ドローンの実用化を阻むもの
毎年「ドローンビジネス調査報告書」を出版しており、そろそろ2020年度版に向けての調査、インタビュー、執筆の時期となっている。
2019年は、“実証実験から実用化に向けて進む”と予想したが、前々回のコラム(Vol.31)で触れたように、思ったように実用化に進まず、いわば、「実証実験Part2」のような形で、各社が実証実験を繰り返す1年となった。
- Advertisement -
実用化に向けての壁は上記コラムで触れたので、ここでは繰り返さないが、端的にいうと、ドローンが実運用の中で「使いやすいシステム」になっていないということになろうかと思う。
中国リスクの影響
今年5月に、トランプ政権によって、ファーウェイに対する制裁措置を発表されてから、次はDJIへの制裁かといったニュースが流れた。
この件に関しても、コラム(Vol.30)でも触れたが、個人的にはDJIを使うことによってもたらされる“リスク”と“メリット”のバランスを考慮して、実用化にむけた計画を作っていく必要がある。
いわば、単純な形でのDJI排除は避けるべきという考えであり、コンサルテーション先にもそういったアドバイスをしているが、それでも、多くの企業や公共機関が、DJIの“代わり”を求めて模索をし始めた年にもなった。そして、そのこと自体も実用化を遅らせた要因ともなっている。
- Advertisement -
DJIを置き換えるためには
DJI製品は、PhantomやInspireなどの汎用品以外でも、日本製とされているドローンもフライトコントローラーにはA3などのDJI製のものが多く用いられている。
そのフライトコントローラーを置き換えることに関しては、フライトコントローラーのハードウェア的な側面だけでなく、そこに乗せられている“フライトコード”などのソフトウェアにも精通している必要があり、そういった人材が日本では圧倒的に不足している。
また、そのようなドローン本体の“機体制御”だけではなく、“機体管理”のハードウェア・ソフトウェア的な局面においても、DJIと同じようなユーザビリティを持つためには、相応な開発や対策が必要になってくる。
DJIの優れたユーザビリティ
DJIにもまだ様々な使いにくさというものはあるけれど、それでも日本のドローンメーカーのものに比べれば圧倒的に使いやすいものになっている。
ハードウェア的な側面においては、様々あるが、現場感覚でいえば、やはり一番はバッテリーの管理というものになろう。DJIは各機体に応じた専用バッテリーになってはいるが、ドローン以外の製品では当たり前であるけれど、バッテリー上でON/OFFできる仕組みになっている。その他ドローンメーカーは大体がバッテリーケーブルの抜き差しで機体のON/OFFを行う。
- Advertisement -
また、ボタンを押すことでバッテリーの残量を示したり、それだけでなく、内部に回路が組み込まれており、バッテリーのID、トータルの使用時間・充電回数・動作温度などが分かったりする。
その他、専用のプロポも必要な動作があらかじめ組み込んであり、直感的に使いやすいものになっている。(日本のドローンメーカーのものは大体、フタバのプロポで、ラジコンからの愛用者にとっては馴染みで、また、実証実験局面においては、様々にスイッチ割当が可能というメリットはあるのだが、実用局面において、一般の人が使うにはユーザビリティがよいとは言えないだろう)。
ハードウェア上も他にもあると思うが、もっと大きな違いは機体管理などを行うソフトウェアになる。
ドローンを業務で活用するということは、運用管理も含めたシステムとして捉えることが必須であるが、そんな中では機体管理はその各機能がどこで誰が使いたいのかといった観点が重要だ。
そういったフローも含めた使い方を考えた場合、DJIの各ソフトウェア製品群のカテゴリ分けは非常に参考になる。
DJI Go/DJI Go4/DJI Pilot/DJI FLY | 機体設定、機体状態管理、FPVなど(操縦者・現場で利用)
最近では、機体によってアプリが異なり、少しややこしい部分もあるが、それでもドローンを飛ばしている機会が多い人はこういったソフトはすっかり使い慣れてきているものだ。
このソフトの中で、基本的な機体設定だけでなく、フォローモードのような特殊な飛行モードの設定やカメラ設定、アプリによっては簡単な映像や画像編集も出来るようなものも出てきている。
また、フライトログ(テレメトリー情報)のエクスポートやフライトシュミレートの機能も含まれてきている。
現場において、使いやすいようスマートフォンやタブレットにインストール可能となっている。
DJI Ground Station Pro(DJI GS Pro) | 飛行プロジェクト管理、自動飛行ミッション作成・実行など (操縦者・運用者 主に現場で利用)
DJI機体を自動飛行させるアプリケーションは3rdパーティのものも多く出ているが、DJI GS ProはDJIの純正品である。自動飛行ミッション作成・実行の点からは、3rdパーティ製のもので使いやすいものもあるが、GS Proはそういった使いやすい機能を吸収するとともに、プロジェクト管理や飛行ログ管理など、様々な管理機能を強化しており、また、現場でも使いやすいようにタブレットにインストール可能となっている。
