今回、石川県金沢市で国内初となるドローンショーの企画・運営を手がける会社を設立した、株式会社ドローンショー代表取締役CEOの山本雄貴氏にインタビューした。
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株式会社ドローンショー代表取締役CEO 山本雄貴氏
株式会社ドローンショー 公式PV
同社は、コロナ禍の2020年4月に設立するや、8月には金沢港クルーズターミナルで同社初案件となるドローンショーを成功させた。さらに12月に「スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ2020」で最優秀起業家賞を受賞。今後は2021年前半に屋内におけるドローンショーの商用化を目指すほか、「3年、5年後には、石川県をドローン産業の聖地に」との強い想いで事業を展開中だという。
ウェブ、ゲーム業界を渡り歩いた10年間
金沢で生まれ育った山本氏が、初めて会社を設立したのは2007年。大学で経営工学を学び、新卒で三井住友銀行に入社したが、「いつかは起業したい」と休日はビジネスプランの策定に明け暮れていた。当時考えていたのはネット系サービス。「こういうサービスがあったらいいな」と思うものがあれば事業計画を作成し、自信があるものが出来上がると投資家と起業家のマッチングイベントなどに出向き、プレゼンを繰り返していたという。
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「銀行を辞めてやる気があるなら」と出資を受けて起業した事業は、オンライン図書館サービス。ダウンロード不要でウェブ上でドキュメントファイルを閲覧できるビューアーを開発した。結果は惨敗。ユーザーは増え続けるもマネタイズに苦しみ、最終的には百度に500万円で売却してイグジットしたが、投資額の回収には程遠かった。従業員の給与を支払えず、追加投資の実行まで個人名義のキャッシングで凌いだこともあったそうだ。
しかし2010年、この500万円を元手に開発したソーシャルゲームが、リリース初月で1500万円の売上を記録。山本氏は、「当時はちょうどソーシャルゲームがこれから始まるという頃で、出せば売れる状態だった」と振り返る。ゲーム会社の統廃合が進む中でgumiに移籍し福岡支社代表を務めたが、程なくゲームバブルが崩壊。「子供が生まれたのにほぼ家にも帰れず、ゲームバブルも崩壊したけど家庭も崩壊しとるぞみたいな状態になってしまって(笑)」と、ゲーム業界から退くことを決意した。
転機になったのは、2012年からジョインしたネットマーケティングの会社でのIPOを目標とした新規事業開発だ。山本氏は、アプリ開発のPDCAを高速回転。2つのアプリをヒットさせ、2016年に東証マザーズ上場という目標を達成したことを区切りに、金沢へ戻りUターン起業を目指すことになる。しばらくは、「金沢からのリモート経営でもいいから子会社の社長を続けてほしい」とのことで、リモートワークにも取り組んだ。
金沢でUターン起業した想い
「金沢ではドローンショーで起業したい」そう決めたのは、2019年。たまたま友人から教えてもらった中国でのドローンショーをYouTubeで見たことがきっかけだった。
山本氏:新しい事業を考えるのは趣味というか僕の人生そのものです。ドローンを使ったビジネスについても考えたことはありました。それまでは、ドローンは課題解決のためのツールだと捉えていましたが、ドローンショーを見たときに初めて、ドローン自体を見て楽しむエンターテインメントという可能性もあると気がつき、そのインパクトはとても大きかったです。
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2019年といえば日本でも、9月に横浜赤レンガ倉庫で、10月に東京お台場での東京モーターショーでドローンショーが開催され話題となった。時を同じく金沢で山本氏は、ユニチャームなど都心の企業から新規事業開発案件をフリーで受託しながら、グローバルでのドローンショー市場やプレイヤーをリサーチし、「僕自身はこれでやりたいという思いがどんどん強くなっていた」という。
ウェブ系を渡り歩いてきた山本氏が、なぜドローンに舵を切ったのか。根底にあるのは、地元愛だ。
山本氏:社会人生活の大半を東京で起業家として過ごして見えてきたのは、スタートアップや起業はブームになってきたけど、東京に行かないと何も始まらない世の中だということです。何より、大きな事業を始めるには投資が必要ですが、投資家さんの目が地方に向いていないと感じました。「投資家さんの目を少しでも地方に向けられれば、世の中がもっと変わるのでは」というところが、いまの僕の出発点なのです。
まずは生まれ育った金沢から。そして考えた1つは、東京との競合優位性だ。過去にママ向けフリマアプリをヒットさせるもメルカリに破竹の勢いで追い抜かれた過去もある。
山本氏:無形のソフトウェアだけでは、東京より優位には立てない。規制や社会の目も厳しいドローンで、しかも同時に複数機体を使う事業なら、東京ではまだまだ難しく、地方が優位に立てると考えました。
もう1つ研究したのは、グローバルから見た日本のドローンショー市場だ。インテルやスカイマジックなど、自社でドローンショーの技術を開発してグローバル展開する企業もあれば、代理店のような位置づけで運営のみを手がける企業もある。しかし、「自社開発する地域密着型」はまだないことが分かった。また日本の厳しすぎる電波法は、高い参入障壁になっているようだ。
