「ドローンは空撮に使うもの」という印象を持つ人はまだまだ多い。だが、産業用に開発された高性能なドローンは、ペイロード、つまり搭載する機器により、様々な業務に対応できる。すなわち、測温や測量などに対応した機器を搭載すれば、高度なデータ収集が可能になるのだ。
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また、現在は物資輸送に対応した大型ドローンや、給電が可能な離着陸施設とドローンを組み合わせ、ドローンの運航を自動化し、効率的にデータ収集を行う取り組みが登場している。様々なビジネスシーンで利用が推進されているが、導入をより加速したい分野が公共分野だ。そのなかでも、火事や災害から人命を守る消防や救急での活用に期待が高まっている。
そこで、香川県でドローン販売やスクールの運営を行う空撮技研と、ドローンや業務用カメラなどの販売を手掛けるシステムファイブは、香川県高松市やその周辺自治体の消防局(本部)に対しては、現在所有している機体からの更新のため、まだドローンを所有していない本部に対しては、今後の消防・救急活動にドローンを取り入れるための参考としてもらうため、最新ドローンの見学会を開催した。現役消防士たちの声を交えながら、ドローンやペイロードの実力、そして、消防・救急活動にドローンを導入する意義について紹介する。
5つのモジュールを搭載したマルチスペクトルカメラ「H30シリーズ」が登場
見学会の模様を紹介する前に、現在発売されているペイロードや産業用ドローンについて解説する。
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ドローンメーカー最大手のDJIでは、機体だけでなくペイロードの開発も積極的に行い、その進化には目を見張るものがある。同社が開発するペイロード「Zenmuseシリーズ」には航空測量が可能な「P1」や、レーザー測量の一種であるLiDARによるリモートセンシングが可能な「L2」といったソリューションがラインナップされ、「H」が付与されるソリューションは、様々な光のスペクトル情報を取得するマルチスペクトルカメラとなっている。なかでも、2024年5月に発表された最新モデル「H30シリーズ」は「フラッグシップ級全天候型マルチスペクトル ペイロード」を謳う。
H30シリーズには広角カメラ、ズームカメラ、レーザー距離計、NIR(ニール/近赤外線)補助ライトというモジュールを備える。また、「H30T」には赤外線サーマルカメラも搭載される。従来型から大きな進化を見せたのがズーム機能だ。従来型の約1.5倍となる光学34倍ズームを実現し、デジタル400倍ズームにも対応。被写体安定化システムにより被写体をフォーカスロックし続け、正確な点検作業を可能にする。
赤外線サーマルカメラの解像度は1280✕1024ピクセルとなり、従来型から約4倍大型化。最大32倍のデジタルズームと合わせることで、観測地域全体だけでなく、スポットを絞って高精度な測温を行える。
さらに夜間撮影モードではフルカラーナイトビジョンを実現。被写体をリアルに映し出せるので、夜間における作業効率の向上が期待できる。もちろん白黒ナイトビジョンにも対応しており、必要に応じて切り替え可能だ。白黒ナイトビジョンではNIR補助ライトを使用することで、画像の明暗を際立たせ、被写体を見やすくできるのも便利なポイントだ。
物流ドローンやドローン運用を自動化するFlightHub2など続々リリース
DJIでは、ホビー用途として空撮が楽しめるコンシューマ機から、産業用途に投入できるエンタープライズ機まで、幅広く機体を提供。エンタープライズ機は、エントリー機である「Mavic 3 Enterpriseシリーズ」から、高性能カメラを標準装備し可搬性に優れた「Matrice 30 シリーズ」、より大型化し、Zenmuseシリーズをはじめとしたペイロードの付け替えが可能なハイエンド機「Matrice350 RTK」まで取り揃え、使用用途や予算、操縦者の技量に合わせて機体が選択できる。
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2024年に入ってからDJIは産業用途でのドローン投入を相次ぎ行っている。1月に登場したのが物流ドローン「DJI FlyCart 30」だ。物資輸送に特化した機体で、その積載量と航続距離はシングルバッテリー時で40kgおよび8km、デュアルバッテリー時で30kgおよび16km(数値はいずれもカタログスペック)。物資を機体に吊り下げて運ぶウインチモード、箱に積み機体に搭載して飛行するカーゴモードに対応。クルーズコントロール機能や荷物の揺れを制御するスイングコントロール機能もあり、操縦者の負担を減らす工夫が随所に見られる。
3月にはドローンの運用自動化のハブとなるソリューション「DJI DOCK 2」および専用機体「Matrice3D/3TD」を発表。アプリケーション「FlightHub2」を使用して、事前に飛行ルートや撮影などの業務ミッションをプログラムすれば、簡単な操作だけでドローンがドックを離陸・自動航行し、必要なデータを集めることが可能だ。
このように解説してみると、ドローンは、空撮により景色を撮影するだけでなく、測温したり、夜間に捜索したり、資機材の配送といった人の役に立つ使い方ができることがわかるはずだ。
赤外線サーマルカメラH30Tの性能に驚愕!