DJI Assistant | ファームウェアアップデート、飛行ログ管理など(運用者、主に準備段階で使用)
NAZA-MやA2といった従来のDJI製のフライトコントローラーを使っていた時には、機体調整、ファームウェアアップデート、飛行ログ管理といった様々な管理・調整でこのアプリを使ってきたが、この機能は現在、DJI PilotやGS Proに吸収されてきているようだ。
DJI Flight Hub | 全体オペレーション管理(全体運用者、運用本部で使用)
まだ日本での使用例は多くないようではあるが、海外ではDJI機を使って実用化している分野において、Flight Hubは管理ツールとして必須なツールとなってきている。
複数台のドローンのライブでのオペレーション管理、飛行データ管理、静止画や動画管理、操縦者や操縦群管理、ミッション計画など、運用本部で管理が必要な項目に対して、網羅的な管理が可能になっている。PCおよびクラウドベースのシステムで、当初クラウドのサーバーがDJIのものを利用する前提だったため、抵抗もあったが、現在ではローカルでサーバーを立てての運用が可能になった。
DJIはこういった機体管理だけでなく、ドローンのソリューションとして使われるケースが多いオルソ画像合成や3次元化処理の実行が可能なDJI Terraを出してきている。
今までこの分野でよく使われてきていたPix4DやDroneDeployなどに比べれば、まだ機能が不足していたり使いにくい部分はあるものの、Phantom4 RTKなどではその機体との連動により、より精度を高くしたり、効率を良くしたりする飛行が可能になるような機能も強化されてきており、今後、そういった機体との連動という部分において強みを発してくるだろう。
また、こういった自社ソリューションだけでなく、ソフトウェア開発者向けにSDK(Software Development Kit)を用意し、DJIの汎用機体やMattriceなどのカスタマイズ用機体、DJI製フライトコントローラーを活用するためのツールを提供しているのも強みとなっている。
実用化を迎えるにあたり、ますますドローンをシステムとして考えなければならない段階において、DJIが揃えている製品群には大きなアドバンテージがあり、日本のドローンメーカーやサービサーはこういったDJIの動きを学ぶべきであろう。
欧米でのDJIに対抗する動き
DJIがこういったアドバンテージを発揮する中で、それでもDJIへの一社依存は不健全であり、また、DJIを敬遠したい企業もあるだろう。欧米においても、DJIの動きを見据えて新たな動きが出てきている。
単独の企業でDJIに対抗する勢力を形成するのはなかなか難しいところではあるが、その中で威力を発揮するのは、オープンイノベーションとしてのオープンソースの流れである。
ドローンのオープンソース陣営は、当初Dronecodeで一本化されていたが、ライセンス上の問題により、DronecodeとArdupilotに分かれた。
多くのDeveloperはArdupilotに移行し、Ardupilotは多くの進捗を遂げてきており、現状も進捗中だ。特にマルチコプター以外での機体制御-飛行機型やVTOL、ローバー、ボート、潜水艦といった各エリアでの自律移動全般において改良がなされ、活用の分野が拡がってきている。
一方、DronecodeはYUNEEC、NXP、Microsoftなどの企業が中心となって、エンタープライズ領域での活用に関して、模索が続けられていた。それはまさにドローンをどうシステムとして捉えるかがテーマであった。
そんな中、今年、8月に行われたInterDroneで注目を集めたのは、スイスの企業であるAuterionであった。
Auterionは現在Dronecodeのフライトコードを担っているPX4を開発したローレンツ・メイヤーが共同創業者として2017年に創業した企業であり、Dronecodeを活用したプラットフォームを提供している。
それはエンタープライズ用に管理されたフライトコードEnterprise PX4、タブレットなどで運用可能なGround Station、クラウドでの機体管理を行うCloud Insightsで構成され、そのプラットフォームを物流搬送、点検、公共といった領域に向けてソリューションとして提供し始めた。
これはLinuxがオープンコミュニティの間で技術改良がされていく中で、バージョン管理やサポートなどの観点で企業が使いにくい部分があったが、DebianやRed Hat LinuxといったLinuxディストリビューションという形でパッケージ化されて配布された動きとよく似ている。
現在、GE Aviation、Precision Hawk、AIRMAP、FREEFLYなどの企業がAuterionを支援し、ドローン製造企業でのプラットフォーム採用も拡大してきており、急速にDJIに対抗する一大勢力に浮上してきている。
日本でも各ドローン活用企業は、こういった動きに注目するとともに、どういった形でプラットフォームを構築していくかを真剣に検討する時期に来ている。