ドローンのテクノロジーが古生物学の世界に交差する?!
先日、テレビで映画「ジュラシック・パーク」シリーズが放送されていました。
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シリーズ第一作目から、この映画の中で最もフィーチャーされていたのが、足に大きく鋭い爪を持った小型恐竜ヴェロキラプトル。知能が高く俊敏に動き回る姿が描かれていますが、ひと昔前まで一般的に恐竜は動きの鈍い変温動物だと考えられていました。しかし、ヴェロキラプトルなどのドロマエオサウルス科の恐竜(ディノニクス)が発見されたことにより、“このカギヅメを武器に動き回ることは、哺乳類のような恒温動物でないとあり得ない!”という「恐竜恒温説」が生まれます。
僕は小学生の頃、この学説をやや過激気味に唱えていた古生物学者、ロバート・T・バッカー氏のテレビ番組に衝撃を受け、番組を録画したテープを擦り切れるまで繰り返し観たものでした。この頃の古生物学者の発掘作業と言えば、乾燥した砂漠で気の遠くなるような細かい作業をただひたすら続けるという地味なイメージ。ビデオの中でも、そんな光景が映し出されていたと記憶しています。
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しかし近年、恐竜の研究分野にもドローンのテクノロジーが応用され、作業の精度や効率化が進んでいるというのです。そこで今回は、恐竜研究におけるドローンの活躍を取り上げてみたいと思います。
恐竜の足跡を3Dマッピング
恐竜の足跡の化石というものは、とても多くの情報を与えてくれる貴重な資料です。足跡や糞、摂食の痕跡など生物そのものではなく、生物活動の痕跡が地層中に残された化石を「生痕化石」と呼びますが、特に足跡からは、例えば以下のように様々なことが見えてきます。
足跡の化石から推測できること
- 足跡をつけた恐竜のおおまかな種類
- 体長(足跡長の約4倍が、恐竜の腰の高さに推測される)
- 歩行方法(尾を引きずった痕跡の有無)
- 歩行速度
- 群れで行動するか、単独かなど
化石を発掘し、分析、研究する古生物学者たちにとって、化石発掘現場のデータをマッピングすることは重要な作業ですが、従来はほとんどの作業を人の手によって行っていたため、膨大な作業量と時間を要していました。また、データを採取する場所へのアクセスが危険であったり、対象が広大な範囲に及ぶことも少なくありません。必要とされるのは、広範囲を効率的にマッピングするテクノロジー。このような課題を解決できるのが、ドローンなのです。
2017年3月、科学ジャーナル「PeerJ」にある論文が掲載されました。クイーンズランド大学の研究者スティーブン・W・ソールズベリによって、化石の調査にドローンやレーザーなどの最新技術が応用されたというものです。
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西オーストラリア州のダンピア半島には、80kmにも渡る沿岸部に恐竜の足跡の化石が広く分布しています。しかし、このエリアを調査するには多くの課題がありました。
- それぞれの調査場所が遠隔であること
- 干潮時にしか調査できない場所があること
- 非常に広範囲であり、かつ複雑であること
そこで彼らは、有人航空機とドローンを併用しながらこの難題に取り組みます。DJI INSPIRE 1を使用して、静止画で約15,200㎡、動画で約8,800㎡に渡る範囲を撮影し、3Dモデルを作成。アクセスが困難な海岸線や、広範囲に渡るエリアに分布する足跡の化石の分布マップを、効率的かつ正確に作成しました。
(A)ドローンの操縦風景(B)飛行撮影中のドローン(C)静止画素材から生成した点群データ(D)Cの一部拡大図(E)映像素材から生成した点群データ(出展:PeerJ)
このエリアでは、1億3000万年前、ブラキオサウルスやディプロドクスなどの大型の草食恐竜が移動を繰り返し、その痕跡として1.5m以上の長さの足跡が発見されているといいます。1億年以上前の足跡が、こうして現代まで残っていることが本当に奇跡のように思えますが、かつての地球上にこのような巨大な生物が優雅に歩いていて、その証拠をドローンで調査できるなんてロマンがありますね。
恐竜好きの聖地でもある、カナダのアルバータ州ロイヤル・ティレル古生物学博物館の研究者や、スコットランドのスカイ島での発掘でも、同様にドローンが使われているらしく、3次元の地図上にマッピングするというドローンの得意領域が、古生物研究の分野では親和性が高いため、その活用が浸透しつつあるようです。
近紫外レーザーで空から化石をハントする
化石は、広大な荒野や砂漠に眠っています。発掘作業やデータ化以前に、そもそもどこに化石が埋まっているのかを探し出すこと自体がたいへんな作業と言えます。
