米アマゾンがドローンによる配送サービス「Amazon Prime Air」構想を発表したのは、2013年12月のことだ。当初彼らは、早ければ2015年に同サービスを開始する計画であると発表していた。それから6年が経とうとしているが、いまだに私たちの空が配送用ドローンでいっぱいになるという未来は実現されていない。実証実験は多数行われており、また多くの企業や自治体が取り組みを表明しているものの、実用化に至った例は現時点ではわずかだ。
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とはいえ、いわゆる「ラストワンマイル」、すなわち最終的な届け先へと荷物を運ぶ最後の工程においては、ドローンの活用が有望視されている。研究者によっては、さまざまな障害物や不測の事態に対応しなければならない自動運転車よりも、ドローンを使う方が現実性は高いという評価を下しているほどだ。
そうした「ラストワンマイル」におけるドローン活用に関して、新たなアイデアが登場している。欧州の航空機メーカーとして知られるエアバスが取り組む、船舶へのドローン配送だ。
エアバスは近年、ドローン開発・活用の取り組みを積極化させている。医療ソリューションを提供する企業インターナショナルSOSと提携し、ドローンによる医療物資および医療用品輸送の実用化を目指したり、Facebookと提携してソーラー発電ドローンをテストしたり、さらに変わったところでは、アウディと共同開発で「ドローンタクシー」を実現しようとしており、昨年12月にはそのコンセプト「Pop.Up Next」を発表している。
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エアバスが手掛けるドローンタクシーのコンセプト「Pop.Up Next」
さすがにこちらは、文字通り概念レベルの存在だが、それよりもずっと現実性が高く、かつ実証実験まで成功させているのが「沖合に停泊する船舶へのドローン配送」である。
実験が行われたのは、東南アジアの都市国家シンガポール。シンガポールはドローン関連技術や知識の定着を目指し、同国の中心部に近い産業集積地ワンノース地区を「ドローンエステート」に指定している。この地域では当然ながら、ドローンの試験飛行が許可されており、さまざまなドローン関連プロジェクトを誘致している。そのひとつが、エアバスが開発を進めるドローン配送システム「Skyways」の実験だ。
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エアバスがシンガポールで開発を進めるドローン配送システム「Skyways」
このデモ映像からもわかるように、Skywaysはドローンの機体だけでなくドローン管制システムやドローンメンテナンスシステム等から成り、ドローンを自律飛行させて、小さな荷物の「ラストワンマイル」配送を実現することを目指している。
「船舶へのドローン配送」の効果
そしてこのSkywaysの活用法のひとつとして、今年3月にエアバスが成功させたのが、沖合に停泊中の船舶に対するドローン配送だ。こちらも実際の実験の様子が映像で公開されているので、そちらをご覧いただこう。
エアバスが海運会社ウィルヘルムセンと共同して行った「船舶へのドローン配送」
これは北欧の海運会社ウィルヘルムセンと共同で行ったもので、実験環境のセットアップはウィルヘルムセンが行っている。エアバスは港から沖合1.5キロメートルの場所に停泊中の船舶に対し、Skywaysのシステムを活用して、1.5キログラムの荷物をドローンで運ぶことに成功(船舶の甲板上に着地させた)。さらに配送完了後は速やかに港に戻り、所要時間は全体で約10分間だったそうだ。この間すべて、ドローンは自律飛行を行っている。
今後はさらに、距離は沖合3キロメートルまで、荷物の重量は4キログラムまで対応可能にすることを目指すそうだ。ちなみにエアバスはこの実験の成功を受け、次はシンガポール国立大学において、都市環境内でのドローン配送実験に乗り出すとしている。
なぜ船舶へのドローン配送が必要なのだろうか?現在、沖合に停泊中の船舶と荷物のやり取りをする場合、小型船が使用されている。しかし小型とはいえ船舶を沖合まで航行させるのにはコストがかかり、さらに大型船に接近する際には、衝突などのリスクがある。そこでドローンであれば、運べる荷物に一定の上限はあるものの、低コストでリスクの少ない輸送が可能というわけである。
実際にこの実験では、従来よりも最大で配送のスピードを6倍、コストを90パーセント削減できることが確認されたとしている。また同じ効果の実現を目指して、他の関連企業や組織も「船舶へのドローン配送」の開発に乗り出している。たとえばノルウェーのドローンメーカーであるGriff Aviationは、より大きな荷物を運ぶことを計画しており、積載量200キログラムを超える大型のドローンが使用される見込みだ。
沖合の船により大きな荷物を運ぶ(Griff Aviationのインスタグラムより)
こうした取り組みは、「ラストワンマイル」の分野に、まだまだ付加価値の高いドローン配送が存在していることを示すものだろう。またこうした(比較的)対処すべき問題の少ない領域においてシステムを実運用していくことで、具体的なメリットとビジネスを確立しながら、より信頼性の高いドローン配送技術が培われることも期待できる。そうした技術の積み重ねが、最終的に私たちに日常品を届けてくれるドローンとして結実するに違いない。