これによって、ドローンに搭載したガスクロマトグラフによるプラントの管理や防災保安業務への適用可能性を実証した。
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JDRONE、福島イノベーション・コースト構想推進機構福島ロボットテストフィールド(以下:イノベ機構RTF)およびボールウェーブは、この成果を2023年3月17日の応用物理学会春季学術講演会で発表するという。同発表は、応用物理学会プログラム編集委員が聴講を推奨する「注目講演」に選定されている。
ガスクロマトグラフとは、中空の管をリールに巻いたカラムと呼ばれる流路を混合ガスが通過する際に時間的に分離される現象を利用して、多種類のガスの種類と濃度を測定する分析装置のこと。一般的には卓上に設置する大型装置で、可搬型も開発されているが感度や精度の点で大型装置を下回る。
装置の工夫
化学プラントやエネルギープラントの安全で効率の良い運転には、頻繁な点検による管理が必要だという。しかし、プラントには高所、高温または危険ガス放出のため人が近づけない場所が多いという課題がある。そこで、JDRONEが運用するドローン(DJI Matrice 300 RTK)にボールウェーブの超小型ガスクロマトグラフ(Sylph SY400※)を搭載してこの課題に取り組んだ(図1)。捕集するガスがドローンのプロペラが発生する強い気流で乱されないように、ガスクロマトグラフに長さ3mのCFRP(炭素繊維複合樹脂)管で作製したサンプリング機構を接続した。
※Sylph SY400は、「CES 2023 INNOVATION AWARD」を受賞
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また、プラントの管理では短時間の分析が必要だとして、ガスを分離する部品である金属ソレノイドカラムの長さを通常の30mから10mに変更して分析時間を短縮したという。
短時間で高感度な分析に成功
最初の適用試験として、イノベ機構RTFの試験用プラントにおいて、この装置のプラント管理への適用性を検証。煙突から放出される試験用ガスを30秒間捕集して分析した結果、石油を燃焼するプラントで通常観測されるヘプタン(C7)、オクタン(C8)、ノナン(C9)を捕集時間も含めて3分という短時間で分析できたという(図2)。
別途行ったセンサの校正によると、捕集中のノナン(C9)の平均濃度は17ppmv(100万分の17)だった。検出信号のノイズが小さいことから、飛行中の局所的なガスの捕集という難しい条件のもとで、検出下限1ppmv以下という高感度な分析を実現した。これには、ドローンの高精度な制御によりサンプリング機構を煙突先端に安定して保持できた効果も寄与しているとした。
プラントの異常検知の可能性
さらに、特筆すべき成果として、オクタン(C8)のピークの近傍に、全く性質の異なるガスであるプロピレングリコール(P)が明瞭に検出された。このガスは、通常のプラントの正常運転では発生しないという。従ってこの実験結果は、プラントの不具合で発生する異常なガスを通常のガスと分離して検出できる可能性を示している。
この技術を可能にした主な要因は、一般的なガスクロマトグラフより著しく小型で重量がわずか1.2kgの超小型ガスクロマトグラフだとしている。この装置は、新しい物理的原理に基づくボールウェーブの独自センサであるボールSAWセンサを利用して開発された。
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この技術により、運転中のプラントの異常検知が可能になるので、プラントの事故の低減と運転条件の最適化によるエネルギー効率の向上に寄与するという。また、公共空間での危険物の発見と識別などで、防災や保安の分野でも役に立つとしている。