2016年7月30日および31日の二日間、ドローンパイロットが韓国、中国、マレーシア、インドネシア、シンガポール、ベトナムの計6カ国から秋田県の田沢湖に集結した。日本で初めての開催となる国際ドローンレース「DRONE IMPACT CHALLENGE ASIA CUP 2016」は日本国内からも30人以上が参加した大規模イベントとなった。
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広大なスペースを利用したスピードレース
今回ドローンレースの会場となったのは、グランドゴルフ場を所有する「ホテル森の風田沢湖」で広いスペースにフラッグやゲート、立体ゲートが設置された。テクニカルな操作が求められるコースというよりも、スピードが出しやすいコースであり、いかに速い速度を保ちながらコントロールをするかが勝利への鍵となった。
マスタークラスのコースレイアウト
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FPVゴーグルを装着して行うマスタークラスでは初日に予選が行われ、タイムアタック形式で上位15位まで絞られた。その後の準決勝では3機同時飛行で3周回で順位を競い、1位の選手が決勝へと駒を進めた。決勝には5人の選手が進むことになったが、残念ながら決勝の時点で日本人選手が残ることができず、最終的には韓国のキム ヒョンソプ選手が優勝となった。
日本初となる海外レーサー招致
優勝した韓国のキム選手(中央)
今回、ドローン特区を活用して海外トップレーサーを招待し激しいバトルが繰り広げられたが、この「海外選手の招致」は決して簡単なことではなくこれまで様々な壁により実現困難となっていたことである。その背景として、ドローンレースに関連する日本国内の法律に「電波法」と「航空法」がある。
FPVドローンレースは無線電波を利用して行うが、5.8Ghzの周波数を利用するのが世界的に主流となっている。2016年7月現在、この5.8Ghz帯は日本国内において免許が必要となる周波数帯であり、日本国内のドローンレーサーはアマチュア無線免許を取得し、無線局の開局申請を行い(通常1ヶ月~3ヶ月かかる)日々の操縦などを行っている。これはドローンレース初心者のハードルとなっている。この免許制は日本国内で運用する限り、海外選手も同様だが、海外選手が無線免許を各自取得することは現実的ではなく、これまで事実上、海外選手が日本でドローンレースをすることができない状態が続いていた。
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また、2015年12月に施行された改正航空法で「目視外飛行」が規制対象となっており、FPVドローンレースを屋外で行う場合、日本人であっても国交省への許可申請が必須となる(屋内施設は航空法の規制対象外)。
このような中、今回の大会では仙北市のドローン特区という利点を活かすことで、パイロットごとの申請を必要とせずに「海外選手の国内ドローンレース参加」「航空法に対する許可申請を不要」を実現することができた。海外選手に関しては、主催者から予め用意されたVTX(映像の無線送信機)を用いて、日本国内では許可されていない周波数を特別に利用できる運用が行われた。これには特定無線局の仕組みを用いて実施されたという。
ドローンが同時飛行が3台から5台に!?
通常のドローンレースでは、国内では3機同時、海外では4機同時が主流
さらに今回、ドローンの同時飛行を増やす試みもあわせて行われた。FPVドローンレースに利用可能な周波数は定められており、周波数ごとの干渉などを考慮すると、同時に飛行できるドローンは3台までというのがこれまでのドローンレースであったが、上述のように特定無線局の仕組みによって利用可能な周波数帯は増えたことで、レースの組み合わせによってはこれまでの3機同時だけではなく、4機もしくは5機の同時飛行が実現できる想定だった。結果的に電波干渉の問題などが解決できなかったために実現にはいたらなかったが、次に繋がる事例となったのではないだろうか。
ちなみに、同時飛行数を増やす試みは海外でも行われている。私もレーサーとして参加した「上海ドローンレース」では、なんと8機同時飛行を行うことができ受信状態も概ね良好だった。これらを実現するために、コースレイアウトの調整、予め統一されたVTX(出力25mW)とアンテナ(右巻き左巻きを交互に用意)、そして8機分のグランドステーション(専用受信機)などの工夫が施されている。
ドローン特区、地方の利を活用しよう
今回のドローンレースは海外勢の強さが目立ったが、日本人レーサーのスキルやテクニックが大きく海外レーサー達と離れているとは個人的には思わない。しかし、今回のような「日本で練習がしづらい」スピードコースで思い切り飛行させることや、複数機での同時飛行など、レースを想定した飛行経験が圧倒的に少ないことがレース結果に現れているとも言えるのではないだろうか。
今回のドローン特区、地方の利点が考慮されたこともあり、電波法や航空法の規制が緩和あるいは特別運用を用いてドローンレースを無事開催することができた。つまり、これが大きな一つの実績となることで、これまで難しかった「海外選手の招致(=無線免許不要なレース運用)」「航空法規制」「利用周波数の拡大」に対して大幅に取り組みやすくなったと言える!全国で指定されているドローン特区や、これから地方創生や課題解決を考える地方にも良い事例となったはずだ。ぜひ次につなげてほしい。