ワンオペで撮影をすることが多い筆者にとって、映像を確認しながら機体を目視することが同時にできるヘッドマウントディスプレイはとても興味があるアイテムだ。しかし、良さそうなモノは少し高価だったり、安価なモノは使い物にならなかったりと現場で使うには至っていなかった。
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そのような中、今回、brotherから発売される「AiR Scouter WD-300A」は実売価格10万円前後ながら1m先に19インチ相当の画面を表示させることができるという魅力的な製品に仕上がっている。そこで今回は、旧モデルとの比較もしつつ、WD-300Aの有用性を検討してみたい。
基本構成
WD-300AはHDMI入力(720p)となっており、Phantom4 Pro+/Advance+ならばそのままプロポ裏のHDMI出力に接続すれば利用できる。もちろんINSPIRE2でも映像出力を720pにすることで利用可能だ。
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電源はDC5VなのでUSB端子から取ることができる。モバイルバッテリーを接続してもよいし、Phantom4 Pro+/Advance+ であればプロポ裏面のUSB端子から電源を取ることもできる。
左上の黒く四角いものがコントロールボックス。ボックスに接続されたHDMIケーブルとUSBケーブル、赤いモバイルバッテリーは別売
電源及び映像を入力するコントロールボックスはヘッドマウントディスプレイとケーブルで接続(固定)されている。コントロールボックスをポケットやカバンに入れてヘッドマウントディスプレイを装着するのがベターであろう。本体が充電式という選択肢もあったのだろうが、市販のモバイルバッテリーから給電できるのはそれはそれでありがたいところ。汎用に持ち歩いているものを流用できる。5,200mAhのバッテリーで8時間の稼働目安なので、1日の撮影でも使い切ることが難しいくらいだ。
コントロールボックスの入力はHDMI×1とMiniUSB×1。MiniUSBから電源を供給する。
ディスプレイはアタッチメントを交換することで右目、左目の両方に対応できる。効き目もあるので、自身の目の特徴に合わせて選択してほしい。筆者は右目の方が左目よりも視力が高く、ディスプレイは右目側に付けたほうがしっくりと来た。
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映像表示のタイムラグは非常に小さく、Phantom4 PRO+のモニターとWD-300の表示を比べたところ、WD-300Aのほうが若干早く表示できた。簡易比較として、PRO+のモニターとWD-300の両方にプロポからの映像を表示させながら機体を左右に振って映像の動きを比較したのだが、WD-300Aのほうが反応が早かった。安価なヘッドマウントディスプレイではヘッドマウントディスプレイ側のほうが表示差若干遅くなることがあって使わなくなってしまったのだが、WD-300Aならその心配も無さそうだ。
装着
装着はヘッドマウントディスプレイのバンドを頭にはめるのだが、キャップ(帽子)を被った上で装着した方が安定するようだ。コツはバンドをセンターにきちんと合わせて装着すること。自分で装着するとどのように装着されているのかわからないため、初めはアシスタントに位置を見てもらいながら装着した。
頭に装着したら、ディスプレイの位置を調整する。ディスプレイの位置は恐らく好みが分かれるのだが、アームが三次元的に動くので自分の好みの位置に調整することができる。筆者は右側にディスプレイを設置して軸としては顔の中央側に、目からの距離はなるべく離す(顔からなるべく離す)位置に置くとしっくりと来た。
右目の視界は少し塞がれるのだが、機体と映像を同時に見ることができる位置を狙っている。実際は少し右のディスプレイに目を向けなければ映像は確認できないのだが、ほぼ機体と映像を同時に見ることができた。
仲間のパイロットにも装着してもらったのだが、やはり人によって好みの位置が異なるようだ。人によっては視界を妨げない位置にディスプレイを配置し、目を移動させて画面を確認するほうが操縦がしやすいという方もいた。このあたりは自分がしっくりとくる位置を見つけてほしい。ディスプレイの焦点距離も30cm~無限遠と幅広い。また、女性にも装着してもらったのだが、人によってはバンドのサイズが大きすぎるという方もいた。このあたり、バンドサイズを変更できるとより使いやすくなるように感じた。
撮影現場での実用性検証
実用性の検証のために、今回は2箇所での撮影を敢行した。1箇所はフライトエリア自体が狭い石切り場跡。もう一箇所は河津桜のキレイな観光スポットだ。石切り場では主に安全性を、河津桜では画角のキメを検証してみたい。
まず、石切場での撮影。古くは江戸城の石垣の石の切り出しなどにも使われていたという静岡県南伊豆町に残る石切り場を撮影させていただいた。ダンジョンのような空間は高さ20m前後、奥行き・幅は10m前後の閉ざされた空間。このような狭い空間の中で、画角を確認しながら安全にフライトができるか試してみた。
