一方、ドローン関連のビジネスに目を向けると、レベル4関連の制度が定まったということや2025年に向けた「空飛ぶクルマ」の解禁に向けて舵が切られたということもあって、それまで一般のドローンに振り分けられていた国の予算が「空飛ぶクルマ」関連にシフトしたこともあり、これまでドローンビジネスを手掛けていた企業の中では、その実用化の段階の差の中で、企業収益に明暗が分かれる年になった。
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2023年のドローン産業がどうなっていくかを占うにおいて、国内外におけるドローンの使われ方が現在どうなっているかを理解することは重要となっているだろう。
ドローンの用途別の現況
ドローンの用途は大きく3つに分かれているので、そのカットで現況を確認したい。
空撮
空撮分野に関しては、商業空撮と警備や監視、遭難救助、警察・消防分野での情報収集などが含まれるだろう。
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この分野に関しては、今までは圧倒的にDJIが強い分野であった。具体的にいえば、PhantomシリーズからMavicシリーズ、映画やドラマ・CMなどの商業空撮分野に関しては、Inspireシリーズが大きなシェアを握っていたし、現在なお強い分野ではあるが、映画などのハイエンドの商業空撮分野に関しては、SONYの「Airpeak」が元来のプロユースの撮影機材の強みの中で、緩やかにシェアを確保してきている。
また、警備や監視、遭難救助、警察・消防分野においても、DJIは非常に強かったが、日本を含む各国での情報セキュリティといった観点から、中国企業であるDJIを回避する傾向が強くなってきており、特に北米では米中貿易摩擦や安全保障といった面と相まって、特に警察・消防といった分野での脱DJIの動きは強い。この辺の流れに関しては、以下のコラムを参照。
北米においては、米国国防省が主導するBLUE UASで認定された機体を中心に動き出している(以前はMavic対抗のものが多かったが、最近では中型機や固定翼なども認定されてきており、その選択肢の幅が広がってきている)。
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その他の国も、インドなど多くの国で、中国機排除の動きが高まっており、各国での"国産ドローン"の開発が本格化しており、今年はその動きもより活発になっていくだろう。
日本においては、PhantomやMavic対抗という点においては、ACSLの「蒼天」が昨年は販売が開始された。当初あった不具合も既に修正されており、警察や消防といった分野や地方自治体において、その導入が進んできている。日本においても選択肢が出てきたという点においてはいいことであると思うが、コストや使いやすさという観点からも、より改良が進んでいってほしいし、また、他のメーカーからも小型の空撮機に関して、開発が進んでいき、選択肢が増えていってほしい。
空撮関連のサービスを実施している企業においては、この分野に関しては、活用が進んでいる分野であり、今後はそのサービスにおける安全性の向上や細かいユーザーニーズの取り込み、航行記録や撮影記録の管理など、より質の向上が求められるものになるだろうし、また、その質とコストのバランスがよい企業が勝ち残っていくだろう。
物流・散布
物流や散布といった分野は、ドローンを作業代替で使う分野となる。
物流はドローンのニュースでも、もっとも頻繁に取り上げられるものとなっており、一般の人にとっては、この物流用途がドローン活用で一番馴染みのある分野となっている。
ドローンの物流分野での活用に関しては、政府もレベル3やレベル4(目視外飛行)の制度設計と連動する中で、力を入れてきた分野である。2020年度~2021年度にかけて、物流ドローンの2022年度の実用化を目指し、全国14地域において、課題整理・解決等の検討が進められてきた。この地域の中で、実用化、特にビジネスを自律的に回していくことが成功している地域は、ほとんどないが、各地域課題の中で配送人員の不足というものは大きな問題であり、その課題解決の中でドローンは有望視されていることは間違いないので、今後は「デジタル田園都市国家構想」の中で取り組みがされていくだろう。
