 2は大きな進化を遂げ、今後ますます需要が伸びてくる4K以上の高解像度での映像撮影現場で大きく活躍する事であろう。
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Inspire 2は機体面でもシステムの二重化、衝突回避機能、FPV機能など大きく改良されているが機体のシステム面の話はプロのドローンパイロットに譲り、カメラマンとしての目線からZENMUSE X5Sカメラに焦点を絞って筆者の感じた事を述べていきたい。
ZENMUSE X5Sの完成度
RED SCARLET-W vs X5Sの動画は上記リンクで確認可能
1:高ダイナミックレンジ
X5Sの最も大きな特徴の1つは高ダイナミックレンジである。カメラメーカー各社は、近年競って高ダイナミックレンジを製品の売りにしているが、メーカー公称値と実測値に大きな差が出る場合がある。海外のカメラレビューサイトCinema 5Dでは、ラボでのダイナミックレンジ試験の結果を発表しているが、カメラ機種によっては3ストップ近くメーカー発表値よりダイナミックレンジが少ない場合があった。
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DJI製カメラはCinema 5Dのラボテストでは良好な成績を残しており、X5Sの1つ前のモデルであるX5Rに関してはメーカー発表の12.8ストップに対し、12ストップの使用可能なダイナミックレンジ(Usable Dynamic Range)が計測された。
X5Sの公表ダイナミックレンジはX5Rと同様の12.8ストップであるが、これは筆者が使ったことのあるカメラで言うと概ねCanon 1D CやC100 Mark IIのレベルである。しかし実際にX5Sを使ってみるとシャドウ部分をかなり持ち上げる事ができ、実測値は不明ではあるが体感的ダイナミックレンジはシネマカメラと肩を並べるほど驚異的であった。
筆者がメイン機として使っているRED SCARLET-Wとの比較もしてみたが16.5+のダイナミックレンジを持つREDともかなり良い勝負をしており、ドローン空撮専用のカメラとしては間違いなく世界トップのスペックを持っていると断言しても問題ないであろう。
2:5.2K RAW
5.2K、オリジナル
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5.2K、カラーグレーディング後
X5Rの収録解像度が最大4096×2160のDCI(885万画素)に対し、X5Sではその2倍近い5280×2972(1569万画素)での映像撮影が可能となった。Inspire 2の発売以来、筆者は様々な現場でX5Sを使っているが、写真のRAWと判別できないぐらい解像感が高い。またX5Sはドローン専用カメラとしては世界で初めて4K/60p対応をしているがこれは非常に大きな意味を持っている。
テレビ用の素材撮影を除き、ドローン撮影で60pのスロー映像を要求される場面はそれほど多くはないが、今後Osmo RAWのような地上撮影用機材が発表されれば、今まではOsmo RAWでFull HDの60pでしか撮影できなかった場面でも、4Kの高解像度の収録が可能となる。これにより他の地上用カメラで撮影した4K素材との親和性も大きく高まるのではないか。
4K DCI、オリジナル
4K DCI、カラーグレーディング後
3:幅広いレンズの選択肢
X5Sカメラになりレンズの選択肢が増えたことも大きなメリットの1つである。X5Sは8種類のレンズに対応しているが筆者が期待しているのはOlympus M.Zuiko 9-18mm/4.0-5.6である。DJI純正の15mmのレンズは、F1.7と明るいメリットがあるものの、ワイドを撮るにはやや画角が狭く、ズームとしては今一歩足りず画角の調整が難しかった。Olympus M.Zuiko 9-18mm/4.0-5.6についてはまだ空撮での検証を未実施ではあるが、35mm換算で20mmのX3やPhantom 3のカメラを凌ぐワイドでダイナミックな空撮や、18mmでの寄った絵の撮影などマルチタスクで現場をこなせるのではないかと思う。