科学雑誌「Methods in Ecology and Evolution」の最新号(2020年8月号)に、とても興味深い論文が掲載されているのを見つけました。香港大学のトーマス G. ケイ氏とマイケル・ピットマン氏によって書かれたものですが、その内容は、ドローンに搭載した近紫外レーザーを地上に照射させることによって化石を発光させて探し出すという驚きの手法です。
古生物学や考古学研究において、衛星データなどを利用した広範囲の調査については、様々な研究者によって、その有用性が以前から認められていましたが、画像分解能の精度やコストなどの問題がありました。発掘した化石を分析する際に、紫外線を照射するという手法が従来から行われてきたそうですが、それを応用し上空から蛍光を誘起できる強度の高いレーザーを用いて化石を検知するドローンシステムを開発した、という訳です。その手順の概要は以下の通り。
- 日中にマニュアルでフライトさせ、ウェイポイントを保存
- 夜間、記憶させたウェイポイントを自動航行(対地光度は4m程度に設定)
ドローンには、近紫外線レーザー、LiDAR、高感度の可視光カメラを搭載。断続的に強力なストロボを発光させ、地上撮影も行う - レーザーに誘起された発光の色(捜索したい対象物によって決まる)を決定
- 撮影素材から該当する蛍光部を検出
- 可視光カメラで撮影した映像(画像)に、検出位置をマッピング
(左)Methods in Ecology and Evolution 2020年8月号表紙(右)近紫外レーザーを照射するドローンシステムのイメージ(出展:Methods in Ecology and Evolution)
論文によると初期テストの結果、化石の歯の部分の発光が比較的顕著であることが判明し、実際に化石を発見することができたとのこと。歯の検出は頭蓋骨の化石の発見につながります。論文の中でも、結果として歯やその他の骨の化石がドローンを活用して発見されました。
ターゲットH1は、蛍光反応を示した物体。20mm程度の歯の化石と判明した(出展:Methods in Ecology and Evolution)
著者がポイントとして強調していたのは、ドローン機体やカメラ、レーザー類も、すべて市販品で構成されているということ。今回使用した現在のシステムの場合、対地高度4mの検出距離と1バッテリー当たり約30分の飛行時間では、理論上4,500㎡をカバーする地上スキャンに相当します。もちろん撮影素材の合成や解析に時間は要しますが、従来の作業フローから考えると、これはたいへんな効率化と言えるでしょう。
モンゴル古生物学地質学研究所の研究者なども、ドローンに可視光やマルチスペクトラムカメラ、サーマルカメラなどを搭載して化石の探索を行っているそうです。作成した3Dマップを使えば、研究室にいながらにして化石を探すことができる、ハイテクな時代になってきたということでしょうか。このような手法は、古生物の化石だけでなく、鉱物資源や考古学的人工物の探索にも応用できると見込まれています。
ドローンとの親和性
日本の古生物研究の権威、国立科学博物館の真鍋真氏によれば、恐竜絶滅の要因となった隕石衝突の証拠であると考えられるイリジウム分布のマッピングにも、現在ドローンが利用されているそうです。
考えてみれば、2次元オルソ画像や3次元サーフェスモデルを作って、そこに何かをマッピングしていくという手法は、基本的には外壁などのインフラ点検と同じ工程です。また、作成したマップ上で蛍光させた化石を発見する方法は、スペクトル分析を利用した精密農業に近い発想だと言えます。「広い場所」で「何かを検知」し、「地図にマッピング」するという一連の作業が、やはりドローンというソリューションが最も得意とする領域だと再認識できます。
上述の香港大学のマイケル・ピットマン氏らは、“衛星データよりも低コストで利用できるドローンを使い、最低限のシステムを試してみた。生態学、地球および惑星科学、考古学の分野における、ドローンシステムの他の潜在的なアプリケーションだ”的なことを言っています。ドローンの技術向上が、これからの古生物研究の発展を加速させていったらとても素晴らしいし、本当にワクワクしてきます。
砂漠や荒野での発掘作業には、塵埃や熱など過酷な環境が想定されます。バッテリーの充電などもままならないでしょう。彼の言う“最低限のシステム”で運用できるという事実、つまり実用性と信頼性のある安価なドローンが市場で手に入るということは、「現場(社会)への実装」に向けてとても重要なことだと思います。
高校1年生の頃まで、真剣に古生物学者になることを志していた僕は、“どうやら仕事としては難しいっぽい”という情けない理由と、“がんばればアマチュアでも十分活躍できるらしい”という若干ポジティブな言い訳によって、結局恐竜研究とは違う道を選択したのですが、それから何年も経って、こうして今取り組んでいるドローンと恐竜が交差することになろうとは、思いもよりませんでした。
また海外に渡航できるようになったら、ドローン担いでゴビ砂漠にでも化石を探しに行きたいものです。