新年最初のコラムでは、今後のドローン業界の方向性を示すドローンのプラットフォームについて記していきたい。
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ドローンのプラットフォーム
ドローンのプラットフォームとして、キーとなるのは、ドローンをドローンたらしめているフライトコントローラーのファームウェアであるフライトコードとなる。それはドローンのOSといってもよいだろう。
そのプラットフォームは大きく分けて、2種類に区分される。それはメーカー独自のもの(プロプライエタリ)とオープンソースのものである。
プロプライエタリの代表はDJIとなり、オープンソースはPX4やArdupilotとなる。
これはスマートフォンでいえば、Apple iOSとAndroidという区分と同様だ。
こういったプラットフォームは、各デバイスにおいて様々な変遷を経ている。
例えば、スマートフォンでいえば、スマートフォン以前にあった携帯電話(ガラケー)から辿れば、当初はプロプライエタリが中心で、各携帯電話製造企業が独自のファームウェアを搭載し、そこに各社のファームウェアに合わせたアプリが搭載されていた。その後、ドコモがiModeといったプロプライエタリのOSのようなものに開発者向けのキット(SDK)を合わせたものを提供し、様々なアプリケーションをパートナーで開発することが可能となった。
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そのガラケーの市場が一新したのは、インターネットへの接続を当たり前にしたスマートフォンという形態のApple iPhoneが出てきたことにあった。
当初はiPhoneはデザインはいいが、機能に関しては、まだガラケーに劣る部分があった。
しかし、AppleがiPhoneでスマートフォンアプリを開発するためのSDKを出し始めると、Webアプリといったエリアで先行していたPCでのアプリケーションが徐々にiPhoneに搭載され、やがて、スマートフォンの特徴に合わせたアプリが次々と開発されるようになった。(マイクロソフトもWindowsPhoneといったソリューションを提供し、追い上げを図ったが、ノートPCとのポジションの中で中途半端なものとなり、なかなか浸透しなかった)
そういったプロプライエタリの流れの中で、2000年代にAndroidが登場した。
Androidは、Googleが開発した携帯汎用OSである。
AndroidはLinuxカーネルやオープンソースソフトウェアがベースで、主にスマートフォンやタブレットなどのタッチスクリーンモバイルデバイス向けにデザインされているもので、現在ではスマートフォンにおいては世界一のシェアとなっている。
日米のドローンのプラットフォームの歴史
ドローンのプラットフォームに戻ろう。
ドローンのプラットフォームに関しては、やはりDJIを中心に動いていた。
2013年ぐらいからドローンの市場は徐々に立ち上がってきていたが、主に空撮といった市場が中心であり、その市場において、DJIが大きなアドバンテージを握ることになった。
2015年にホワイトハウスや首相官邸に落下という事件を皮切りに、ドローンという存在が一般の人に知られるにあたり、各国においてドローンの法律が作られ(日本では2015年末に航空法を改正する形でドローン向けの法律が施行された)、その流れの中で一般のユーザーが気軽に飛ばすことが難しくなり、コンスーマー向けから業務用途へとドローンのメインの利用が変わっていった。
ここの変遷の理解を深めるために、ドローンの用途の分類を記したい。
ドローンの用途は、大きく分けると3つに分かれる。
それは空撮、情報収集、作業代替である。
空撮は映画やCM、ドラマといったハイエンドなものから、そのほか観光地や不動産といったものを対象にした商業空撮というものがある。
情報収集はドローンに搭載したカメラやセンサーで情報収集し、測量、点検、工事進捗、リモートセンシング、調査、監視などに使うものだ。
作業代替は、ドローンでの物の運搬、物流や農薬散布などにあたる。(場合によっては、塗布や切断といったものもあるだろう)
日本においては、そのドローンの動きが、2015年当時Amazonが手掛けようとしていた物流といったものが強くメッセージされたこともあり、2015年11月に安倍晋三首相が「早ければ3年以内に小型無人機(ドローン)を使った荷物配送を可能にする」との宣言があり、物流や運搬におけるドローンの活用の検討が中心におかれ、物流の活用を進めるためのロードマップが提示された。その最終的な結実というものが、今年2022年10月に施行される予定のLevel4の解禁だ。
