txt:田口厚 構成:編集部
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深圳視察もついに最終日の3日目。今回は物流用eVTOL機(垂直離着陸可能な固定翼機)を開発しているShenzhen Smart Drone UAV Co.,Ltd.(以下:SMD)と、起業家のアイデアを少量生産までをサポートする“発展型メイカーズカフェ”Shenzhen Valley Ventures(以下:SVV)に訪問してきました。
高い技術の物流用eVTOL機を開発するSMD
日本でも各地で実験が行われ始めた物流分野のドローン活用。大型積載量で長時間飛行に強みを持つ機体を開発するSMDも深圳に拠点を置く会社のひとつです。特に技術が必要なeVTOL機(電力垂直離着陸機)を多数持つSMDの開発力のポイントを視察してきました。
筆者:SMDはeVTOL機の開発で定評がある会社ですね。
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SMDのeVTOL機。ホバリング時は写真のようなプロペラ角度だが、前のプロペラが垂直になることで推進力として使う
機体ボディに荷物を積載することができる
大前氏:もともとSMDは物流用ドローンを作ることを中心に考えている企業で、その課題としてはやはり「飛行距離を伸ばしたい」ということ。もちろんクワッドコプター型も開発していますがeVTOL型が主力です。
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筆者:お恥ずかしながら初めてVTOL機が飛ぶところをみたのですが、あれほどまでにスピードが出るとは思わなかったです。フライトはほんとうに固定翼機と変わりませんね。
大前氏:当たり前のことを言うようですが、VTOL機の特徴は垂直離着陸。離着陸はマルチコプターと同じで、フライトは固定翼のようなスピードと高効率。物流機と考えたらMUSTの特徴ですね。
固定翼機の形状を持ちながらホバリングで垂直離着陸ができるのがVTOL型の特徴。回転翼機として見ていると飛行速度の速さに驚く
筆者:私たちが見たSMDの物流用機体は2タイプありました。クワッドコプター型とeVTOL型。
大前氏:eVTOL型は積載容量は15L/ペイロート8kg、飛行距離は120km。クワッドコプター型はペイロード10kg、飛行距離は20kmでした。
筆者:デモンストレーションはクワッドコプター型で3km先の農家さんまで飛んで行って、ドラゴンフルーツを載せてもらって帰ってくる…というものでした。
3km先の農家まで飛行するドローンはグランドステーションで管理していた
大前氏:クワッドコプターがドラゴンフルーツを持って帰ってきたときにはみなさん興奮していましたね。ただ、一方で人やビルなどの建物が立ち並ぶエリアでの実証実験ということで少し怖い印象を受けたのも事実です。
筆者:怖い…というのもありますし、反面「うらやましい」というのもありますね。このような状況でテストを繰り返すことができるということは日本ではなかなか難しいことです。
大前氏:確かに、会社の裏手の空き地を離発着場所として活用してテストフライトできるということはうらやましい環境ですね。それと、知っていました?実はSMDにはさらにひとまわり大きなeVTOL機体があるんですよ。
筆者:そうなんですか?そんなに大きな機体ありましたっけ?
