インフラ点検コストが20分の1に?
- Advertisement -
期待されるドローン点検について、具体的な効果測定が進み始めた
去る4月8日、自動車部品メーカー大手のデンソーが、RCヘリコプターメーカーのヒロボーと共同でドローンを開発したと発表した。彼らはこれまで培ってきた技術を活かし、強風や降雨などの気象環境、あるいは建築物の近くといった環境でも安定して飛行可能なドローンを製造。これを活かし、インフラ点検分野でのサービス開発を進めていくとしている。
インフラ点検は、ドローン活用が大きく期待される領域のひとつだ。特に日本では、高度経済成長期に整備された道路や橋梁などのインフラが老朽化することで、2037年頃には維持管理・更新費用までもが足りなくなると予測されている。そこでドローンなどのロボットを導入し、維持管理にかかるコストを抑制しようというわけである。それでは具体的に、どのくらいのコスト削減効果が期待できるのだろうか?
- Advertisement -
この件について、近ごろ各所から検証結果が公表され始めている。たとえば米国では、州政府の関係機関が主導する形で、ドローンの効果検証を行う例が増加。米国全州道路交通運輸行政官協会(AASHTO)が2016年3月に行った調査によれば、交通インフラの維持・管理・活用へのドローン導入に関する調査や研究等を行っている州政府機関の数は、既に33に達しているそうである。
そうした州政府機関のひとつが、ミシガン州運輸局だ。彼らは2014年から継続的に、道路行政におけるドローン活用の研究を行っている。その領域は多岐にわたり、道路や橋といったインフラの点検から渋滞状況の監視に至るまで、ドローン活用の安全性や有効性、経済性などが調査されている。そして橋梁点検におけるドローン活用の効果について、このほど具体的な数字が発表された。同局によれば、ミシガン州における標準的な橋梁の点検には、4人がかりで8時間を必要とする。それにかかるコストは約4600ドルとのこと。しかしこの作業をドローンで行った場合、必要な担当者は2人のみで、しかも2時間しかかからない。コストは人間が行った場合のおよそ20分の1にあたる、約250ドルという結果になっている。
ただこのコストには、ドローンの機体購入にかかる費用は含まれていない(検証に使用されたUAVの価格は約4000ドルとされている)。またドローンを使って点検を行うには、ドローンの操縦スキルなど、これまでの点検作業員に求められていたものとは異なる能力が要求される。どのようなスキルが必要かを精査し、必要な教育プログラムを設置して、新たな作業員を育てるための費用といった「立ち上げのためのコスト」は他にも考えられるだろう。これらのコストを考慮に入れる必要はあるものの、点検作業の運用コストが大きく削減できる可能性があることから、ミシガン州運輸局はドローン活用を有望な手段のひとつとして位置づけている。
年間7億円の点検コスト削減効果が得られた施設も
公共機関による研究の一方で、既にドローンによる点検サービスを手がけている企業からも、具体的なコスト削減に関する数字が提示されるようになっている。 英国に拠点を置くサイバーホークが、そうした企業のひとつだ。彼らは石油精製所を対象に、ドローンを使ってフレアスタック(余剰ガスを燃焼した炎)の状態を確認するなどの点検サービスを実施している。
石油精製所の持つ煙突は、高さが100メートルを超えるものがあり、人間が登って点検するだけで危険な作業となる。実際に英国では2008年から2009年にかけて、点検作業中の転倒事故でおよそ4600人が負傷、35人が死亡しているそうである。また当然ながらフレアスタックが出た状態では人間は近づけないため、点検期間中は精製所の操業を停止しなければならない。
また石油精製所には、煙突だけでなく掘削装置など、操業しながらでは点検が難しい施設が多数存在する。つまり点検期間が長引けば長引くほど、売上にとってマイナスとなるわけだ。
- Advertisement -
しかしドローンを飛ばして周辺から施設を撮影し、映像を確認することで、操業を続けながら安全に点検作業を行うことができる(対象施設には最大数メートルまで接近)。こうして得られた情報から、再調査が必要な部分を絞り込むことで、操業を止めて行う点検作業を最小限に抑えることが可能になるとサイバーホークは説明している。
実際にサイバーホークは、シェル石油と共同で、同社が北海油田に持つ海上プラントを対象として実証実験を実施。このプラントでは1日あたりの操業停止コストが8万~10万英ポンド(約1200万~1500万円)と試算され、ドローンを導入して点検作業の効率化と操業停止期間の最短化を実現することで、年間で460万英ポンド(約7億円)のコスト削減効果が得られるという結論に至った。さらにこうした点検作業に危険が伴うような施設では、金額に換算された数字だけでなく、人命が危険にさらされるリスクを避けられるという点が大きなメリットとなるだろう。
日本においても、高度経済成長期に建設され、設備年齢が30~50年に達している石油精製プラントが存在する。また保全作業を行うベテランの作業員が減少しつつあり、効率的で安全な点検作業がさらに難しくなるのではないかと懸念されている。ドローンによる点検作業が、当たり前となる時代が到来する可能性が高い。
今年3月にインプレスから発表された、国内のドローンビジネス市場規模の推移予測では、今後同市場の20パーセント程度が「検査」分野で占められるだろうと予想している。ドローンによって削減されるインフラおよび大型施設点検のコストは、これから着実に拡大していくだろう。