ドローンによる農薬散布が本格化すると思われる2017年。ついにDJIの農薬散布用ドローンAGRAS MG-1が3月1日より発売開始となった。それに合わせ、8日に製品発表会及びデモフライトが東京都あきる野市にある戸倉しろやまテラスにて実施されたのでレポートする。
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AGRAS MG-1の主な特長
これまでの農薬散布用ドローンと比較して高度にインテリジェント化されたのがMG-1の特長。主な仕様・機能は下記の通り。
■機体フレーム
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対角ホイールベース | 1,520mm |
寸法 | 1,471mm×1,471mm×482mm (アームを広げた状態、プロペラなし) 780mm×780mm×482mm (アームを折りたたんだ状態) |
■飛行パラメーター
総重量 | 9.5kg(バッテリーなし) |
最大離陸重量 | 24.5kg |
最大動作速度 | 8m/s |
最大飛行速度 | 12m/s |
推奨動作環境温度 | 0~40℃ |
■噴霧システム
液体タンク | 容量:10L 標準搭載:10kg |
ノズル | 型式:TX-VK8(吐出量:0.525L/min) 数量:4個 |
1・農薬散布作業は従来の1/3に時間短縮
MG-1は10分のフライト時間の中で1ヘクタールに10Lの農薬を散布することができる。通常農薬を散布する管理を使用した場合、1ヘクタールの散布にだいたい30分かかるというので、約1/3の時間に短縮することができる計算になる。
2・ムラのない高精度な農薬散布のための工夫
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黒いブロック状のものがミリ波レーダー。タンク斜面の前方と後方、及びタンク下面に設置されている
ミリ波レーダーが機体のタンクの前方・後方・下面に設置されており、地形を把握して作物との距離を一定に保つことで噴霧ムラを防ぐことができる。噴霧方法も4つのノズル全てから噴霧させる方法のほか、前方2つのみの噴霧と後方2つのみの噴霧を送信機裏のボタンで切り替え可能だ。
プロポ正面右側には飛行モード選択のスイッチ。「S(Smart自動航行用)」「M(Manual)」「M+(Manual+)」を選べるが「S」は現状機能しない
また、パイロットの操作を補助してくれる「M+」モードにプロポを切り替えると、プロポ裏側にある「C1」または「C2」ボタンを押すことで、機体を水平に設定した距離だけ移動する。これにより、水田等で一辺を飛行して折り返す際に一定の間隔で横に移動してから折り返せるため、薬剤噴霧が被らずに均一噴霧ができる。
4つあるCボタンのうち両脇は水平移動に使用。中央の2つ(C3/C4)は前方噴霧・後方噴霧の切り替えに使う
3・高性能かつ安全性の高いフライトシステム
フライトコントローラーはA3をベースにカスタムした「A4 AG」
フライトシステムはMG-1用に設計された「A3 AG」という専用フライトコントローラーを装備。デモンストレーションでも実際に10Lの水を搭載してフライトしていたが、激しい操作にも安定したフライトをしていたのが印象的だった。気圧計やコンパスを冗長化することで、万が一センサーのひとつに異常が起きた場合でも残りのもうひとつのセンサーで安定して飛行することができる安全設計となっている。
4・農機具として利便性の高い機体仕様
アームの半分を折りたたんだ状態
機体は約1500mmと大きなサイズだが、アームを折りたためば小さく収納する(780mm)ことができ、軽トラックの荷台にも充分積載可能なサイズになる。また、防水機能を備えているため、付着した農薬や汚れを水洗いして洗浄することも可能だ。
全て折りたたむと780mmになる
5)オプション・カスタムパーツも用意
オプションパーツ群。価格は未定
MG-1には日本の環境に合わせたオプションパーツや自作用パーツが用意される。電線などの障害物を検知する「レーダーモジュール」やセンチメートル単位での機体維持制御を可能とする「RTK」、最大6個の接続が可能な「バッテリー充電ハブ」だ。また、ドローンを制作する業者には農薬散布用ドローンを自作するために必要なモジュールやパーツが揃った「農薬散布ソリューションパッケージ」も便利だ。
それぞれの環境にあったオリジナルの農業機を作成することが可能
AGRAS MG-1デモフライト
プロポのモニタにはフライト履歴が表示されていた。これで噴霧したところとしていないところがよくわかる
デモフライトは10Lの水を積んだMG-1で4m間隔に並べられたパイロンの四角い枠内エリアを水田に見立てて飛行。きっちりと4m間隔で折り返しながら安定して水を噴霧しながらフライトをするMG-1を見ることができた。デモンストレーションのはじめ、あえて大きな動きで安定性を検証するデモがあったのだが、10Lの水を積んでいるとは思えないダイナミックかつ安定した動きでフライトしていたのはさすがだ。
MG-1プロトタイプと製品版との比較
昨年の5月ごろのプロトタイプ機体と比較すると、タンク形状やバッテリー、ミリ波レーダーの設置、さらにノズル形状など、さまざまな箇所でアップデートされたことがわかる。一昨年11月に初めて発表されたMG-1だが、中国・韓国での販売、国内でも代理店やテストユーザーからのフィードバックを経て大きなアップデートが加えられている。日本国内に合わせたアップデートもされている(DJI関係者)とのことで、1年前の機体とはほぼ別物と考えて良いだろう。
2016年5月時のMG-1。タンクの給水口は後方に設置されており、ポンプもシンプル。バッテリーもインテリジェント化されていない
同じく2016年5月撮影。機体にミリ波レーダーは確認できず、ノズルの形状もシンプルなもの
今回のMG-1。タンクの給水口はサイドに設置され、タンク形状も違うようだ。ポンプも強化されているように見える
ノズルは先端にグレーの突起が設置されている。液ダレを防ぐ工夫だという
バッテリーはインテリジェント化された一体型に変更されていた
ポンプ部分。プロトタイプと比べてかなり増設されている
プロトタイプにモニターはなかったのだが今回のものは高輝度ディスプレイを装備
充実の教育・メンテナンス体制
今後は全国に一時販売代理店とともに農林水産航空協会認定の教習施設・整備事業所の設置を進めていく。教習所では認定教官がDJIオリジナルテキストを使用し、マルチローターの操縦方法・農薬の取り扱い・安全対策マニュアルなどについて教習する。初心者向けに5日間、経験者向けに3日間のコースを設置し、現在100名の認定教官の育成を完了している。
運用に欠かせない保険も用意。機体価格は180万円~
機体価格は約180万円前後を予定しており、1年間の無償の賠償責任保険(対人最大1億円・対物最大5000万円)が付く。研修が10万円~(実施教習施設による)と考えると予備のバッテリーなどを加算し、初年度は200万円強という費用感となる。
自動航行システムは封印。国内の農薬散布用ドローン運用制度に課題も
MG-1の特長でもある自動航行システムは今回封印しての販売となる。それは、国内の運用制度が自動航行を認めていないためだ。これはDJIにかぎらず、他社の機体でも同じ条件となる。空撮と違い、農薬散布のような作業的なドローンの運航は手動操作でやるよりも自動航行システムを利用したほうが正確で安全な場合が多くある。現状の制度はドローンの運用を想定したものではなく、これまでの農機具の運用を前提とした制度にドローンを当てはめたに過ぎない。今後のこのようなドローンをより有効に活用していくには、国と関連団体、メーカーとユーザーが協力して制度を作っていく必要性を感じた。