野生動物の保護にドローンを活用しようというアイデアが次々に実現されています。
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ドローンで野生動物を監視することで生態系を把握し、災害や密漁といった危機からも守ろうというアイデアは、タスマニア大学で博士号を目指すYee Von Teo氏が「Drones and wildlife monitoring – is it a good idea?」というタイトルでTEDxHobartでも発表されています。彼女はオーストラリアの離島、タスマニア州に棲息する大型ほ乳類たちの生態系を調査しており、ドローンを使用すれば繊細な動物たちへの影響を最小限に抑えながら高解像度の画像で観察ができると言います。また、サーモカメラなどを使用すれば夜行性の動物たちの知られざる生態を知ることができ、監視する側にとっても安全で優れた方法だとしています。
Drones and wildlife monitoring – is it a good idea? by TEDxHobart
「ダーウィンが来た!」のような番組が好きで、ナショナルジオグラフィックスを愛読している人たちならご存知かもしれませんが、野生動物の生態系を把握するために自然保護活動家は大変な努力をしています。まず、人間が近付くことそのものが難しく、正確に個体数を知るには足跡を数えたり、フンのサンプルを集めたり、さまざまな方法を用いますが、時に調査員の生命にかかわることもあり、精度を高めるのもかなり難しいとされていました。
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それに対しドローンを使用した調査方法は、バッテリーが続く限り休むことなく続けられ、人間の足では行けない場所も観測ができます。British Ecological Society(英国生態学会)に投稿された論文では、地上から行う従来の方法より43%から96%も正確であることが発表されています。正確性を確かめるために、浜辺にゴムのアヒルを数千羽並べて、経験豊富なプロが双眼鏡を使った従来の数え方とドローンで上空から撮影した画像を比べたとのことですが、ドローンの方がかなり正確だったということで、そのうちドローン集計は大晦日のNHK紅白でも使われるようになるかもしれません。
それはさておき、世界中でさまざまな生物が絶滅の危機に瀕していることから、野生生物のモニタリングの需要はかつてないほど高まっています。絶滅危惧種は大きな変化に気づいてから保護活動を進めても手遅れになることがあるため、日頃から定期的な観測を行い、小さな変化を見逃さないことが大事だからです。
生態学者のDebbie Saunders 博士が2016年に立ち上げたオーストラリアのWildlife Drones社は、生態調査のために付けられた無線タグからの信号を市販のドローンで受信することで、最大100匹の動物を同時に追跡し、生息地の高解像度なマッピングデータを手元のタブレットやラップトップで見ることができるシステムを開発、販売しています。
独自のセンサー技術とリアルタイム分析ソフトウェアは、既存の調査で使用されているGPS/VHSタグと連携でき、世界中で使用可能です。頑丈な専用ケースに入ったデータの追跡用のアンテナとラップトップは、DJIの Matrice 210やFreefly SystemsのAstro と組み合わせて使用します。
米国ではEmbry-Riddle 航空大学とNorthrop GrummanがBrevard動物と協力し、規制が緩和されたドローンのBVLOS(目視外飛行)で初めて許可を得て、フロリダで絶滅の危機にあるウミガメの調査を開始しています。The Turtle Tech projectと呼ばれるプロジェクトは、海を泳ぐウミガメを生態系に影響を与えない高度からドローンで監視することを目的としています。
ペイロードに搭載した偏光フィルター付きの高解像度カメラにNVIDIAのJetson NX プロセッサを組み合わせ、ニューラルネットワークAIを用いたコンピュータビジョンを使用することで、海を泳ぐウミガメだけを検出することに成功しています。機体はより遠くまで長時間飛行できるApplied AeronauticsのAlbatross と、DJIのMatrice 210 の2機を組み合わせ、Albatross が見つけたポイントをMatrice 210 がホバリングして詳細に観測するというコンビネーションになっています。研究者はAIを用いることで個体を正確に識別できるので、ウミガメにタグを付けずよりやさしい方法で観察が可能になるとしています。
同じくドローンとAIを組み合わせて生物をモニタリングする取組みとしては、非営利団体MAUI63が自然保護活動家とMicrosoftの協力を得て、絶滅の危機に瀕するマウイイルカを海から見つけだし、保護する活動を行っています。
参照記事:「MAUI63、絶滅に瀕するイルカの保護活動にAI 搭載ドローンを採用」
また、少し用途は異なりますが、ポルトガルのTEKEVER社はEMSA(欧州海上安全庁)と連携して、地中海のクジラとイルカの調査と保護を行うことで、イタリア沿岸警備隊を支援する「An Eye In The Sky」というプロジェクトを実施しています。同社が開発するUAV「Tekever AR5」は7.3mの翼と高度なセンサー技術を備え、海上を定期飛行させることで、クジラやイルカ以外にもサメやカメなど地中海に棲息する大型の海洋生物を検出します。生態系を知ることで生物を保護するのはもちろん、船との衝突を防ぐため航路を変更するといったことにも応用できると考えられています。
「An Eye In The Sky」に使用されるTEKEVER社の「Tekever AR5」
提供:EMSA
生態調査用のドローンの開発は、多くのドローン企業も新しいビジネスチャンスとして注目しています。例えば、アイルランドのZenaDrone社は農業用地を監視するために開発した「ZenaDrone 1000」が持つ、水上と陸上の両方で可能な高度な環境モニタリングと、特定のエリアを長期間にわたって追跡する鮮明な画像撮影技術を応用し、生態保護に活用することを提案しています。
こうした企業は今のところはまだ既存のドローンを応用していますが、本格的に需要が高まれば、動物や鳥に紛れ込んで調査ができるような、新しいドローンがデザインされるかもしれませんね。