2年で状況は大きく変化した
日本のメディアとして初めて単独で深圳DJI本社に乗り込んだのがちょうど2年前である。当時は、ドローン元年と言われ各社鎬を削る状況であった。月日は流れ去り、ドローンを巡る状況はあっという間に変化を遂げた。そうまだ2年しか経っていない…。やはりドローン業界を牽引するDJIにその状況を聞くべく再度DJI本社を訪れる事にした。
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編集部が訪問した際にもインタビューの行なわれる本社会議室の横には多くの人がエントランスフロアに点在していた。おそらくDJI入社希望面接の人々である。毎日これだけの人が面接に来るのかと人気企業であるDJIの勢いを感じさせられた。今回は、DJI アジア太平洋地域広報担当ディレクターのKevin氏にお話を伺った。
DJI急成長のカギは、「経験」、「人材」、「企業の思想」の3点
編集部:2年ぶりの本社訪問となります。当時とは状況も大きく変化しました。毎度展示会ではKevinさんにはお会いしますが、現場では聞けないDJIの事についてお聞きしたいと思います。DJIが世界のドローン業界のマーケットを占めていますが、どう思われますか?
Kevin:よろしくお願いします。いつも展示会場で製品の事ばかり説明していますから、今回は新鮮ですね。さて、DJIは昨年10周年を迎えました。ドローン、フライトコントローラー、ジンバルの技術、現在では空撮カメラの開発も行っています。私たちはこの分野でのパイオニアだと自負しています。
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DJIの強みは、「経験」、「人材」、「企業の思想」の3点が鍵だと考えています。
まず「経験」について。現在Osmoシリーズは、多く使用されていますが、ジンバルの技術開発に取り組んだ際、まさかジンバルが手持ちで使われるとは思ってもみませんでした。実際にスマートフォンでのビデオ撮影はとてもぶれやすく、我々のエンジニアたちは、このブレを防ぐには?と考えました。あるコンセプトを別の分野に持ち込むというのは、技術を他に幅広く応用する一例です。これは私たちが常に考えていることです。そういった「経験」の積み重ねが強みであり、 まさしくDJIの歩みとも言えます。
次に「人材」です。全世界に8000人以上の従業員がいます。昨年は6000人くらいでしたが(笑)。およそ25%がエンジニアや開発スタッフです。この割合は非常に高いといえます。私たちは製品や革新に牽引される企業です。よい製品を作れば「自然とユーザーが『物語』を付加してくれる」という信念を持っています。マーケティング・コミュニケーション戦略として後付するのではなく、空撮カメラマンや映画製作者の手に渡り、そういった人たちが「物語」を付加してくれます。
3つ目は、「企業の思想」についてです。これは、いわば企業における哲学といえます。CEOは、good enough is not good enough(十分、では十分に満たない)と常に口にしています。私たちは常に、短期間で確実に、良い製品をリリースしたいと考えています。ただその部分に驚いてもらうのが目的ではありません。これらの3点が我々が10年で積み上げて来たDJIの歴史とも言えます。
編集部:コンシューマ用そして昨年から力を入れ始めた産業用、それぞれの今後の展開について教えて頂けますか?
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Kevin:コンシューマ用については、PHANTOM 4で飛躍的な進歩を遂げました。さらにより多くの人に届けられるか考えた末、PHANTOM 4のフォームファクター (ハードウェアの形状や大きさ )を再開発して全く別物にしました。それがMAVIC PROです。小さくてコンパクト、安定性、スマート性能、カメラの点ではMAVIC PROは現状市場で一番でしょう。
つまり、現存のPHANTOMシリーズには私たちの全てを詰め込み、MAVICではそれをより小さくコンパクトで、使いやすくしたのです。これにより新しい客層を得ることができました。例えば、旅行者は新しい客層のひとつです。MAVIC PROによって私たちの客層はかなり広がったのです。
編集部:MAVIC PROは製品名ですよね。次の製品は、ではMAVIC Standardとかになるんでしょうか。いずれにしてもより小さく、より高品質になっていくのでしょうか?
