ドローンが世に出て10年…これまでとそれから
2007年にクリス・アンダーソン(元「Wired」編集長、現3D Robotics, CEO)によってホビー向けのコミュニティサイト「DIY DRONES」が立ち上がってから10年が経過した。その間、2010年代前半より、DJIがPhantomを初めとする機体でコンスーマー市場を席巻し、世界での70~80%のシェアを獲得した。そんな中、2017年は、それまでコンスーマー向けの機体を提供していたParrotや3D Roboticsが産業向けにビジネスの中心をシフトする中で、「第三の波」としての産業向けドローン市場が立ち上がってきた。
それは日本でも同様で、2016年から立ち上がってきた太陽光パネルの点検や「i-Construction」の取り組みによる三次元測量、農薬散布といった分野で拡がりが出てきた。
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筆者は毎年インプレス総合研究所の「ドローンビジネス調査報告書」の監修・執筆をしており、2018年版の三月末の発刊に向けて、ちょうど各社にインタビューをしている最中であるが、そこで見え隠れする部分がある。
2016年までは、各ドローン関連会社は「国プロ」と呼ばれるような国の予算をベースに実証実験を行うケースが多かった。「国プロ」は日本における社会課題の解決に向けて、その技術を高めていくという要素が強く、基本的には実証実験がメディア等にオープンにされる中で、どんなことが進みつつあるのかを知る機会が多くなる。「国プロ」に関しては、いわば、コストやビジネス性というものを、さほど考慮することはない中で、実証実験を行うため、その社会実装というものがなかなか進まないということや、また、その実証実験の過程で起こる“失敗”の共有がされることがないため、産業の中での経験値が蓄積しにくいという部分があるが、それでもドローンの技術や産業を推進してきたというところがあった。
2017年も引き続き、国がフォーカスする「物流」「災害調査」「インフラ点検」「土木測量」などの分野においては予算が展開されてきたが、より各民間企業がドローンを産業化するための実証実験が行われてきているという事実がある。
これは「国プロ」と比べて、プロジェクト開発の途上ということであり、あまりオープンされることが少ない。そういう意味でいえば、2017年はドローンの活用が開花するために潜った1年だったように思う。
ただし、民間企業はそのロードマップのターンごとにその投資に対する評価が入るため、途中で立ち消えになるものもあり、この動きがどこでどんな風に開花していくのかに関しては、まだまだ注視する必要がある。
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ドローンをビジネスとして捉えた場合
ドローンビジネスという観点で捉えた場合、やはり重要なことは、手段としてのドローンを使い、ユーザーがどんなメリットがあるのかということを考える必要がある。いわば、ユーザー目線のROI(Return of Investment)である。
中国というかDJIに先行されたドローンのハードウェアに対し、欧米ではサービスやソリューションにその重きが置かれている。(ベンチャにおける投資も今まではハードウェアメーカに対するものが多かったが、ソフトウェアやソリューションベンダへの投資が多くなってきた)
そこにあるのは、当たり前だが、ユーザー(しかも企業ユーザー)がそのサービスやソリューションを導入した場合にどういったリターンがあるのかということが重要で、そのロジックの中でそのサービスやソリューションの優劣が決まっていく。
ドローンに関しては、技術ということに重きが置かれがちであるが、必ずしも、そこで勝つのは、技術の優劣に直結していないということだ。
(技術は重要な要素であるけれど、それが全てでないということだ)
それは、ドローンには様々な技術上の課題はまだまだあるけれど、現状の時点においても、有効なものはいくらでもあるということ-ドローン自体は個別技術の凄さというよりも、ある種のビジョンを変えたというポイントから捉えなおしたほうがよいということだ。
ドローン黎明期を支えたクリスアンダーソンの言葉を紐解く
ここでクリス・アンダーソンがハーバードビジネスレビューの2018年1月号に寄稿した、「ドローンがもたらす破壊的イノベーション」を引用し、その論点をかいつまみながら、解説したい。ドローンによる「現実キャプチャー」技術の革新による「データ取得の民主化」というものがそのビジョンとなる。
●現実の物理的世界を地上からも上空からも、表から裏までスキャンする作業を「現実キャプチャー」と呼ぶ。この技術がいよいよ実際に、ビジネスを変えるところまで熟してきた。
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●我々は「測定できるものしか管理できない」と知っている。普通なら現実世界を測定するのは困難だが、ドローンはそれをかなり簡単にしてくれる。
●ドローンの場合、頭上からの視野をレーザースキャンに匹敵する精度で“いつでも、どこでも”提供できる。しかも、この技術はまだ生まれたばかりだ。インターネットを現実世界にも拡張していくという、今世紀の大事業IoT(モノのインターネット)において、ドローンは第3の次元、すなわち「上方」への道を確保する。要するに“空飛ぶモノのインターネット”なのだ。そして、その「データ取得」に関し、完全自動運転および群制御の技術が進むことで、どんどん効率化していく。そして、その完全自動運転も群制御ももう技術的には手の届くところに来ている。
●完全自動運転が許されるようになれば、昔ながらの「操縦者1人につき飛行機1台」という鉄則は「操縦者1人につき多数の飛行機」へと、さらには「操縦者ゼロ人で多数の飛行機」へと進化していくだろう。そうなってこそ初めて、自動運転が秘める本当の経済性が効き出す。現実世界をスキャンする限界費用が(人力からロボット化することで)ゼロに近づくほど、我々はより広い範囲をスキャンするようになるからだ。これを「地球スキャンの民主化」と呼ぼう。人工衛星によるスキャンより、低コストかつ高解像度の代替手段である。いつでも、どこでも、上空からのデータ取得が可能になる。そして、「地球スキャンの民主化」が進めば、そのドローンからのデータとクラウドとつながることで、そこに現実世界を捉える「破壊的イノベーション」が産まれてくるのだ。
●ドローンと企業のソフトウェアがシームレスに一体化することであり、結果として全自動でドローンがデータを集め、それをクラウドに送り、データを分析し、その結果がすぐに役立つ形で企業側に示されることだ。しかも、それをリアルタイムに近い早さで実施できると理想的だ。いわば、こういったビジョンをドローンの活用をしながら実現させることで、ユーザーのメリットをいかに示すことができるか、ここが2018年度の各社の勝負になる。そして、それはハードウェア製造メーカも同様であり、既にDJIはそこにも舵を切り始めている。
また、クリスのこの寄稿にはこんな文章がある。
おもちゃとは思わないまでも、ドローンを配達用の機械だと思っている人はまだ多いだろう。なぜなら「消費者への配達」というドローン利用法こそ、クリック1つで生まれる驚くべき(または恐ろしい)未来像を描くのに、メディアが最も好んで飛び付くイメージだからだ。だが率直に言って、配達はドローン利用法の中でも最も退屈で、しかも最も技術的に難しい利用法である(何であれ、混雑した環境下での自動飛行が必要になる利用法は、技術面でも規制面でも最も難易度が高い)。
産業界の多くが注目するのは、その対極にある利用法だ。それは「モノの配達」ではなく「データの取得」である。
日本においては、2015年11月に安倍晋三首相が「早ければ3年以内に小型無人機(ドローン)を使った荷物配送を可能にする」と述べ、そこから官民ともにドローンの活用に動き出したが、これはきっかけとしては悪くはないと思うが、多くの企業がここに頼り過ぎているし、また、リソースが注がれている。ドローンがもたらすものを再考し、プライオリティを定めることが重要だ。2018年ドローンにとってどんな年になるのだろうか?