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そのほか、日本においてはヤマハの産業用の無人ヘリが水田での農薬散布に使われていたこともあり、この無人ヘリが1000万円以上と高価だったこともあり、ドローンの農薬散布機というものも多くのメーカーによって開発されてきた。(このエリアに関しては、国産機体メーカーだけでなく、DJIも開発に参入し、そのDJIの農薬散布機を農業機械最大手のクボタがかついだこともあり、このエリアでもDJIのシェアが一番高くなっている)
また、国土交通省がi-Constructionという取り組みの中で、土木測量における測量をドローンを使った写真測量の技法で行うといったことも推進されたが、このソリューションに使うドローン機体はDJIの空撮用の汎用機(PhantomやInspire)が使いやすいこともあり、ここでもDJIのシェアが高かった領域となる。
その後、各種点検市場においても、太陽光パネルや屋根の点検から本格的に動き出し、橋梁などのインフラ点検や建物点検、プラント点検といった領域においても、ドローンの活用が進んできている。(日本において人口減少といった流れの中で、インフラを中心として、新規に構造物を建設するよりも、よりメンテナンスが重要になってきており、そこにおけるドローンやロボットの活用に期待が大きく、日本においては一番市場規模が大きく見込まれている市場となっている)
2019年ぐらいまでの日本におけるドローンのプラットフォームを整理すると、DJIは当然DJIのプロプライエタリであり、日本の機体メーカーの御三家といわれているACSLはプロプライエタリ、プロドローンもプロプライエタリ(主にDJI)、イームズロボティクスはオープンソース(Ardupilot)、また、それ以外の国産ドローン機体メーカーも入手性も高く使いやすい点も多かったため、DJIのフライトコントローラー(NAZA-MやA2、A3など)を使用しているケースが多かった。
ところが、2020年に政府によってドローンのセキュリティの指針が出され、各新聞がその動きを「中国機排除」という形で報道されると流れが一変し、また、その局面でちょうど実証実験から実装の入り口に入りかけていた企業(上場企業を中心として)が多く、そこでの役員会の決議においてDJIのプラットフォームが通りにくくなった。そういったこともあり、DJIのフライトコントローラーを使用していた機体メーカーはDJIから別のフライトコントローラーに移行せざるを得なくなった。
また、日本でのドローンのプラットフォームということで、注目すべきものは、NEDOが進めた「安心安全なドローン基盤技術開発」の委託事業と助成事業である。
これは2020年度~2021年度にかけて、16.1億円の予算をつけて、2つの研究開発を進めたもので、1つは、政府調達向けを想定したドローンの標準機体設計・開発とフライトコントローラーの標準基盤設計・開発ともう1つは、ドローンの主要部品の設計・開発支援と、量産から廃棄までの一連の体制の構築支援である。このプロジェクト推進の中心はACSLが担い、そこにヤマハ発動機、NTTドコモ、ザクティ、先端力学シミュレーション研究所が組んだものとなっている。
ここでのプラットフォームはプロプライエタリとなっている。
ここで米国の今までの動きも追っておきたい。
米国では日本よりも、よりポピュラーな形で当初はドローンが浸透していった。
例えば、2014年のクリスマス商戦でお父さんが一番欲しいものは「ドローン」であったというくらいであった。
この2014年から2015年においては、様々な空撮映像がYoutubeなどで公開されていた。
しかし、2015年の初めにホワイトハウスに落下する事件が起こったあたりから、ドローンを飛ばすルールが厳しくなっていった。
そのルールの厳しさもあったが、米国においては、不動産空撮といった商業空撮の市場規模が大きかったこともあり、当初は空撮に重きが置かれた展開になっていた。
ここでは、やはりPhantomやInspireといったDJIの汎用機が圧倒的なシェアを握っていた。
そのPhantomに対抗する形で2015年の夏に出て来たのが、3DRのSOLOであった。
しかし、そのSOLOは2015年のクリスマス商戦でこっぴどくDJIに敗れ、そこで在庫の山を築き、それが大きな痛手となり、3DRは2016年にはドローンのハードウェア事業から撤退した。
詳しくは「3D Roboticsの光と影、この2年間に起こったこととは?」を参照のこと。
この撤退で、米国においては米国産ドローン機体の開発をトーンダウンし、DJIのプラットフォームを使った(DJI SDKの活用)ソリューション開発にその重きが置かれた。
(3DRでさえも、DJIを使った工事進捗用のソリューション「SITE SCAN」に方向転換し、そこで見事に復活した)
