ドローンの運用で意外に課題となるのが離発着地の設定だったりします。近距離を移動する場合はそれほど問題になりませんが、長距離を滑空する固定翼タイプの場合、離陸の障害にならない開かれた場所である必要がありますし、着陸地になるとさらに条件が厳しくなります。そこで進められているのが、水上で離発着あるいは着水ができるドローンの開発です。
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カナダの大手UAVメーカーであるAeromao社は、主に測量や偵察分野で使用する固定翼タイプドローン、Aeromapperシリーズを開発しています。ネバダ州の砂漠地をマッピングしたり、北極圏の野生動物を監視したり、ブラジルの森林地帯をハイバースペクトル調査するなど、さまざまな環境でも高い性能を発揮し、NASAでも同社のシリーズが採用されています。
手頃な価格で調査に使用できるThe Aeromapper Talon LITEをはじめ、航続距離が長いEyeshot Proなど機体の種類はいろいろあり、中でも注目を集めているのが水陸両用バージョンの「The Aeromapper Talon」です。全長は2mで重さは3.6kgと軽量で持ち運びしやすく、電動モーターエンジンで時速62kmの最高速度を出せて、最長で約90分間飛行することができます。
とても運用しやすいのが特徴で、離陸は手で飛ばす必要がありますが船の上なら水の上と言っていいでしょう(笑)。飛ばしたら自律飛行で着水は完全自動。機体は完全防水でプカプカ浮いてるところを回収しますが、とても頑丈なのでパラシュートで落下着陸させるオプションも選択できます。耐久性が高いので繰り返し使えて修理も簡単とのこと。運用距離は約30kmで、最大約20kmの範囲でカメラの映像をリンクさせ、パラボラアンテナを使用すればさらに長距離を目視外飛行させられます。
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そのお手軽さで広大な海の監視役として活用が広がり、コスタリカの海洋保護区では生物の環境を監視したり、違法漁業を阻止する目的で導入されています。事例紹介動画では、ドローンを使ったことがないスタッフでもすぐに運用できて、急な天候の変化でも対応できると紹介されています。
そんな水陸両用タイプのドローンは、海に囲まれて川や湖が多い日本でも開発が進められています。兵庫県宝塚市に本社がある新明和工業社は、海上自衛隊の救難飛行艇製造技術をもとに、水上で離発着可能な固定翼タイプの無人飛行艇「XU-M」を開発しています。全長3m、幅4mある機体は時速約60kmの巡航速度で飛行でき、神戸のポートアイランド沖でのデモフライトを成功させています。
機体はクレーンを使って海に浮かべますが、安定した浮力がありそのまま水上から離陸が可能です。事情により離発着は手動で行われましたが、その後の8の字旋回を含むおよそ4分間のスムーズな飛行は自動で行われました。
参考記事:国と自治体によるルール整備と成果創出でドローン産業の飛躍を目指す:後編 [第1回ドローンサミット]
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福島県南相馬市のスペースエンターテインメントラボラトリー社は、同じく水上で離発着可能な飛行艇型ドローンのハマドリシリーズを開発しており、小型で電動の「HAMADORI 3000」に続いて、中型でエンジン駆動の「HAMADORI 6000」を開発中です。
3mものうねりがある沖合でも自動で離着水できるのが特徴で、水面航行も可能という多機能さを備えています。小型機は翼幅が約3mで重量は19kg、時速65kmの巡航速度で約120分飛び続けられ、約20kmの範囲を運用できます。中型機は航続距離が740kmで約8時間飛び続けられる性能を備えています。
さらに、先日開催されたパリ・エアショー2023では次世代コンセプトとして設計中のマルチロール機を発表しています。
カーゴやウィンチなど用途に合わせて最大重量300kgまで吊り下げることができるペイロードポッドを搭載し、その状態で900km以上飛行し続けられるとのこと。輸送、警備、観測、救難活動と対応できる用途も幅広く、すでにスケールモデルでの初期検証は終了していて、2020年代中の実装を目指しています。
規制緩和により日本国内でもドローンを運搬や監視に利用するところが増えていますが、滑走路を必要とせず水上で離発着できるドローンは活躍の場をさらに広げる可能性があります。例えば話題になっている空飛ぶクルマでは、離発着地として水上に設けた専用ポートを使用するアイデアをよく見かけますが、今後は同じ水上ポートを人の移動と荷物の搬送の両方で運用するということも始まるかもしれませんね。