物流の実装化の流れとしては、緊急物資搬送という中で、まずそのプロセスを作り、それを通じて、安全性や安定性の向上、省力化などを図る中で、1配送あたりのコストを下げていきながら、合理性を高めていくという手法となるだろう。また、自律の陸送車や場合によっては自律ボートとの連動といったこともこれからは重要であり、進んでいくだろう。
ただし、この物流分野に関しては、空のドローンでの機体認証において、第1種もしくは第2種が必要になってくることから、海外機体の導入は非常にハードルが高くなるだろうし、国産機であっても、その取得コストを考えると、機体の選択肢は非常に限られてくることも必至なので、そのことが事業構築にむけてのハザートになる恐れがある。
一方、機体の台数という観点からいうと、その活用機体数が多いのは農薬散布用ドローンである。
この分野でも、クボタが担いでいることもあり、DJIのAgrasシリーズやOEM品のT10KやT30Kのシェアが高いが、マゼックスや石川エナジーリサーチなど日本の機体メーカーも健闘をしている。
今後とも順調にその活用や機体数は多くなっていくと思われるが、減農薬に向けたピンポイントの農薬散布や、ピンポイント肥料散布のための粒剤散布、播種栽培に向けた種散布など活用の幅を広げていく必要はあるだろう。その散布においては農業リモートセンシングとの連動も重要である。
また、その浸透において、個々の農家単位ではなく、地域単位で実施するためのシェアリングサービスの拡張なども求められている。
あと、作業代替といった観点においては、点検における修繕や改修といった高所などの難所での作業がドローンに求められているが、ここに関しては、THKの「AGEHA」などによって、検証がされ始めており、今後期待が持てる技術だ。
デジタルデータの取得
現状、ドローンを活用したビジネスとして、実用化されているのが圧倒的に多いのが、このデジタルデータを取得するツールとしての役割である。
点検、測量、リモートセンシングなどがその用途になってくる。まず、日本で大きな市場を形成しているのが点検の分野だ点検として、既に社会実装がされているのは、太陽光パネル点検と屋根点検だ。
この用途に関しては、サービス提供企業が使いやすいアプリケーションや点検報告書やその対象物の継続的な管理ソフトウェアも提供し始めており、サービス提供事業者にとってはお手本となるモデルとなっている。
この両社とも、現在においては、対応している機体の入手性の問題等、ドローンの機種変更の流れが速く、それにより自動航行アプリなどの改変が必要になってきている点などに課題があるという。産業用の機体として、ある程度のスペックが確定した時点で5年~10年といった長いスパンで製品を提供し続けるというのも産業用といった観点においては、非常に重要であるし、国産ドローンメーカーにとって、示唆がある事例のように思う。
その他、点検の分野で進んでいるのは、基地局や電波塔の点検だ。この分野においては、「Pix4DInspect」や「DroneDeploy」が、自動的にデータを取得するツールを提供しており、かなり進んできている(対応の機体はDJI機かParrot機などとなっているが、この辺に関してはこういったソフトに対応した扱いやすい機体を開発するというのも国産機体メーカーにとってもチャンスではないかと思う)。
この取得したデータと連動した使いやすい点検管理ソフト(3次元点検管理台帳)といった部分がサービス提供者にとっては重要な部分になってきており、この辺に関しては、各携帯会社などが内製しているのではないかと想像される。
今後、そういった3次元点検管理台帳はDX(デジタルトランスフォーメーション)といった観点からも、非常に重要なツールとなってくる。
海外においては、その3次元点検管理台帳を「メタバース」と連動させ、AIなどにより劣化シミュレーションを行ったりするのがトレンドとなっている。
日本では非常に数も多いし、望まれているのは、高圧線および鉄塔、電線および電信柱の点検である。特に高圧線およびその鉄塔に関しては、実運用の初期段階といってもよいが一番の課題は、データ取得(ドローン使用)の簡便性と安定性である。
基地局や電波塔と異なり、やはり回りに電線があることがその動きを難しくしている。このソリューションに関しては、DJI Matrice300 RTKとH20の組み合わせが最強だ。