特に米国においてはこの工事進捗という分野におけるドローンの活用が生産性向上や納期短縮、リソースの適正配置といったことに大きな効果を発したこともあり、定着した。
そこでの動きが建設DXに直結してきている。
2018年ぐらいまでは、多少は中国機体(DJI)に対するリスクを示す向きも米国議会にはあったものの米中対立というものが本格化していないこともあり、DJIプラットフォームでのソリューホン開発が進み、インテルやマイクロソフトといった企業もDJIと連携し始めたこともあり、DJIと米国産業の蜜月時代であった。
しかし、DJIが2017年ぐらいから戦略として示していたPublic Safety(警察や消防)といった分野での1人1台の浸透といったものにより、一時期米国においても7割近くのシェアをDJIがこの分野で握るという事態になり、これが米中対立の流れと相まって、米国政府の虎の尾を踏んだ形となった。
米国はもう一度米国産ドローン機体の開発、特にDJIのメインストリームであるMAVICシリーズ対抗の機体開発の施策として新たな予算付けを行った。それは
「2018年年末からthe Defense Innovation Unit(DIU/防衛イノベーションユニット)とthe Army’s Maneuver Center(陸軍機動センター)といった国防機関が連携して、SRR(Short Range Reconnaissance/短距離偵察)Programを実施し、6社に1,100万ドルの資金を提供し、試作機を作らせて評価を行った。
SRRの性能基準は、最大3kmの範囲で30分間飛行、3ポンド(1.36kg)以下、2分で組立て可能(明らかにMavicを意識した要求仕様だ)。
そして、アメリカという国がきちんと現在の技術トレンドを理解していることを示すのは、Autopilot(PX4)のソフトウェアをオープンソースで行い、オープンコミュニケーション(MAVLink)を使い、オープンアプリケーションであるQGroundControlを使用せよという要求仕様であった。」
この軍事予算により、
「このプロセスを通じ、Blue sUASと名付けられた形で、2020年9月には米国国防総省全体において、選択された5つの企業から小型のアメリカ製ドローンを購入できるようになったのだ。その5つの企業は、Altavian、Parrot、Skydio、Teal、Vantage Roboticsとなる。」
このことで、完全にDJIのメインストリーム機体(Mavicシリーズ)の追い落とし体制が確立された。
この後、当時のトランプ政権は、2020年の末にDJIを禁輸リストにいれ、そのことにより、インテルやマイクロソフトといった企業とDJIの連携を断ち切っただけでなく、AppleのApp StoreやGoogle Playストアでのアプリケーションの新規配布も出来なくなり、非常に使いにくい環境となった。そして、政権が変わった現在でもこの禁輸リストからDJIは外れていない。(この後、DJIは自社アプリに関して、Androidでの提供を優先にしている)
ここで重要なのは、米国でのドローンのプラットフォームが完全にオープンソース(PX4)に舵が切られたことだ。
ここでのキープレイヤーはAuterionとなっており、米国においてはこのAuterionを中心にプラットフォームがデファクト化してきており、そのプラットフォームをベースに様々なソリューションが生まれてきている。
(日本でも、NTT e-Drone TechnologyがAuterionと提携し、そのソリューションが展開される予定になっている)
参考:NTTドローンテクノロジー「AuterionとNTT e-Drone Technology、戦略的提携に合意」
そして、2021年から米国でも日本と同様に、ドローンのLTE上空利用サービスが本格化し、ドローンがインターネットオンライン(クラウドの自律移動エッジ端末)となり、大手のクラウド企業がこぞって、農業や建設などのDXという流れの中で、ドローン連携に本格参入してきている。
米国と中国、そして、日本のプラットフォーム戦略
ここで現在の各国のプラットフォーム戦略を整理しよう。
- 米国-オープンソース(PX4)中心
- 中国-DJIおよびオープンソース(Ardupilot、PX4-DJI以外の機体メーカー)
- 日本-プロプライエタリ中心(というより、特別なプラットフォーム戦略が不在)
これはやはりドローンの捉え方の違いに立脚している。
米国においては、その中心が作業代替(物流など)ではなく、クラウドにつながる情報取得といった部分にある。
そして、PX4をそのプラットフォームの中心においたということは、そのPX4の特徴において考えると、これから機体制御の高度化や機体フレームの多様化を追うよりも、いわゆるMavicのようなメインストリームのドローンでの現状の機能での利用を中心とした機体を使うことによる情報産業に力をいれたということになる。
