毎年主執筆をしている「ドローンビジネス調査報告書2018」がインプレス総合研究所から、3月に出版された。
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この調査報告書の執筆は3年目となるが、今回も30社程度のドローン関連会社を取材しており、そこでの知見を踏まえ、1年間の進捗や日本での現況をアップデートしたい。
国内のドローンビジネス市場規模の予測
出典:インプレス総合研究所「ドローンビジネス調査報告書2018」
2017年度の日本国内のドローンビジネスの市場規模は503億円で、2016年度の353億円から150億円の増加(前年比42%増)となった。2018年度はより市場が拡大する予測となっており、前年比71%増の859億円となっている。そして、市場拡大はより加速し2024年度には3,711億円(2017年度の約7倍)に達する見込みだ。分野別では、2017年度は機体市場が210億円、サービス市場が155億円、周辺サービス市場が138億円となった。
周辺サービスには、バッテリー、保険、スクール、ドローン練習場などが、含まれている。2024年度の見込みは機体市場が730億円(2017年度の約3.5倍)、サービス市場が2,530億円(2017年度の約16倍)、周辺サービス市場が451億円(2017年度の約3.3倍)に達する見込みとなっており、サービス市場での伸びを多くみている。
2017年度版の執筆時点では、2017年度の全体市場予測は533億としていたが、今回の2018年度版の実態では503億となり、予測に対して若干伸び悩んだ年となりました。特に「サービス市場」というドローン自体を活用したサービス事業に関しては、社会実装にむけての立ち上がりが遅れており、伸び悩んだ要因となっている。
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一方、スクール事業や任意保険、メンテナンス、消耗品販売などの「周辺サービス」は予測よりも伸長しており、活用にむけた土台作りは進んでいるといえる。全体として、2017年度は産業ごとにドローン活用にむけた黎明期と普及期が混在した状況となっている。
2017年度の全体的な概況をみた場合、2016年まで「国プロ」といった国の研究開発予算をベースとした実証実験が中心であったところから、民間投資にシフトしていく流れが出てきた年となった。「国プロ」に関しては、日本の全体における社会課題の解決に向けての技術向上といった面はあるが、その一方でコストやビジネス性の考慮が少なくなりがちで社会実装が進みにくいという要素もみられる。
2017年度は、民間投資の波を受けて、各民間企業のドローンを産業化するための実証実験も多く行われている。ただし、「国プロ」と違って、民間においては、実証実験の段階はプロジェクト開発途上のため、あまりそのプロジェクトがオープンされることが少なく状況がみえにくいといったことがあり、今回の取材でもオフレコでという内容も多かった。2018年度からは、こういった実証実験の検証結果をベースに企業が判断をし、開花していくことになるだろう。
2018年以降の5つのトレンド
出典:Ardupilot.org
調査から見えてきた今後のトレンドは大きく5つある。1つめは、「空から、陸上、水上、水中へ」ドローンをドローンたらしめ、そして、技術向上してきたのは、その心臓部であるフライトコントローラーである。フライトコントローラーにより、ドローンはより使いやすくなり、また、低価格化してきたという流れがある。そして、そのフライトコントローラーは、いわゆるマルチコプター(回転翼)だけでなく、飛行機型の固定翼やVTOL(Vertical Take-Off and Landing)といった垂直離着陸機に拡がっている。
また、ドローンのハードウェア開発企業にとって、空だけでなく、陸上のローバーや水上のボート、水中の潜水艦といった自律型の移動ロボットと開発の範囲が急速に拡大しており、今後、ドローンのビジネスソリューションを検討する際には空を飛ぶものだけでなく、陸上や水上、時には水中といった環境下での適材適所でのドローン活用を念頭に置くことも重要になっている。
以下、追って解説していこう
「室内などの活用環境の拡大」
ドローンは自律および安定に対して、GPSに多く依存している。そんな中でそういったGPSに頼らない非GPS環境下でのドローンの自律、安定のための技術開発が進んでいる。非GPS環境下での技術は大きく三つの分野に分かれる。
一つめがドローン自体での処理、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)という自己位置推定と環境地図作成を同時に行うような方式などがある。位置の推定やマップ作成にはレーザーレンジスキャナー(測域センサ)、カメラ、エンコーダ、マイクロフォンアレイなどが利用されている。この方式は主に変化の中で相対的に自己位置推定と環境地図作成を行うため、絶対的な位置との対応をどうするかといった課題がある。
二つめが、GPS代替のため、外側に設置された電波を使っての測位がある。iBeacon、UWBなどの電波を使い技術検証がされている。この方式はまだ精度向上に課題がある。三つめは、外部処理を活用するもので、例えば室内に設置された複数のネットワークカメラからの映像を用い、サーバー上で位置計測を行い、それをドローンに送るといった方式がある。この方式は設備に関して大掛かりになりやすいといった課題がある。どの方式も一長一短があり、その環境にあった方法で、いくつかの方式を組み合わせて、精度を上げていくことが望まれている。
ドローンなどの移動型ロボットが室内空間で精緻に安全に移動するには、ドローン本体だけでなく、上記にあげたような周辺環境の整備が必要で、高齢化に備えて「バリアフリー」住宅がトレンドになったように、今後、移動型ロボットが活用されていくには「ロボットバリアフリー」環境の構築は、今後、大きなビジネスチャンスにつながっていくことだろう。
「ユーザー目線での費用対効果」