狭い空間ではあったが、WD-300Aで画角を確認しながら常に機体を目視することができたので非常に安全にフライトをすることができた。きちんと映像を確認するには少し目線を画面側にズラさないとならないのだが、構図レベルで映像を確認するだけならば機体とディスプレイを同時に見ながらフライトできたので撮影が非常に楽に、安全にフライトできた。特に機体を見上げながら撮影をする際にはかなり便利だった。
今までは映像を確認するために手元の送信機モニターを見る必要(顔が下向きになる)がありその度に機体から目線が外れてしまったのだが、その必要がまったくなかった。そういった意味では今回は試さなかったが、遠方や機体が見づらい空域でのフライトでモニターを確認した瞬間に機体位置を見失うようなことが減るかもしれない。
また、驚いたのは高度などのテレメトリー情報の数値までしっかりと視認できたことだ。ディスプレイから見える画面が思いのほか大きいため、特に目を凝らさなくても数値を確認することができる。筆者は撮影時に周辺の障害物との距離や最低安全高度などの数値を確認しながらフライトしているため非常に便利だった。
実際にWD-300Aを装着して撮影した石切り場のワンカット映像サンプルはこちら。狭い空間だが、壁面と適切な距離を保ちながら見せたい画角を撮影することができた。
次に、画角のキメを重視したフライトにWD-300Aを使用してみた。撮影場所は静岡県南伊豆町の青野川沿い。2月~開花する河津桜並木を撮影した。こちらもワンカット映像だが、撮影のポイントは低空で並木をナメながら画面上部ギリギリに常に太陽の光を入れること。桜越しに太陽の光がチラチラと映り込む演出で桜のキレイさを強調する狙いだ。
そこから樹の下で桜を見る女性を周り込みながら上昇し桜並木全体を映す…という映像を撮りたいのだが、太陽を常に画面端に入れながらのフライトは画角を常に確認しながらフライトする必要があり、また、女性を回り込む際には機体後ろにある桜との距離(フライトルートは1.5m前後の桜と桜の隙間)も考えながらフライトしなくてはならないため、映像と機体の同時目視が必要となる。
結果、撮影できた映像はこちら。太陽の光を常に入れながらの低空低速飛行と被写体との適切な距離を保ちながら撮影がスムーズにできた。晴れた屋外での撮影だったが、モニターの輝度に不満はまったくなかった。
旧モデルWD200Aとの比較
今回は旧モデル(WD-200A)も手に入れることができたので簡単に比較もしてみたい。ディスプレイはミラー反射式で1m先に13インチ相当のディスプレイが表示(焦点距離30cm~5m)できるというもの。コントロールボックスは充電式で少し大きめで、内蔵バッテリーで4時間程度稼働する(モバイルバッテリーの利用も可)。
左の白いモデルがWD-200。ディスプレイは横型、コントロールボックスも大きい
使用した感覚だと、旧モデルのディスプレイが非常に小さく感じた。DJI GO4の画面を表示したのだが、筆者の装着方法が悪いのか画面全体を見ることができなかった。外側全体が隠れてしまうイメージだ。コントロールボックスもDW-300Aと比較すると大きくて重く、どのみち稼働時間4時間では心もとないのでモバイルバッテリーを持ち歩くことを考えるとWD-300Aの割り切った小型コントロールボックスは正解なのかもしれない。
結論、WD-300Aと旧モデルWD-200Aではディスプレイの視認性が別物レベルで、携帯性も格段に向上している。旧モデルのユーザーはぜひWD-300Aを試してほしい。
HDMIスプリッターを使えば外部出力モニターも同時接続
筆者は、撮影現場でDJI GO4の映像を外部モニターに出力してリアルタイムでクライアントに映像を確認してもらいながらフライトすることが多い。WD-300AでプロポのHDMI端子を使ってしまうと外部モニターに接続する端子がないのだが、試してみたところ市販のDHMIスプリッター(分配器)をかませることでプロポのHDMI出力映像をWD-300Aと外部モニターの両方に表示することができた(GREEN HOUSE 1to2 HDMI SPLITTERで動作確認)。
スプリッターもUSB電源を必要とするので電源のモバイルバッテリーはUSB端子2口以上のものがよいだろう。
コントロールボックス右側の四角いものがHDMIスプリッター
WD-300Aは決して安いものではないが、これまでリリースされてきた業務用ヘッドマウントディスプレイと比較すると比較的安価で、なおかつ機能的には妥協のないものとなっている。検証してきたポイントをまとめると…
- ◯ディスプレイは1m先に19インチ相当を表示、テレメトリーの数値も読める
- ◯晴れた屋外でも輝度に不満はなし(明るさ調整も可能)
- ◯機体とモニターの同時確認が可能なので精度の高い操縦が可能
- ◯モバイルバッテリー給電なので利用時間に合わせてバッテリー選定(サイズ等)が可能
- ◯HDMIスプリッター利用で外部モニターとの併用も可能
- ×自分にぴったりのディスプレイ位置を合わせるのがコツが必要
- ×配線が複雑化しがちになる
ワンオペで操縦もカメラ撮影もひとりでやることが多い筆者にとって、WD-300Aは今や必須のアイテムとなった。まとめにも記載したとおり、少々配線が複雑になりがちなのだが、手頃なウェストポーチを導入してそこにコントロールボックス・モバイルバッテリー・HDMIスプリッター・余計な配線をしまいこんで携帯している。
「AiRScouter WD-300A」は安全面、映像のクオリティ向上面の両方から強力にサポートしてくれる頼もしいツールだ。ぜひ、みなさんも試してみてほしい。
3月上旬発売予定だという。