ドローンにとって、技術的な側面からも制度的な側面からも、電波は重要なテーマでありますが、日本のドローンを巡る電波関連のルールが動き出そうとしています。その現状を今回は追っていきたいと思います。
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ロボットにおける電波利用の高度化
ロボットにおける電波に関しては、以前より活発な議論が開始されていました。ドローンの、産業での活用が進む中で、高画質や長距離の画像伝送用途等についてのニーズが高まってきています。
総務省資料
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ここでドローンにおける電波利用をまとめておきたいと思います。現状、ドローンにおいては「コントロール」「テレメトリー」「映像伝送」の無線電波が使用されています。コントロールは920MHz帯、2.4GHz帯、テレメトリーは2.4GHz帯、映像伝送では1.2GHz帯(免許要)、2.4GHz帯、5.6GHz帯(免許要)が主に使われています。
筆者作成
現在、電波法施行規則等の一部を改正する省令案が諮問されていますが、その背景は以下のようになっています。
- 災害時等において、人が立ち入れない場所で作業を行うロボットの重要性が認識されるとともに、手軽に入手可能な新しいタイプのロボットが登場するなど、多様な分野でロボットの利用が期待される
- ロボット(ドローンを含む)の遠隔操作や画像・データ伝送には電波が利用されており、現在市販されているロボットの電波利用は、無線局免許を必要としないWi-Fi機器等が用いられているものが多く、より高画質で長距離の映像伝送等、電波利用の高度化・多様化に関するニーズが高まっている
- 政府の取り組みとして、ロボットの積極的活用による我が国の国際競争力を高めるために、ロボットの発展に向けた戦略等が策定。※日本再興戦略(平成26年6月)、ロボット新戦略(平成27年1月)、国家戦略特区(近未来技術実証プロジェクト)等
- ロボットにおける電波利用の高度化にともない、平成27年3月より情報通信審議会において、使用可能周波数の拡大や最大空中線電力の増力等に向けた技術的条件を検討し、本年3月に答申
そこでの電波利用ニーズは以下となっています。
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- 高画質で長距離の画像伝送が行えるように、大容量の通信を可能とすること
- ロボットを一つの運用場所で複数台運用できるように、いくつかの通信チャネルが使用可能であること
- 主に使用する回線の他に、混信やその他の電波伝搬上の障害等の何らかの事情により、当該主回線が不通となった場合に備えて、バックアップ用に別の通信回線が使用可能であること
- 低コストの無線機実現の観点から、使用する周波数は、既存システムに利用されている汎用的な周波数帯が望ましい
ロボットにおける電波利用の高度化に係る技術的条件
(1)使用周波数帯
(1)2.4GHz帯及び5.7GHz帯(メイン回線用周波数)
主に高画質で長距離の映像伝送用の周波数を拡大。
2.4GHz帯においては、日本独自の周波数帯が比較的利用が少ないところであり、ロボット電波利用システムとして、既存の無線LANより送信出力を増力しても既存無線局への影響は比較的少ない。一方5GHz帯においては、各種レーダー及びDSRC(Dedicated Short Range Communications-ETCで使用)の無線システムが利用しているが、無線LANの周波数帯拡張に向けた技術検討が行われている。既存の無線LAN及びDSRCとの周波数と重複しないよう周波数の割当てを考慮すれば、比較的干渉が少ない周波数帯として、約40MHz幅の候補周波数が考えられる。
総務省資料
(2)169MHz帯(バックアップ回線用周波数)
バックアップ用周波数(必要最小限の操縦コマンドや画像(例えばフレームレートを落とした白黒画像)等を伝送)を拡大。
この周波数帯の活用に関して、以下に留意する必要があります。
- 周波数共用を図るために既存無線システムへの運用に配慮し、ロボット無線システム相互間の運用調整を行うことが必要