山本氏:グローバル大手企業数社に問い合わせると、日本市場はそんなに大きくないし、よく分からないからまだ参入できないという回答でした。僕らは日本でいち早く多くの事例を作り、自社では技術を持たないけどドローンショーをグローバルに展開していけるような会社さんとタッグを組んで、世界を狙っていきたいと考えています。
ドローンショースタートアップの"スピード感"
2019年10月、CFO吉谷氏とCTO田川氏とともにドローンショー事業を手がけることを決めてから、資金調達、法人設立、初の屋外ドローンショー実施まで、わずか10か月。このスピード感を紐解くと、3つの要因が浮かび上がった。
1つは、山本氏がかつてIPOで得た資金を投じて、ドローンショーのトライアルをすぐに実施したこと。まずは機体6つと自動航行ソフトウェアを手配し、どういうことをやりたいのかを具現化。かねてより付き合いのあったエンジェル投資家に見せて、出資の約束を取り付けた。トライアルショーの開発や実施にあたり、すぐ近くにフィールドがあることはやはり地方ならではの強みだ。
もう1つは、開発を担う田川氏の若さだ。山本氏は、10歳下で20代の田川氏について、「若いからこそある感性や情報収集の仕方がある。元IBMという英語力をいかし、海外のドローンのコミュニティに積極的に参加し意見交換するなど頼りにしている」と話す。
山本氏:得意な分野は自分がやればいいですし、全て自分ができる必要はない。それぞれ年齢も違えばバックグラウンドや得意分野も違うので、それをどんどん出し合って前に進むという意思さえあれば、何か価値が生み出されるんじゃないかなと思ってます。
3つめは、山本氏の「自分が儲けるより、世の中を変えたい」という情熱かもしれない。山本氏が「IPOして儲かった時も、家族には美味しいものを食べさせてあげたい、何かプレゼントしたいとは思ったけど、自分はセレブな生活はおろかタクシーに乗るのももったいないと思った。ケチなんです(笑)」と話す姿は自然体だ。自分が儲かって贅沢するよりも、新しい事業にお金を使って「世の中を変えたい」のだという。
この想いが求心力になっている。金沢に戻るとき、「石川で何かやるなら声かけてね」と言ってくれる投資家が何人もいたそうだ。CTOの田川氏を紹介したのは、CFOの吉谷氏だった。また、パーツからドローンショーに最適なオリジナル機体を組み立てる同社には、北陸のドローン企業や金沢出身の敏腕ドローンエンジニアなど、多くの支援があるという。
2021年前半、「屋内ドローンショー」商用化を目指す
株式会社ドローンショーでは、2020年12月にも新潟県妙高市のロッテアライリゾートで、自社開発した50機のドローンを自動航行させるドローンショーを行った。電波法に則って2.4GHz帯を使った場合、50〜60機程度で約10分間の屋外ドローンショーを安定して実施できるレベルまで技術は向上しているという。
しかし、気象状況の影響を受ける屋外より、山本氏が事業拡大の肝として見据えるのは屋内だ。ベンチマークにするのは、スイスのVerity Studioなど。「屋内ドローンショーは、グローバルでみてもプレイヤーはまだ少なく、日本に参入する気配もまだしばらくはない」と山本氏は見ており、創業当時より「事業拡大の肝は、インドア(ドローンショー)だ」と言い続けてきた。ちなみに、すでに相談案件もあるという。
山本氏:屋外でのドローンショーは話題にもなるので、花火大会のような年間行事としてコンスタントに獲得していきたいものの、機体数を海外のように増やすことは電波法上難しく、開催回数も年間40数回までが妥当だと考えると売上は頭打ちになります。
事業を拡大させるのは、屋内ドローンショーです。グローバルでのプレイヤーの実績を見ても、30機程度で十分インパクトがある。いまは屋内で赤外線を使った測位技術などGPSに依存しないポジショニングシステムを開発中で、2021年前半には屋内ドローンショーを商用化したいと考えています。
石川県を「ドローン産業の聖地に」
「スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ2020」では最優秀起業家賞を受賞した。山本氏は評価ポイントをこう振り返る。
山本氏:事業としての実現可能性と、石川での地域活性化でワークする可能性を評価いただいた。
山本氏は、「5年後には売上10億円、7割は屋内で稼ぐ」と計画するが、決してアーティスト集団になりたいのではないという。自社の強みを「独自開発した複数機体の自動制御技術」と捉え、ドローンショーだけではなく、防災などさまざまな領域への技術活用を狙っているのだ。
「ドローンに関わる会社や個人が石川にどんどん増えて、ドローンで何かやりたかったら石川に行くのが手っ取り早いよねみたいなブランディングや産業構造を作り上げたい。石川をドローン産業の聖地にしたい」と語る山本氏に、その真意を最後に訊いてみた。
いま、地方や海外に旅行しても、東京にもあるものが溢れ、現地の空港に降りたったら当たり前のようにWi-Fiを繋いでSNSを見て、世界はすごく小さくなりました。世界をもっと広げたい。例えば金沢なら、自然や文化伝統とテクノロジーを組み合わせて新しい価値を創造して経済を回すなど。
金沢だけではなく加賀市や能登エリアにもテクノロジーを活用したいという声があるので、小さくても形にして世の中に打ち出すということを続けていって、街全体としてテクノロジーが受け入れられて、石川だけドローンがバンバン飛んでるぜみたいなことになったらすごく面白くなると思っています。