Kevin:どうでしょうか(笑)?どんな技術においても、サイズが小さくなるのは確かです。ユーザーもよりコンパクトなものを好みます。スマートフォンやコンピューターがよい例ですね。
ハードウェアの形状や大きさ以上に大切な事は、ソフトウェアそしてアルゴリズムです。PHANTOM 4とMAVIC PROのアルゴリズムはよく似ています。しかしハードウェアが全く異なります。フォームファクターが小さければ小さいほど、アルゴリズムがよりよく、性能が良くなるのです。
もう一点、バッテリー性能の向上も著しい進化があります。INSPIRE 1では18分だった飛行時間が、INSPIRE 2では2つのバッテリーを搭載することで30分の飛行時間が可能になりました。これもやはりユーザーの方が求めていたものです。バッテリー性能の向上、フォームファクター、ソフトウェア、3つは確実に今後の課題です。次の新製品に関しては、近いうちに素晴らしいものをお見せしますよ(笑)。
次に産業用ドローンに関してですが、本格的に取り組み始めたのは2016年からです。それぞれ企業向けビジネスには5つの産業分野があります。
1つ目は映画(cinematograohy)、これは既に進行中です。
2つ目は農業、この分野では大きな躍進を期待しています。日本や、プランテーション農園の多いマレーシア、貿易プログラムのある中国などです。
3つ目はエネルギー産業での点検です。例えば、パイプライン、工場プラント等、これまでのように人が逐一、写真撮影、検査するプロセスは非常に時間が掛かります。無人航空(UAV)技術とズームカメラは、その場所へ行き、効率に作業が行なえます。
4つ目は、インフラ建設です。様々な国で、橋、住居などのインフラ建設が行われています。ここでは、ソフトウェアが肝心となります。例えばDrone Deploy社は私たちのソフトウェアパートナーの一つで、建設や地図製作といった事業を行っています。
5つ目は、緊急事態への対応です。例えば消火活動、捜索・救助活動、また医薬品の運搬などです。日本でもそういった分野で多くのテストを行っています。
それぞれの市場で優先事項は異なります。日本では農業、欧州では緊急事態への対応で、EENA、(European Emergency Number Association)という欧州の消防団体と共同で、無人航空(UAV)技術を使った試験的なプログラムを行っています。
具体的には、森林火災を監視し、消火活動を援助するのを目的に、ドローンに赤外線サーモグラフィカメラを付けることで、最も高温な火元を特定することで、消防士はそのエリアの消火に集中できるという仕組みです。このように欧州での優先事項は緊急事態への対応で、世界の他の地域では、別の産業が優先となるわけです。しかしこれら5つの産業分野が私たちにとって、国際的なビジネス展開における注力分野です。
編集部:ハッセルブラッド社の協業を始め、カメラの開発や展開についてお教え願えますか?
Kevin:DJIは、ドローンに始まり、ジンバル、そしてカメラと続きました。現在ほとんどのカメラは、自社製となります。センサーや
レンズは他社製を使用していますが、製品の大部分は自社製です。通常のラインナップは、ZENMUSEシリーズです。ここまでは、コンシューマ用に関してです。
産業用に目を向けると、赤外線画像カメラのFLIR社と協業しています。こちらも消防士の捜索・救助活動など、産業特有のニーズに合わせ、最大限に活用しています。
また、ハッセルブラッド社についてですが、同社と働き始めたのは2015年後半からですが、その理由は、宇宙空間で撮影もされたカメラメーカーのパイオニアだからです。私たちにはドローンによる飛行の知見があり、彼らにはカメラ技術の能力があります。このパートナーシップの目的は、お互いに能力面で助け合い、私たちのプラットフォームでの彼らのカメラ機器の使用可能性を探ることです。
編集部:では最後の質問です。日本のファンやユーザーにメッセージをいただけますか。
Kevin:非常に刺激的な時代にあると思っています。これまでドローン市場には多くの新規参入がありました。自撮り用ドローンや、近距離用ドローンや、おもちゃとして屋内用に作られたものもありました。私たちにとって、コンシューマ用ドローンや無人航空(UAV)技術という言葉には、非常に広い意味があります。この言葉を聞いたときには、消費者はその使用目的をはっきり理解する必要があります。
わが社のドローンは万人向けではありませんし、他社のドローンも然りです。そのためまず、製品の使い方を理解する必要があります。もし屋内で低い地点からの自撮り用としてだけ使うつもりなら、明らかに、他にも選択肢はあります。しかしより安定性が高く、高品質なカメラを備え、よいソフトウェアによるものを求めているのであれば、DJIのドローンは理想的な選択肢の一つと言えるでしょう。
産業・企業用では、製品の使い方とスケーラビリティ、すなわち拡張の可能性に注目してください。ある特定の目的だけのために作られた製品もありますが、私たちの製品はスケーラブルに、カメラも変更ができるよう尽力すると同時に、それをサポートしてくれるソフトウェアパートナーもいます。
繰り返しますが、その課題に対して何をすべきか?を正確に理解すること、どんな解決策が必要なのか理解するのが重要です。産業用として注目が高まっているのは、ハードウェアとソフトウェアの融合だと思います。例えば、建設現場でデータをソフトウェアに入力しGS Proのようにより大きな地図を作るような場合は、どんなソフトウェアが自分のプロジェクトにおいて業務を円滑化するかを考えなければなりません。GS ProはCES(Consumer Electronics Show)でご覧になったでしょう。日本チームが開発した産業用アプリケーショです。素晴らしいアプリですが、しかしこれもまだほんの始まりです。
また、お客様には、ドローンを飛ばす場所や飛行環境には常に注意して頂ければと思います。私たちにも、事故の報告やニュースを見聞きしています。飛行機が離着陸する空港などには特に注意が必要です。私たちは、この技術がより大きく発展するために、国ごとに規制が異なることを正しく理解してもらえるよう、ユーザーへの啓発活動を続けていきます。