損害調査分野でのドローン活用
小型のマルチローター型ドローンが商用化され、普及を始めた2010年代の半ば、そうしたドローンを活用する分野として真っ先に挙げられたもののひとつが「損害調査」である。天災による広範囲に及ぶ自然災害や、自動車の玉突き衝突や工場の火災など大規模な事故において、その被害状況の調査にドローンを活用しようという考え方だ。
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ドローンであれば上空から調査できるため、地表や道路に障害物が散乱している状況でも迅速にデータが収集できる。また地形に行動を制限されないため、たとえば現場が崖の近くでも360度の方向から撮影できる。
さらに自然災害時は現場への人間の立ち入りが規制されることもあるが、ドローンの遠隔操縦、もしくは自動飛行であれば問題ない。こうして被害状況の確認が迅速に進むため、被害者への保険料の支払いが短期間で行われるようになるというメリットもある。
こうした長所から、早くから損保会社がドローンによる損害調査の研究に乗り出している。たとえば日本の「メガ損保」の一画である損保ジャパンは、2015年3月から山間部等での事故調査にDJI製のドローンを活用し、映像を撮影して現場の3次元モデルを生成するという取り組みを行っている。この3次元モデルを活用することで、事故の原因をより特定しやすくなるそうだ。
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またドイツに拠点を置く大手金融グループのアリアンツは、近年英国内で起きた大型小売店舗における火災でのドローン活用事例を公表している。この火災では火災が広範囲に広がり、建物と中に保管されていた商品の在庫がほぼ破壊された。
損害額は300万英ポンド(約4億2千万円)に達したとの報告が小売店側からアリアンツに寄せられたが、現場があまりに広範囲だったこと、また建物内に入っての調査が危険だったことから、アリアンツはドローンによる調査を実施した。
そこから得られた情報により、彼らは建物の構造や内部の被害状況だけでなく、根本的な出火原因まで特定。これにより、契約で明記されていた、保険金が支払われる条件が揃っていることが確認された。
アリアンツはこのドローン活用により、保険金支払いプロセスが迅速化され、また従来の方法(被害現場への調査員の派遣や、足場を組んでの調査等)に比べてコストもリスクも大幅に低減されたとしている。
研究が進む「ドローン探偵」
このようにドローンが現場の情報をいち早く収集することで、事件や事故の原因特定まで効率的に行えるようになっている。それではさらに高度な技術を活用すれば、犯罪捜査にも応用できるのではないか――それに実際に取り組んでいるのが、ブラジル警察の犯罪専門家、ポンピリオ・アラウージョである。
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当然のことながら、犯罪現場では事故や災害の現場以上に、迅速かつ正確な情報収集が求められる。時間の経過や風雨といった自然条件によって、現場に残されている犯罪の証拠が刻一刻と失われていく一方で、些細な情報まで正確に記録できるかどうかがその後の捜査に影響を与えるためだ。
しかし捜査や調査に訪れた法執行機関の関係者自身が、現場に足を踏み入れることで、そこに残されていた証拠にダメージを与えかねない。そこでドローンを使い、空から調査を行わせようというわけである。
アラウージョはドローンとSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術を組み合わせ、ドローンが飛行すると同時に周囲の3次元空間をスキャンするシステムを開発。これで現場の3次元データを記録しようというわけである。
面白いのは、ドローン自体に証拠となりそうなものを検出させ、その詳細な記録を取らせるようになっている点だ。ドローンはまず、ある程度の高度で飛行し、犯行現場の広い地域全体を記録に収める。その中から証拠と思われるものを分析して、続く飛行ルートを決定。証拠周辺を飛ぶことで、さらに情報を集めるというアプローチを取っている。また証拠を検知する物体認識の精度を上げるために、複数の画像を使用した分析が行われているそうだ。
検知できる証拠だが、現在は銃器を把握することが可能とのこと。しかし分析するアルゴリズムのトレーニングを行うことで、血痕なども検知できるようになる可能性があるそうだ。また複数のドローンを群制御して飛行させることで、データ収集のスピードをさらに上げることも検討されている。
アラウージョは将来の可能性として、ドローンで集めたデータから、捜査官がいつでも現場の状況を振り返ることのできる「バーチャル犯行現場」を構築することを示唆している。よくSF作品に、3次元映像で発行現場をそっくりそのまま再現する装置が登場するが、まさにそのイメージだ。
彼の研究が進めば、世界中の法執行機関にこの「探偵ドローン」が配備され、犯行現場でいの一番に調査を開始する存在になるかもしれない。