大前氏:ボクね、CEOの方に部屋の奥に連れて行かれて見せていただいたのですよ。ペイロード50kgのすごい機体。しかも飛行距離は150kmにもなるとか。このレベルになると、日本であれば離島間物流の仕組みを変えてしまう可能性がありますよね。
筆者:SMDと同レベルの機体を開発できる企業が日本にあるかというと、やはりSMDが先行している感がありますよね。SMDはどのあたりがほかの企業と比べて先進的なのでしょうか。
大前氏:まずeVTOLの自立を成立させていることが技術的に進んでいますね。オスプレイのような前方のプロペラが水平から垂直に稼働して推力を発生させる「チルトローター」式でした。それとその大型機をテストできる環境という優位性もあるかと思います。
筆者:それと、開発はソフトウェアも含めて自社で行っている感じでしたね。
大前氏:深圳というとアッセンブリ工場が多いので分業的に開発を行っているイメージがあるんだけど、ドローン企業に関してはほとんどの会社が自前で開発・組み立てをしている企業が多かった。自前でしっかりとビジネスが作れている会社が延びてきている会社なのですよね。
優良アイデアをビジネスにする斬新な施設SVV
最後の訪問企業はSVV(Shenzhen Valley Ventures)。これまでの訪問と違い、ドローンメーカーではなく、少量生産までを実現するファクトリーカフェのようなところです。日本にはあまりこういった施設(仕組み)はないのですが、近いところでは「Fab」「メイカーズカフェ」になるのでしょうか。
ただ、SVVはアイデアをビジネスにするところまでをサポートする仕組みがあるというところがそれらとは違うところになります。
エントランスのカフェエリアでプレゼンテーションを行う代表のチャド氏
筆者:仕組みを理解するまでに時間がかかってしまったのですが、とてもおもしろいところでした。メイカーズカフェのようでそうでない。
ベンチャーキャピタルも入り、そこにおいてある機械に対する専門エンジニアも常駐してアイデアを少量生産のプロダクトまで完成させることができる…という日本にはないタイプの施設でした。
大前氏:SVV代表のチャドさんが言っていた話としては…深圳はものづくりが活発な場所であるものの、実際にものづくりベンチャーが独り立ちするのは大変だと。
ひとつはいいプロダクトを量産体制まで持っていくには時間と技術が必要であること。
もうひとつは実際にいいものが作れたとしても投資家と出会うことは容易ではないということ。このふたつがないとこの先深圳のベンチャーがなかなか成長しないとおっしゃっていました。
筆者:日本では深圳以上にそのあたりは問題かと思いますが…SVVはまさにそのふたつをサポートする施設であり仕組みでしたね。
大前氏:今の日本のドローン産業の中で果たして大量生産できるところまでいっているところがあるかというと、本当に稀です。
自前で月産100機200機というところまでいけたらすごいと思うけどそうはいかない。それを考えると、チャドさんがおっしゃっていた試作から量産までいくというプロセスはとても大事だと思います。
筆者:設置している工作機のレベルも業務レベルでしたね。3Dプリンターやレーザーカッターはもちろん、基盤のプリンターや熱・水・落下などで耐性を検査する装置、風洞や電波暗室まで工業生産に必要なものがすべて揃っていました。
大前氏:さらに言うとSVVは誰でも出入りできるわけではなく、審査制を取っていました。サポートを受けると量産化・ビジネス化の可能性が高い人や企業が出入りしている。そうするとそこに投資家も集まりやすくなる…という流れを作っています。
筆者:アイデアを持った人がカタチまで持っていける、数百の少量生産なら工業製品レベルのクオリティでできてしまう。それがSVVの仕組みですね。
大前氏:日本にはこのコンセプトはないかなと思いますね。だから試作から量産に行くときに突然1000ロットと言われる。でも、それってちょっと負荷が高い。であれば100ロット200ロットできるSVVのような施設があるといいと思います。
深圳視察を終えて…
今回の深圳視察を終えて、印象に残ったのは技術的なスピード感や先進性はもちろんのこと、何よりも企業やアイデアを取り巻く環境のや仕組みの優れた基盤があるということです。深圳は平均年齢が30代とも言われ、夢や課題解決に向けてチャレンジする雰囲気が当たり前のようにあり、さらにそれを支援する仕組みやテストする環境、協力し合う体制がありました。
市内には、国内のあらゆる大学も進出してきており、街の至るところにピッチイベント会場がありました。そのピッチ会場では毎晩のようにイベントが開催されているそうです。政府や自治体、企業や大学などが一人でがんばっているのではなく、巻き込み、巻き込まれながら新しいものを創り出していく…。
深圳で次々に生み出されていく新しい技術や先進的なサービスは、そこで活躍する人たちの心やキモチを原動力に社会全体で生み出しているのだと感じた3日間でした。