見学会は7月上旬、香川県消防学校で行われた。梅雨明け前ながら夏本番を思わせるカンカン照りで、立っているだけで汗が滴り落ちる。過酷な環境だが、消防士たちの訓練に休みはなく、施設内には放水の音が響き渡った。安全安心な生活環境を守るための努力には頭が下がる思いだ。
見学会に参加したのは高松市消防局や坂出市消防本部などから参加した消防士約20名。今回は参加者のうち、高松市消防局消防防災課の池田達哉氏と、坂出市消防本部情報指令課の北谷太宏氏にお話を伺った。ふたりの普段の仕事は、池田氏は指揮隊で現場活動の指揮にあたるほか、訓練などの企画運営も担当する。北谷氏は119番を受信し、救急隊や消防隊へ出動をかけ、現場活動をサポートしている。
参加者のドローンに対する印象や使用経験は人それぞれだ。池田氏はすでに業務においてドローンを運用している。
池田氏:導入当初は費用対効果に少し疑問を持っていました。しかし、実際に運用したり自分でもドローンの勉強を続けたりするなかで、迅速な状況把握や情報収集にはとても役立つとわかりました
一方、北谷氏はドローンに対して好印象だ。使用経験はほとんどないものの、次のようにコメントする。
北谷氏:危険な現場の確認に有効に使えそうと直感しました。ドローンに関心を持ったきっかけは医療系ドラマ。山奥に医療資機材を運ぶシーンが描かれていました。こんなふうに使えるようになるといいですね
見学会はまずDJI DOCK 2のデモンストレーションからスタート。屋外に設置され、衛星インターネットサービス・スターリンクと接続されたDJI DOCK 2に、FlightHub2からLTE回線を通じて運航プログラムが送られる。受信したDJI DOCK 2が自動でケースを開くと、Matrice3TDが姿を見せ、たちまち離陸。プロポの操作をせずドローンが飛行し、ドローンが捉えた鮮明な映像がPCに送られてきた。DJI DOCK 2から離れた建物の中でデモの模様を見守った消防士たちは、鮮明な映像に驚きを見せていた。
次に屋外のグラウンドに移動し、Zenmuse H30Tの性能をチェック。グラウンドの一角に設けられた瓦礫の山に火と煙を炊き、火災現場と見立てた。Zenmuse H30Tを搭載したMatrice 350 RTKが仮想・火災現場へ急行。現場から20m程度離れ、地上からの高度20m付近で赤外線サーマルカメラと光学カメラで現場をチェックした。映像はパレットモードを切り替えることで、様々に表示できる。「TintISO」モードにすると、瓦礫の下に隠れている人影がはっきりと映し出された。
北谷氏はこのデモが最も印象に残ったという。
北谷氏:かなり距離が離れているなかで詳細な温度が出ていたのはすごいと感じました。現場でもどんどん活用できたらいいのにと思います
池田氏も、現場で指揮を執る人の立場から、有効に使えそうなケースを解説した。
池田氏:陸上からは熱画像視聴装置、いわゆるサーマルカメラを使用して燃えている箇所を特定して消火活動にあたることがあります。でもそれはグラウンドレベルでの測定結果。例えば建物火災で空中から測温すれば、類焼している箇所がないかの確認に使用できるのではと感じました
さらにドローンを使用すれば、より効率的な消火活動に取り組めるという。
池田氏:屋根が完全に抜け落ちている火災で上から放水したい場合に、ドローンで俯瞰すれば抜け落ちた場所が可視化されるので、ピンポイントで狙うことができます