またX5Sの解像度は5.2Kもあるため、REDのようにクロップしてリフレーミングすればさらにズームをかけることができる。レンズの選択肢が増えたことにより、よりクリエイティブな撮影ができるのではないかと考えている。
4:一眼レフ写真の代替
X5シリーズが出るまでは、ドローン写真撮影といえばS-1000などの大型機に一眼レフを載せるしか選択肢がなかった。Inspire 1の登場により写真撮影は容易になったものの、X3カメラの解像度は1200万画素しかなく、センサーも小型であったため、プロレベルの写真とは言い難い状況であった。
1600万画素のセンサーを搭載したX5の登場により、状況は大幅に改善したものの、印刷サイズによっては解像度が足りず、筆者も撮影案件でX5を提案した所、一眼レフに劣るというクライアント意見により候補から脱落したことがあった。
X5Sは写真撮影の機能も改善しておりピクセル数は2080万画素、最大毎秒20フレームのバースト撮影機能を有している。一眼レフカメラで例えるとCanon 7D MKIIなどのミドル機と同等以上のスペックである。一眼レフを搭載した大型ドローンを使わなくても、プロレベルの写真が簡単に撮影できると言う点でも、X5Sはコンパクトながら非常に優れていると感じている。
改善点
筆者はCanon、Sony、REDなど様々なメーカーのカメラを使ってきたが、「メニュー画面がわかりにく」「ダイナミックレンジが低い」「ノイズが多い」「カメラの起動に時間がかかる」などどのメーカーのカメラにも1つや2つの欠点はある。ここからはX5Sで改善した方が良いと思われる点を列挙していく。
1:燃費
X5Sは非圧縮のRAWを5.2Kで収録するため燃費が悪い。116,000円の480GBのSSDを使っても5.2Kであれば15-20分しか収録できず、コストパフォーマンスはお世辞にも良好とは言い難い。X5Sの5.2K RAWとほぼ同等の5K Full FrameでREDで撮影した場合、Web用として使用可能な8:1の圧縮比で撮影すると同容量で128分も収録できる。空撮は地上撮影ほど長回しをしないとはいえせめて3:1程度の圧縮が可能なRAWを今後は導入してもらい、コストパフォーマンスを改善して欲しい。
2:夜間ノイズ
マイクロフォーサーズカメラにフルサイズ並みの高感度を求めるのは間違っているが、人間とはわがまままもので、もう少しだけ夜間・低照度環境で撮影できるように改善してもらいたい。光量にも大きく左右されるが、レンズ開放で夜間でISO 800を超えても暗いような現場ではノイズが多く入ることを覚悟した方が良い。
ただ重ねて述べるがこれはX5Sカメラに限らず、マイクロフォーサーズカメラ全般に言える事であるので、高感度でない事を責めるのはやや酷である。
Inspire 2がもたらす映像世界の未来
ここまでX5Sの良い点、悪い点を列挙していったが、このInspire 2の登場により映像制作のあり方がどう変わるのか?今まではX5S並みのスペックを持つカメラで収録しようとするとCinestar Altaのような高級ドローンにREDやAlexaなどのカメラを搭載するしかなかった。機体が大型でフライト時間も短く、手軽に撮影できるとは言い難い。
また振動の制御が困難で、カメラメーカー公式のドローンを使ったPVを見ても、Phantom/Inspireレベルの安定性を毎回発揮しているとは言い難い。そして何よりも、機材があまりに高価で万が一の事態を考えると、飛ばすパイロットの精神的な負担も大きかったのではないだろうか。
一方Inspire 2は、導入コストもこれら機材に比べれば1/10以下に下がり、Cinema 5Dによると「ARRI Alexaに迫る画質」を発揮する。この点、筆者も同感であり、X5Sはほぼ全てのシネマカメラと肩を並べる画質を担保できると考えている。これは何を意味するのか?これは映画・CMクラスの撮影でも大型かつ高価な撮影機材はもはや必須のアイテムではなくなり、小規模なプロダクションや個人のクリエーターでも極めて質の高い仕事ができる事を意味している。
またInspire 2では安定性や衝突回避機能も充実しているため、筆者のような地上撮影がメインのカメラマンでも十分に使いこなす事ができる。時代は大人数で大きな予算をかけた撮影から、少人数でコンパクトな撮影に移りつつある。X5Sはその時代の流れを最も端的に表している機材ではないだろうか。