まさにGAFAで世界を牛耳った構図と同様に、それを産業向けGAFAモデルに向かって構築していくといった動きだ。(情報産業>機体製造)
そして、この先には、建設での構造物や農業での農地といった実態をよりクラウド空間にもっていくようなメタバース的な展開を見据えている。(日本ではメタバースがエンタテインメント中心に捉えられているが、米国においてはより産業での利用が検討されてきている。例えば、それは気候変動などの予測に伴う実態シーンでの変化予測など)
一方、中国においては、機体製造でリードしてきたDJIや、また、農薬散布機などにおいてはXAGという機体メーカーを軸にして、米国よりは明らかに機体製造に重きが置かれた形で進んできている。
しかし、情報活用という点においても、XAGなどがすでに実装してきているが、その機体の動作状況などをクラウドに連携させ、その作業把握による作付面積や農薬散布や肥料散布などの作業トレースによっての農作物の品質把握など、作業代替部分における情報化ということに関しては既に手をつけてきている。
今後、中国もより情報産業にも力を入れてくるだろう。(機体製造>情報産業)
米国はこういったソリューションをベースにして、今後、先進国を中心に展開していくことが予想され、中国は農業や建設といった分野を中心に、まだ近代化が進んでいっていない途上国(アフリカなど)、共産主義や社会主義の国々に対して展開していくことだろう。
さて、ここでの日本である。
先に記したように日本は物流から発したドローンの活用の中で、Level4の解禁をもって、国にとっての最初のラウンドが終わる。
後は、公共事業として定着していくか、民間がきちんとビジネスとして構築していくかがこれからのカギとなってくるが、その中で、明確なプラットフォーム戦略はもっていなかった。
それは、ドローンをネットワークのエッジとして捉えていない、単体としてのドローンや作業代替の道具といった考え方がメインだからかと思う。
ガラパゴス化というのは既に使い古された言葉になるが、それはやはり情報産業よりも機体製造に重きを置くために、ネットワークへの意識が希薄になるということに起因しているのだろう。
この米中対立の構図の中で、日本はどういったドローンのプラットフォーム戦略をとっていくのかということであるが、そこでキーワードになってくるのは、各産業での業務用途において、ドローンはまだ最適化できていないということだと思う。
日本は点検という分野において、その活用に向けての進捗が一番進んでいる国だと思うが、各現場の環境によっての最適化ができていないケースが多い。
米国は現状の機体性能で取得できるデータを取得し活用する情報産業という部分に力を入れているし、また、中国は機体製造に重きをおいていることもあり、そこでは大量生産をベースにせざるを得ない。
各業務現場での最適化などに手をつける余裕もないし、おそらくそういったことも日本に比べれば苦手だ。
ドローンのビジネスの中心は情報取得端末としてのドローンにあり、そのドローンのような自律移動体にとって、自己位置把握はその動作においても、その情報活用においても非常に重要となっている。
これから日本で目指すべきプラットフォーム戦略は、単なるフライトコントローラーのOSだけでなく、ドローンやロボットが自在に動く全体環境におけるプラットフォーム戦略だろう。
現在はそれをあまりにドローン単体で処理させようとしすぎている。
日本において、特にGPSが届かない屋内点検といった領域での「ドローン(ロボット)バリアフリー」といったものをきちんと構築していくことが重要だ。
これは屋内などにおいて、ドローンやロボットが自己位置を把握できる環境を構築するためのシステム(カメラやセンサー、通信などを活用したもの)のプラットフォーム戦略である。
この戦略により実環境を動く移動体としての最適化に向けたベースが出来、それはそういった環境構築にもビジネスが広がっていくため、実現した場合の波及効果も大きく、また、海外にもそのソリューションとしての展開が可能になっていくことだろう。
そして、その環境を構築することは、空飛ぶドローンだけでなく、その他の最適な方式としての自律走行車や自律ボートといったところにも応用が利くことであろう。
そういった環境プラットフォーム戦略のベースとして最適なものは、高度な制御(例えば、GPS空間から非GPS空間での移動に関してリニアに制御可能といった点)や自律走行車や自律ボートの制御も充実しており、また、パートナー連携や開発がしやすいオープンソースのプラットフォームである「Ardupilot」となるだろう。
日本が世界のドローン産業全体の中で、その一角を握ることが出来る余地はまだまだあるが、その残り時間は少ない。早く動きだすことが重要だ。