Zenmuse H30Tに搭載されている夜間撮影モードを試すため、AFT(模擬火災)訓練室へ移動。ここは扉を閉め、窓を塞げば暗闇を作り出せる。狭く飛行はできないので、Matrice350 RTKの電源をつけた状態で、スタッフが機体を抱えて暗闇の室内へ。プロポに送られてきたのは、明るい部屋の中を撮影したと思わせるクリアなフルカラー映像だった。これには見学の消防士だけでなく、スタッフたちも感嘆の声をあげた。
スピーカー搭載ドローンで効率的な周知を実現
今回のデモストレーションにはMatrice 30とDJI FlyCart 30も用意された。Matrice 30は、CZI製スピーカー「LP12」を装備。音声を流すことができる「ブロードキャストシステム」のテストを行った。まずは事前に録音しておいた音声を再生。「訓練津波、直ちに避難してください」という警告が鳴り響いた。続いてリアルタイムでの放送もチェック。こちらも発声した内容がタイムラグなくドローンから流れた。LP12にはLEDライトも搭載されており、光が高速で瞬くフラッシュモードも使用可能。参加者からは、これらの機能を組み合わせれば効率的な情報周知ができそうと期待する声があがった。
DJI FlyCart 30ではウインチモード、デュアルバッテリーで20リットル程度のポリタンクを運搬するデモンストレーションを実施。ウインチの先端に取り付けたカラビナに、ポリタンクと繋いだロープを引っ掛けた。離陸したDJI FlyCart 30は難なくポリタンクを吊り上げ、前述の瓦礫の山へ。スイングコントロール機能によりポリタンクの揺れをうまく抑制しながら、安定した飛行を見せた。
瓦礫の山へ到着し荷物の切り離し作業へと移行。着陸地点には十分な広さが確保できない状況だ。だが、ウインチモードなら機体をホバリングさせ荷物だけ下ろせば、地上の人員が荷物の切り離し作業に対応できる。実演すると、消防士から「おおっ」と歓声が上がった。不整地への物資輸送は、消防活動や災害救援活動で需要があるとみえ、今後の導入に期待したい気持ちの表れだろう。
最新ドローンがその実力をいかんなく発揮した見学会となった。北谷氏は次のように、感想を語った。
北谷氏:ドローンは撮影に使用するぐらいだと思っていましたが、想像以上でした。自身の業務での活用方法を考えると、やはり情報収集に使用したいです。土地勘がない場所から通報されるケースでは、場所の特定にドローンが使えるようになれば、現場が発見しやすくなるのではと感じます。あとは山岳遭難者への支援物資の輸送に、物流ドローンが使えるといいですね
すでに業務でドローンを使用している池田氏は、ドローンの業務利用における課題を指摘した。
池田氏:消防業務でのドローン運用で、最も大切なのは迅速性と可搬性。これらをクリアした前提のうえで、資機材の輸送ができるといったオプションがあると消防としては有用だと考えます。現在運用している機体から、より高性能な最新ドローンの導入を提案し、導入が実現すれば実績を作っていきたいですね
最新ドローンは消防分野や災害救援分野などでも有効に活用できると、現役消防士からお墨付きを得た。マルチスペクトルカメラであるH30Tは点検分野を中心に活用でき、DJI FlyCart 30はドローンによる物資輸送を活性化させる可能性を秘める。最新ドローンは様々な分野で業務を改善する切り札となるのだ。
空撮技研ではユーザーの要望を聞き取り、最適なソリューションを提案している。2024年問題への対応、業務のDX化など、課題解決は待ったなし。ドローン導入で業務の高度化と効率化を実現してみてはいかがだろうか。