オリンピック開会式を彩った1824台のドローン
COVID-19のパンデミックに見舞われる中、ついに開幕した東京オリンピック。7月23日に行われた開会式では、ドローンによるライトショーが実施され、話題を集めた。
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1台1台のドローンに装着したライト(高精細のLEDを4つ搭載していたとのこと)をデジタル画像のピクセルに見立て、それをコントロールすることで、夜空に仮想的なスクリーンを出現させているわけだ。そのためには多数のドローンを編隊飛行させなければならず、人間が全体をマニュアルで操作するというわけにはいかない。
そこでこうしたライトショーでは、システムによる制御が行われている。今回採用されたのはIntel製のシステム「Shooting Star」で、公式の発表によれば、開会式では1824台のドローンが使用されたそうだ。
Intelは2018年のピョンチャン冬季オリンピックでもドローンのショーを手掛けており、2大会続けての起用となった。ピョンチャンで使用されたドローンはおよそ1200台だったとのことで、約1.5倍のドローン制御が可能になったということになる。
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ただ海外に目を向けると、数千台単位でのドローンを使ったショーが普通に行われるようになっており、今年5月には中国の深センで5164台を編隊飛行させることに成功している。これは現時点で、ドローンの最多同時飛行数としてギネスの世界記録に認定されている。
実は今年3月にも上海で3281台のドローンによるライトショーが行われており、それが当時のギネス世界記録となっているのだが、たった2か月でそれを数千台上回る記録が生まれたわけだ。
当然のことだが、ここまで多数の機体を同時に飛ばすとなると、とても人間のパイロットだけで制御することは不可能だ。既に機体の制御や、障害物の回避など、さまざまな形でコンピュータがドローンの飛行を補助するようになっている。今後はそうした補助的な役割ではなく、コンピュータが実質的なパイロットとして、主要な役割を担うようになるだろう。
それは多数のドローンを飛行させる場合だけではない。超高速飛行においても、コンピュータが人間を上回るパフォーマンスを発揮するようになっている。
人間のパイロットに勝利した、ドローンレース用AI
今年7月、チューリッヒ大学(UZH)の公式YouTubeチャンネルで、1本のドローン動画が公開された。同校はさまざまなドローン研究を行っていることで知られるが、今回の動画の内容も、ドローンの進化を感じさせるものだ。
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障害物の間を超高速ですり抜けて飛行する、レーシング用のドローン。制御しているのは人間のパイロットではなくAIで、高速で飛行するドローンを見事に操っている。
ただAIによる高速飛行であれば、これまでも開発例があり、衝突回避など瞬間的な判断において機械が優れたパフォーマンスを発揮するのは驚きではない。
しかし今回開発されたドローンが従来と異なるのは、飛行経路を含めた判断まで行っているという点だ。最短の時間でゴールに到達するためにはどのようなルートを選択するのがベストか、AIが考えているのである。
今回設定されたレース環境では、一定区間を単純に飛行するのではなく、さまざまなポイントを通過してゴールすることが求められている。そのためどのような順番でポイントをクリアすべきか、ポイント間をどう飛行するかといった点を考慮しなければならない。
さらにその際には、機体の物理的な性能(いくら数式上で理想的な経路を算出できたとしても、現実世界でその通り飛行できなければ意味がない)を計算に入れる必要もある。それらを加味し、総合的な判断が可能なAIを開発しようというわけだ。
実際に行われたテスト(前掲の映像)では、参加した2名の人間のパイロットが不利にならないように、彼らが事前に同じ環境で練習することを許可。その上で実験を行ったところ、UZHが開発したAIの方が、人間のパイロットのパフォーマンスを常に上回る結果を残したそうである。
今回デモンストレーションが行われたのはレースという環境の中だが、高速でベストな飛行経路を算出する能力はそれ以外にもさまざまな応用が可能だろう。レースと同じように1分1秒を争う状況、たとえば災害現場での人命救助や臓器移植用の生体組織輸送などで、このアルゴリズムを活用できる。
また最短のルートで飛行できれば、それだけ電力を節約して長距離を飛ぶことにつながり、より多くの人命を救助できるようになるかもしれない。さらに不眠不休で、いつそうした事態が発生しても対応できるAIパイロットが、多くの現場で重宝されるようになると期待される。