- ロボット用電波利用システムにおいては、他の無線システムを含めて円滑な運用調整を図るために無線局免許の取得を必要とすることが適当
- 円滑な周波数利用の観点から、ロボット運用者側が主体となって運用調整の仕組み作りが行われることが望ましい
そのため、無線局の免許制度を導入し、無線局監理を行うことが必要となっています。
周波数割当計画の一部を変更する告示案
平成28年7月13日諮問第16号として、周波数割当計画の一部を変更する告示案が提出されました。
ロボットにおける電波利用の高度化に向けて、使用可能な周波数を拡大。
(1)2.4GHz帯及び5.7GHz帯(メイン回線用周波数)
主に高画質で長距離の映像伝送用の周波数を拡大。上空利用で5km程度の通信距離を確保し、例えば人が立ち入れない火山の噴火現場の映像をドローンによりリアルタイムで取得するなどが可能です。
(2)169MHz帯(バックアップ回線用周波数)
バックアップ用周波数(必要最小限の操縦コマンドや画像(例えばフレームレートを落とした白黒画像)等を伝送)を拡大。これによりメインの大容量回線が通信不能となった場合でも、復旧のための最低限の操作が行えます。
(3)70MHz帯(ラジコン操縦用周波数)
従来より、農薬散布用ラジコンヘリ等の操縦用周波数として使用されてきた70MHz帯を増波し、需要増に対応。この内容は「答申受領後、速やかに周波数割当計画を変更する」となっており、数か月の間に、周波数の割当が実施されるものと思われます。5.7GHz帯の利用に関しては、免許が必要になり、その免許は第三級陸上特殊無線技士と言われています(まだ正式には総務省での記載はありませんが、その線は有効な模様)。
無人航空機における携帯電話等の利用の試験的導入
もう一つ、ドローンにとって非常に重要な電波関連の取り組みがこの夏、総務省より出されました。それは携帯電話等(SIM)のドローンへの利用の試験的導入ということです。その利用には以下の背景がありました。
- サービスエリアが広く、高速・大容量のデータ伝送が可能な携帯電話等を無人航空機に搭載し、画像・データ伝送等に利用したいとのニーズが高まっている
- 一方、携帯電話等の移動通信システムは、地上での利用を前提に設計されていることから、携帯電話等の上空での利用に関する受信環境調査を実施したところ、無人航空機に搭載した場合の通信品質が安定的に確保されない場合があり、かつ、上空で利用される携帯電話の台数が増加した場合は、地上の携帯電話等の利用へ影響を与えるおそれがあるなどの課題が明らかとなりました。携帯電話等を無人航空機に搭載して使用することについては、引き続きこれらの課題について検証を行うことが必要と考えている
- こうした状況を踏まえ、携帯電話等を無人航空機に搭載して使用することについて、既設の無線局等の運用等に支障を与えない範囲で試験的な導入を行うもの
総務省資料
現状、以下のような影響および欠点が考えられます。
下りリンク(基地局→上空の携帯電話等)<制御(操縦等)>については、高度が高いほど、基地局密度が高いほど、通信品質が劣化します。上りリンク(上空の携帯電話等→基地局)<データ・画像の取得>については、高度や台数、基地局密度によらず、高品質ですが、上空の携帯電話等の台数が多いほど、基地局密度が低いほど、地上の携帯電話等利用(上り)の通信品質の劣化度合いが大きくなります。
今回の試験的導入に関しては、実用化試験局の免許を受けることで、既設の無線局等の運用等に支障を与えないことを条件に、免許申請の際に提出する試験計画の範囲内で、携帯電話等を無人航空機に搭載した実用化試験が可能です。同免許申請は電話等事業者が行えるので、携帯電話等を無人航空機に搭載した試験を検討している場合は、携帯電話等事業者まで問い合わせ、協議をし、その免許申請した上で、実用試験を行うことが出来ます。今秋より実用試験が実施され、来年以降の活用に向けてルール決めされるものと思われます。
この携帯電話等(SIM)の活用は、米国ではドローンの管制システムの構築にも検討されており、日本でもドローンの管制システムといったインフラでの活用が見込まれるだけでなく、各企業におけるドローンの運用システムにも活用可能で、5kmを超えるような中長距離航行の運用にも非常に重要なものとなってきます。ドローンでの産業活用を行っている方々は、これからもこういった電波関連の動きには注視が必要です。