それは、広角カメラと望遠カメラを内部的に連動させたH20とそのカメラシステムと連動した機体制御といった手法で現状DJIにかなう機体メーカーはいないからだ。
DJIへの情報流出を懸念する動きから、ここ数年、国産ドローンでの再検証を行ってきており、一定の代替は可能になってきたが、このインテリジェントなカメラシステムとの連動はいかんともしがたい。そんな現状を受けて、日本の大手企業がDJIの機体管理やその取得情報管理をソリューションとして受ける中で、DJIへの揺り戻しが起きてきている。私自身は、そのことは最大限のドローンの活用を行っていく観点において、ありうるべき姿のようにも思う。ドローンは「道具」に過ぎないのだから。
電信柱の点検は主に人口集中地区も多かったことから進まなかった分野の一つだが、小型ドローンでの点検はかなりの効率性の向上が期待できる分野だ。今後、自動点検技術や安全性の向上を並行的に行う中で、規制緩和をしていってもいいのではないかと思う。
2015年ぐらいから検証が続けられてきている分野が公共インフラ点検(橋梁やダム、トンネルなど)の用途だ。
点検する箇所や項目が多く、また、GPSが届かなかったり、不安定になるといったことから、なかなか自動化が難しく、当初の計画通りにはその活用が進んでいるとはいえないが、国土交通省からドローン活用の点検ガイドラインが提供されるなかで、このガイドラインに準じる形で徐々にドローンでの点検は拡がっている。
ただし、非GPS環境での機体制御や自動航行化といった点で、その活用の簡便性や安定性において、まだまだ技術的な課題は残っている。
プラント点検といった用途もドローンの活用が求められている分野だ。これも、石油コンビナート等災害防止3省連絡会議(総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省)が、その版を重ねる中で、ガイドラインを作成し、部分的で適切なエリアでの導入が継続的に行われている。
外壁点検も多くのニーズがある分野だが、建物の近くはどうしてもGPSが安定しないこともあり、また、ビル風などの風の影響も受けやすく、まだ、技術上の要件が整っていない場合が多い。現実的には、DJIのH20のようなカメラソリューションと連動する形になるだろう。
室内点検も非常に多岐にわたってニーズとして求められている。これは非GPS環境下において、いかに自己位置推定を行い、それを機体制御に生かしていくか、また、その中でどういう風に簡便な形で、自動もしくは半自動航行を可能にしていくかというのが大きな技術的なテーマだ。
SLAMなどの技術によりだいぶ技術進捗がされてきているが、まだ、操縦技能に頼る部分が多く、また、その取得したデータの位置情報の取得といった点においても課題が多い。しかし、ビジョンセンサなどの技術向上の中で、今年中にはもう一歩進んだ形になるのではないかという見解をもっている(これはまた別途コラムで取り上げたい)。
次にデジタルデータ取得で進んできているのは、測量の領域である。ドローンでのデータ取得という観点でいえば、「i-Constraction」が寄与してきた部分が大きい。UAV測量という形で土工現場での定着を図ってきた。現在、多くの現場で、その精度や内容に応じて、「写真測量」や「レーザー測量」を使い分ける中で活用が進められてきている。狭い地域の「写真測量」に関しては、DJI機体が中心で、広域の「写真測量」や「レーザー測量」に関しては、固定翼や国産機体といった形ですみ分けができている。
今後は取得データで形成された地形データの変化や継続的な管理につなげていくソリューションで、よりDXへの連動が進んでいくだろう。この継続的なデータ活用は、北米などで進んでいる工事進捗の用途との連携が図られ、土木や建設のDX連携をより推進していくキーワードになっていくだろう。
リモートセンシングに関しては、そのデータ取得の手法については、その用途ごとにほぼ固まってきており、問題はその取得したデータの活用というシーンにおいて、ビジネスの流れが日本では確定していないことに問題がある。
