ドローンと大雨
空を飛ぶものを操縦したり、あるいはそれに乗ったりしたことのある人であれば、いかに飛行体が気象の影響を受けやすいか説明不要だろう。地上を走る乗り物ですら、突風が吹けば横揺れして事故を起こす場合もある。飛行中の小型ドローンにとって、厳しい気象条件は天敵とも呼べるものだ。
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今年5月、日本気象協会と防災科学技術研究所(NIED)、ならびにドローン開発/利活用を手掛けるイームズロボティクス株式会社と株式会社イームズラボが共同で、「大雨ドローン実験」なるものを行っている。これはNIEDが保有する大型降雨実験施設を使い、文字通り「大雨の中でドローンを飛ばす」というもの。1時間に300mmという、台風直撃時に相当する降雨量(気象庁の定義では、1時間雨量が80mm以上で「猛烈な雨」と定義され、車の運転も危険とされている)を再現し、その中でドローンの飛行が行われた。次の映像が、実際の飛行の様子だ。
この実験の目的は「ドローンが大雨に遭遇した場合の機体耐性と挙動を評価する」こととされていたが、もうひとつ狙いがあった。それはこうした実験データを集めることで、大雨の際に、ドローンの飛行可否を判断する指標の開発を目指すこと。
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この指標には「大雨アラート」という名前が付けられ、ドローンが飛行する際、「飛行経路上に大雨がある場合などの時、『危険』『注意』などの注意喚起情報を提供すること」を目指すとしている。
また日本気象協会は、大雨だけでなく、ドローン向けの専用気象予報システムの開発にも乗り出している。これは気象協会が開発した気象モデルを活用し、250m四方という細かさで天気予報を提供するというもの。
情報は5分ごとに更新され、高度別にも分けられるとしている。彼らはそのデータをドローン運航管理システムに配信する実験も進めており、こうした環境が整えば、ドローン自ら必要な気象情報を取得して、ゲリラ豪雨の接近といった危険を回避する行動を行わせることができるだろう。
またドローン向けの天気予報としては、長期予報を正確に行うという方向性でも進化が進んでいる。たとえば株式会社E・C・Rと株式会社気象工学研究所が共同開発したドローン向け天気予報システム「Dro天」は、全国61地点を対象に33日先までの天気予報を行い、飛行条件を10段階の総合判定で表示してくれるというもの。
日本国内でドローンの飛行許可申請を航空局に対して行う場合、手続きに2週間ほどの期間がかかる。気象庁の週間予報では1週間先までしか発表されないため、このサービスを使えば、より天候に恵まれた日に合わせて申請できるというわけだ。
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ドローン向け天気予報サービスの進化
米国では、ニューヨーク州において、日本気象協会の取り組みと同様の「マイクロ天気予報サービス」の実用化に向けた動きが進められている。
計画を進めているのは、共に米国企業のCustomWeather社とTruWeather Solutions社。彼らはパートナーシップを締結し、今後数か月間で、ニューヨーク州においてドローン向けマイクロ天気予報サービスを開始するとのこと。予報の間隔は100m四方と、かなり細かいものになっており、また高度別の情報も提供するとしている。
そこに含まれる情報の種類は、風向きや風の速さ、突風の発生、温度、視界の良さ、降水量、地表から上空500mまでの雲の状況、最低海面気圧(MSLP)など多岐にわたっている。
また彼らは、米国でドローン専用空域の設置を目指している団体NUAIR(The Northeast UAS Airspace Integration Research Alliance)とも協力している。NUAIRはニューヨーク州にあるグリフィス国際空港の付近に、全長約80kmの試験用ドローン空域を設置し、ドローン用航空管制や探知システムなどの実験を予定している。NUAIRのCOOであるアンソニー・バジーレは、CustomWeatherとTruWeatherが提供するマイクロ天気予報が、空域内での安全な目視外飛行(BVLOS)を実現する上で欠かせないと述べている。
マイクロ天気予報サービスにとっても、こうした実験は、それがドローンの安全にどれほど貢献するのかを明らかにする上で欠かせない。特にドローン用の航空管制や運航管理システムと統合され、気象データがドローン上でリアルタイムに処理されて、ルート決定に役立てられるようになれれば、ドローンを支えるインフラに欠かせない存在として認識されるようになるだろう。
一方で、ドローン自体が天候観測用のデバイスになることも期待されている。たとえば先ほど登場した日本気象協会は、2017年10月に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で、ドローン向け気象情報提供機能の開発に向けた実証試験を行っている。この中で、「ドローンによる気象観測の実証試験」として、気象センサーを搭載したドローンを飛行させて高度50m/100m/140mの気象観測を行うという試みが行われた。
これは観測自体を目的としてドローンを飛ばすというものだが、今後各種センサーが小型化されれば、実際にさまざまな空域を飛行しているドローンからリアルタイムで気象情報が集められるようになるだろう。そうして集められる大量のデータに基づいて、AIなどを活用し、より精度の高い気象モデルが開発されるだろうと考えられている。
突風やゲリラ豪雨といった気象は、ドローンだけでなく小型の自律型ロボットにとっても大きな脅威となる。これからドローン向けの天気予報がインフラとして進化していけば、それが基盤となって、他のロボットたちの普及も後押しすることになるだろう。