山火事の消火活動において、ドローンは邪魔なだけの存在なのか?
ドローンは「空の産業革命」を起こすと言われるほど期待される一方で、使い方を誤れば、人や社会に大きな損害を与えかねない存在であることが認識されつつある。今年の夏には、米カリフォルニア州で大規模な山火事が発生した際、野次馬ドローンが現場周辺を飛び回っていたために、消防局のヘリコプターによる上空からの消火活動が20分あまり中断されるという事件まで起きている。カリフォルニア州議会ではこうした事態を受けて、消火活動や救命活動の障害となるドローンが確認された場合、当局が破壊することを許可する法案まで提出された。
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では山火事の消火活動において、ドローンは邪魔なだけの存在なのか――この議論に一石を投じるようなドローンが、ネブラスカ大学リンカーン校(UNL)の研究者チームによって開発された。
「消火活動用UAS(UAS-FF: Unmanned Aerial System for Fire Fighting)」と名付けられたドローンがそれで、一般的なヘキサコプターの機体に、ピンボール大のボールを大量に格納するための筒と、それを射出する装置が付いている。まるでドローンにバッティングマシーンを搭載してしまったかのようだ。
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右の写真が、ネブラスカ大学リンカーン校が開発した「山火事ドローン」、発火するボールとその射出装置を搭載している。
なぜこれが消化活動用ドローンなのか、秘密は搭載されたボールにある。ボールの中には過マンガン酸カリウムの粉末が詰められているのだが、これをドローンから射出する際に、液体状のグリコールを注入する。すると反応して発火するのだが、火が点くまでに数秒の間隔があるので、ボールを射出するドローンはダメージを受けないという仕組みになっている。
これだけなら消火用ドローンどころか、逆に火事を起こしかねない危険なドローンなのだが、UNLはこれを防火帯をつくる道具として期待している。防火帯とは、何らかの方法でつくられる可燃物のない領域で、火災が起きても火はこの領域を越えて燃え広がることができない。問題はどうやって可燃物を取り除くのかという点だが、あえて火を放ってしまい、燃えやすいものを先に燃してしまうという方法がある。UNLのドローンは、まさにこの目的に使われることを想定している。
こうした意図的な野焼きは山火事対策として既に行われており、通常はヘリコプターが使用されたり、あるいは人間が発火装置を背負って火を付けたりといった手法が取られている(発火にはUNLのドローンと同じく、過マンガン酸カリウムとグリコールが使用される場合がある)。しかしヘリを使うと膨大なコストがかかり、人間が火を付けるのでは安全性の問題がある。そこでドローンの出番というわけだ。
もちろんドローンが放ったボールが原因で、余計に山火事が広がってしまっては元も子もない。そこでUNLのドローンは、所定の位置めがけて正確にボールを落とすように制御されており、また風が強すぎる場所や、気温が高すぎる場所は自動で回避するようにプログラミングされている。
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既にテスト機による室内での実験に成功しており、研究チームは現在、米FAAと屋外での実験に向けた調整を進めている。早ければ来年3月にも当局と共同で屋外実験に踏み切るそうである。
特殊な装備を持つドローンはどこまで許されるか
UNLが開発したのが山火事ドローンだとすれば、米コロラド州テルユライドに拠点を置くマウンテンドローン社が開発したのは「雪崩ドローン」だ。
こちらもヘキサコプターの形状をしており、翼長は2メートルで、機体にはダイナマイトを搭載することができる。このダイナマイトは山岳パトロールが雪崩対策として活用しているもので、通常は雪崩の危険性がある場所に手で投げ込み、計画的に雪崩を起こして事故の危険性を減少させるという目的に使われている。これと同じ行為を、ドローンにやらせてしまおうという発想だ。
ドローンは指定した場所に自動で飛行し、ダイナマイトを落とすことができる。そのため人間が出向いて雪崩を起こすよりも、安全に従来と同じ対策を実施できるというわけだ。現在1回の充電で45分間飛行することができ、雪崩5回分のダイナマイトを搭載できるとしている。また悪天候の中を飛ぶことを想定し、機体には防水処理が施されている。
残念ながら「雪崩ドローン」もFAAの承認をまだ受けておらず、実際の雪崩対策にどこまで有効か不明だ。仮に有効性が証明されたとしても、日常的に雪山で使われるようになるまでは、まだハードルが残されている。
いずれのドローンでも、現在人間の手で対策を行う際に使用される道具(発火装置やダイナマイト)が使われているものの、それを自動的に飛行するドローンに搭載して使うとなれば、従来以上に安全性確保に向けた取り組みが必要になる。誤った使い方がなされないよう、消防士や山岳パトロールとしての資格を持つ人物や、関連当局だけが所有できるといった規制を行うことも考えられるだろう。保管や整備のあり方についても、通常の産業用ドローン以上に厳しいルールが求められるはずだ。
とはいえ実証実験を行うだけでなく、実際の現場における運用経験を積まなければ、特殊な装備を搭載するドローンのベストプラクティスを確立することはできない。ある程度のリスクを踏まえた上で、現実での使用を許可する姿勢が当局には求められるだろう。