ビジネスという観点で産業としてのドローン活用が進んでいくなかにおいて、また、実証実験から社会実装にむけて、ますますユーザー目線のROI(Return of Investment、費用対効果)が求められている。手段としてのドローンを使い、ユーザーとしてどんなメリットがあるのかといった視点でビジネス構築をしていく必要がある。ここに日本でのドローンビジネスが若干低迷しているポイントがある。
土木現場において、i-Constructionに伴う3次元測量でのドローン活用が進み始めているが、国が提示するルールが先行し、現場での効果を示すにはなかなか至っていない。(i-Construction自体が高齢化や現場の就労人口減少に伴う社会課題解決というポイントが大きいということもあり効果がでるまでに時間がかかるという面もあるが)欧米においては、土木や建築現場において、測量よりも進捗管理が先行している。毎日の工事の終了後、ドローンを現場の決められたルートを自動航行させ、現場での空撮データを毎日取得する。その空撮データを活用し、二次元および三次元での画像合成を行い、毎日の工事進捗状況を確認する。その工事進捗データを参考にして、人や建設機械の適正配置を行う。これは年間で数万ドルから数十万ドルの経費削減につながるソリューションになる。
こういった形で明確にユーザーのROIを示すソリューションを提供していくことがドローン関連企業にとって必要だ。
例)3DRのSitescanの映像
「IoTのエッジ端末としてのドローン」
情報取得端末としてのドローンのソリューションが拡がるにつれ、エッジ端末としてのドローンの重要性が増している。そこで、IoT(Internet of Things)の観点も、データ取得の内容が、点(Point)から線(Line)や面(Surface)に拡張してきている。
この拡張の中で、データも大きくなってきている。そのデータ容量と通信回線スピードの観点から、そして、そのデータを活用したいタイミングの観点から、エッジコンピューティングの構築への移行に向けた取り組みが始まっている。
エッジコンピューティングでは、データ取得時のエッジ層での各データの収集だけでなく、そのエッジ層でインテリジェントに加工や分析も行うことで、クラウドに送信するデータの最適化や、現場での必要なデータ取得といったリアルタイム性を確保することが可能となる。また、クラウドの処理集中を避けることで、クラウド層のITリソースの最適化や可用性向上を図ることができる。
こういったソリューションにより、ドローンからの情報が、ビッグデータ化し、それをAI解析することで、各種予測(気象、災害、農作物、インフラや構造物の老朽化、群衆移動など)につながっていくことになるだろう。
こういったトレンドに今回、報道のあったDJIとMicrosoftのパートナーシップの要諦があるだろう。
「ドローンの業務パーソナル携帯化」
ドローンの機体市場において寡占状態にあるDJIの本社は、世界に向けた戦略として、「Public Safety」での浸透をプライオリティの1番に掲げている。「Public Safety」での浸透とは、警察官や消防士といった業務を行う各人一人一人にドローンを携帯させるということを意味する。事故、事件、火災などの現場における状況管理や犯人追跡等にドローンを活用していくということだ。こういった方向性もあり、DJIはMavic Airなどの小型で性能が高い機体の開発に特に注力している。
このドローンの業務におけるパーソナル携帯化の動きは、警察官や消防士といった業務だけでなく、フィールドでの様々な業務に展開されていく可能性がある。そのほかのフィールドで活動する人たち、例えば、災害現場での状況把握、農地把握のための農家、害獣対策のためのハンター、各種点検のための点検作業者など、多くのフィールドを中心とした業務への拡がりが想定される。
このトレンドは、今までドローンが比較的広く、遠方へといった活動の幅の動きを中心に考えられていたことから、もう少し狭い範囲で、そのフィールド作業者がその日に把握したい範囲ということへシフトしていくことを意味している。
このトレンドシフトによって、DJIのような機体メーカーは多くの台数を市場に販売していくというビジネスチャンスがあるが、それだけでなく、業務において多くのドローンが市場に展開されていくことは、その他にも多くのビジネスチャンスを生むことになる。
例えば、こういった業務に適した自動飛行を行うためのアプリケーションやフィールドで情報処理するためのアプリケーション、その情報を蓄積し解析していくためのクラウドサービス、個々の端末を管理するためのサービス、そして、データセキュリティなどだ。
このトレンドシフトは、オフコンや業務用のデスクトップPCが会社やグループに1台だったころから、ノートPCになり社員一人一台のPCを持ち始めたころのトレンドに似た動きになっている。そして、そのPCがサーバーにつながり高度な処理や管理がされ、また、それがクラウドに拡がっていったことにも相似するものだろう。そういった意味において、既存のIT企業にとっても大きなビジネスチャンスとなる動きとなることだろう。
この業務のパーソナル化を示すようなソリューションが既に出てきている。それがDrone Deploy社のサービスだ。「Drone Deploy」は以前までは、ドローンの飛行地域の管理や情報提供、取得したデータの画像合成を行うといったサービスをクラウドで提供していた。
2018年に入り、「Live Map」という機能の提供を開始した。これはドローンからの空撮データによる画像合成をオフラインで、ドローンの飛行と同時にライヴで画像合成をしていくという機能だ。これによって、フィールド作業者はドローンを飛ばしてすぐに、周辺の状況把握が可能となる。これはまさにドローンの携帯による業務のパーソナル化の先駆けを体現するソリューションとなっている。
「Live Map」の映像
このトレンドの中、ドローンは機体といったハードウェアだけでなく、サービスや周辺の環境構築からアプリケーション、クラウドに至るまで世界ではビジネスの広がりをみせ始めている。日本もキャッチアップをしていかないとよりビハインドしてしまう。