地雷除去作業にドローンを
触れた者を無差別に殺傷する地雷。その非人道性から、対人地雷を禁止するオタワ条約が1997年に締結され、1999年に発効した。赤十字国際委員会によれば、オタワ条約締結当時は年間約2万人とされていた対人地雷犠牲者は、現在約3500人程度まで減少していると言われる。しかしいまだに30か国が自国の対人地雷撤廃を果たしておらず、また既に設置された地雷が大量に残されている。たとえば長らく戦争・紛争が続いたイラクでは、今なお数万個の地雷が設置されたままになっていると言われており、またエジプトには第2次世界大戦当時の対戦車地雷が残されているそうだ。
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この地雷問題を解決するために、さまざまな地雷除去用の技術や重機等が開発されているが、導入・維持にかかる費用や除去精度の問題から問題解決の決定打となるには至っていない。そのため現在でも除去作業の多くが人手で行われているそうだが、当然ながら人手では膨大な時間がかかる上に、作業にあたる人々の命がリスクにさらされることになる。
そこでアフガニスタン出身のデザイナー、マスード・ハッサニ氏が検討しているのが、地雷除去用のドローン「マイン・カフォン・ドローン(以下:MKD)」だ。現在キックスターター上で支援を呼び掛けており、デモ映像が公開されている。
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マスード・ハッサニ、あるいはマイン・カフォンという名前に聞き覚えがあるという方もいるかもしれない。彼は以前から地雷問題に取り組んでおり、風に吹かれて地雷原を動き回り、自ら地雷にぶつかることでそれを除去する「マイン・カフォン」という道具をデザインして話題を集めた。以下の映像は、ハッサニ氏がTED×ユトレヒトでスピーチしている場面だ。
オリジナルのマイン・カフォンはGPS用の機器が搭載されており、どんなルートを通ったのかデジタルで把握できるようになっていたものの、基本的には風任せで地雷にぶつかっていくというアナログなツールだ。一方で今回のMKDは、地形のマッピング、地雷の探知、地雷の除去を機械的に行うという、高度な機能を備えている。
機体はローター6個のマルチコプター型で、地雷の検知・除去作業時には、それぞれ対応する装置を装着する仕組みになっている。検知の際は金属探知機をセットし、事前に作成した3Dマップを基にしてデータを収集。また除去の際はロボットアームをセットして、遠隔操作型の爆弾を輸送、地雷の近くに落としてドローンが安全な場所に離れてから爆破する、という具合だ。
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マイン・カフォン・ドローンの主な機能(Kickstarter上のプロジェクトページから引用)
作業の役割分担が進む?
ハッサニ氏は、このドローンを活用することで、10年以来に世界中の地雷を除去可能であると考えている。かなりの自信と言えそうだが、彼によれば、MKDは従来の方式と比べて20倍の速さで、そして200分の1のコストで除去作業を実施できるそうだ。そのカギを握るのが、オートパイロット機能と、群制御による複数機同時作業である。MKDが1機だけで地雷原を飛び回るというのは心もとないが、複数機が全自動で作業をこなすというのであれば、確かに従来の手法よりも効率的に地雷除去できそうだ。
もうひとつ、ドローンによる作業の方がはるかに効率的になる可能性として考えられるのが、他の関連機器との連携である。ドローンに先行する形で、地上を走るタイプの地雷除去車両では、機器の自動化やロボット化の取り組みが進んでいる。たとえばコマツの対人地雷除去機は、同社の建機技術が応用されており、建機でも活用されているリモートコントロール機能を使って、遠隔操作で除去活動が行えるようになっている。
コマツは建設現場において、「ドローンが集めたデータをクラウドを通じて加工・分析し、ロボット化された建機に渡して自動施工を行う」という取り組みを進めているが、こうした仕組みが地雷除去の現場でも応用できるかもしれない。ドローンで地形のマッピングと、地雷の検知までを行い、検知された地雷の除去は地上の建機型ロボットが行うといった具合だ。MKDはすべての作業を1機で行えるようになっているが、除去のステップでより効率的に作業できる仕組みが登場してくれば、そちらにデータを流していくという役割分担が望ましくなるだろう。
実際に軍事分野では、地雷の除去までこなすドローンではなく、検知を担当するドローンが先に配備される見込みになっている。米国の軍事メディア、ミリタリー・タイムズによれば、地雷だけでなく化学兵器やIED(即席爆発装置、紛争地域でゲリラなどが道端に設置する簡易爆弾)も検知されるドローンが、早ければ来年にも実戦配備されるそうだ。紛争地や戦争直後の地域において、兵士や一般人の前を進みながら、危険があればすぐに警告してくれるドローン。そんな使い方が、まもなく一般化するかもしれない。