農地のリモートセンシングに関しては、農林水産省が推進した「スマート農業実証化プロジェクト」の中でも多くプロジェクトに組み込まれたが、そのプロジェクトが終わったあとで継続しているケースが少ない。これはやはりその取得データが生産者の中での活用(品質の安定や収量の向上など)に閉じており、その活用部分だけでは経済合理性を保つことができないからだ(簡単にいうとコストと労力に対して、成果が見合わない)。
これはある一定の規模が必要だからということも考えられるが、規模の大きい生産者においても、さほど進んでいないことを見ると、やはり何か根本的な課題があるように思う。
やはりそこでヒントになるのは、海外、特に北米の動きである。2015年ぐらいより、北米の大手のコンサルティング会社はその柱に農業部門を立ち上げてきた。それは世界的な人口増加に伴い、ネーションワイドに展開している食品加工会社やレストラン、スーパーなどに向けて、「現在の仕入れ値の5%を削減させるための方向性より、向こう5年から10年の間で、20-30%の範囲の仕入れの値上げで抑える体制づくりをどうするかが事業戦略上一番重要な課題である」ということを示し、その体制づくりに対するコンサルティングを行ってきた。
気候変動やSDGs(減化学肥料や有機による収穫量の減少)なども相まって、そういった作物の不足は徐々に広がってきていたが、昨年のロシアのウクライナ侵攻により、一気にクライシスと呼んでもいいぐらいに顕在化した。
北米だけでなく、世界に広がりつつあるのは、農地の生育情報の取得である。生育情報とは、その作物の種類・収穫量予測・収穫品質の予測・収穫日である。現在、北米では生産者が有償でそのデータを必要としている企業に提供することも始まっている。食品加工会社などは生産者との契約を数段階のレベル(ある量を事前に買うことを約束、通常より5%高く購入、通常より10%高く購入、通常より15%高く購入など)を設定し、その生産者からの情報を生育の途中の段階より入手し分析しながら、生産物の購入のポートフォーリオを決めるということを行い始めている。
生産者も、生産物の最大利益の獲得に向けて、買い手のポートフォーリオを決めていっている。いわば、この要となる生育情報を取得するツールがドローンとなっているのだ。この農作物の不足はもう恒久的といってよいほどに続いていく中で、情報戦になっており、日本の穀物商社などは、この情報連環に入ることができず、また、それに重ねて、円安で買い負けている。
日本においても、こういった世界の流れは受けざるを得ないこともあり、日本国内での生産量をいかに増やすかというのは課題になっているが、その中で、こういった農産物の生育情報を把握していきながら、バリューチェーン化していくというのは農業のDX推進において、最も必要な視点である。
その他、SDGsの流れを受けて、森林や山林調査のためのリモートセンシングも国の予算がつく中で大きく動いてきている。これが農地のリモートセンシングよりも進んでいく傾向にあるのは、大手の林業会社が絡んでいくケースが多いからである。いわば、農業のところの生産者がそのまま商社や食品加工の機能が付随している形なので、その中でのビジネスに生かしやすいというところがあるからだ。ソリューションとしては、カナダやオーストラリアといった今まで林業が盛んであった国のソリューションを活用しているケースが多い。
その他
その他、エンターテインメントの分野として、ドローンの群制御におけるライトショーはビジネスとして確立してきたといってよいだろう。M-1のオープニングやニューイヤーを祝うイベントなど様々なシーンで使われるようになってきた。
2023年に向けて
ここに様々な用途別に日本やその他海外のドローンの状況を踏まえて記してきたが、ドローンは本格的に実用化する段階に至ってきている。
ドローンのような技術はどこかいつでも不安定なところがあり、なかなか完全な形を望むのが難しい部分もあるけれど、それでも2015年あたりから比べれば、だいぶ進んできた。
今、そこにある技術を正しく捉え、まずは活用できるところから活用していくことが、重要であり、そのドローンという道具が、「誰のどんな利益を生む道具になっているのか」をこの年始において、考えることが重要であり、ドローン関連会社はビジネス戦略を立てていく必要がある。
そろそろ、日本においても、ドローン関連で儲かる会社が出てきて欲しいし、そのサクセスストーリーを今年はコラムの中で取り上げられればと思っている。