待望のINSPIRE 2登場
カーボンフレームのトランスフォームと360°回転式のジンバル、4Kカメラを搭載して2014年11月に衝撃的なデビューを果たしたDJI INSPIRE 1。当時は最高峰の空撮機能を搭載したオールインワン機体として君臨していました。「Ver.2.0」「PRO」とバージョンアップしてきたものの時代は2年も過ぎ、今ではPhantom 4やMAVIC PROの登場で少々物足りなさも感じるようになってしまいました。
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INSPIRE2+X5S(3840×2160/29.97)で撮影
協力:みのたにグリーンスポーツホテル様 ※特別な許可をいただき撮影しています
そして2016年11月、満を持して後継機種「INSPIRE 2」が登場しました。INSPIRE 1の高機能は全て継承するだけでなく、センサー類の冗長化に加えてバッテリーやカメラまでもデュアル化しました。また、ソフトウェア面も強化し、PhamtomシリーズやMAVIC PROでも好評だった画像解析技術を活用したアクティブトラック機能や被写体をロックする新機能「スポットライトプロ」など、撮影時のサポート機能も充実させました。これらのアップデートは、高機能化という意味だけではなく、安全性の強化という重要な意味も持っています。今回は「飛行」「撮影」の2回に渡ってINSPIRE 2を解剖していきます。前編は、INSPIRE 2にX5Sカメラが付属した「Premium Combo」バージョンを操縦面からレビューしていきたいと思います。
プロ用空撮ドローンDJI INSPIRE 2基本スペック
まずは基本的なスペックを確認。バッテリーがデュアル化することで飛行可能時間が飛躍的に延びました。ちなみに、バッテリー1本あたりの電力量は97.58Whなので、多くの航空会社で採用している持ち込みバッテリーの制限である100Whを下回っています。また、障害物を検知するセンサーは前方・下方に加えて上方に赤外線センサーを装備し、天井などの障害物にも対応します。ただし、Phantom 4 PROのような後方や横方向にはありません。これはカメラがパンすることで機体は前方に進むことが多いINSPIRE 2の機体特性によると思われます。
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※[]内はINSPIRE1のスペック
そしてついに「開封の儀」!
新しい収納ケースは発泡素材で軽くできている
まずはやはり開封の儀。梱包のパッケージがそのまま収納ケースになっているのは先代と同様です。しかし、今回の収納ケースはPhantom 4と同じ発泡系の素材になっています。軽くて良いのですが、キャスターにゴムロープでくくりつけると角が食い込んで凹んでしまいました。機体とバッテリーを積むとなかなかの重量になるのでキャスターに乗せる方も多いかと思いますが、ロープでくくりつけるときには注意が必要です。
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ケースを開けた状態。5セットのバッテリーが物々しい
ケースは機体本体のほか、プロポ、バッテリー、充電器が入るようになっています。バッテリーの装着穴は2セット分(4本)しかないので、筆者は写真左上に残りの3セットを入れています。写真右下の四角い箱はX5Sカメラの収納ケースです。
5セットのバッテリーで10本になる
また、バッテリーはデュアル化することで重量もコストも倍増!筆者はだいたい1機種あたり5セットのバッテリーを所有しているのですが、今回も追加購入で4セット(8本)となりますので、重さで4,120g(5セットで5,150g)、価格で18,900円×8=151,200円となります。いろいろな意味で「覚悟」が必要な機体です。
機体をじっくり眺めてみると随所に細かい工夫が!
■機体前方
ぱっと見ではINSPIRE 1 Black Editionと間違ってしまいそうなくらい変化はないように思えますが、やはり大きな違いは前方に装備されたステレオビジョンセンサーとFPVカメラです。モニター上でも、Picture in Pictureとして表示することができますので、メインカメラが横にパンした状態や長めのレンズで画角が狭くなった状態でも機体周辺の状況を把握することができます。
機体前方の“触覚”のようなものがビジョンセンサー
画面右下の小窓にFPVカメラからの映像が出る
■機体後方
機体後方の上部には対障害物赤外線センサーがあり、天井や狭い空間などでの接触を防ぐことができます。機体上部に対象外物センサーが付いたのはINSPIRE 2が初めてとなります。
機体上方に1対の赤外線センサーが備わる
また、後ろから見ると一番目立つのはやはりデュアルバッテリーです。バッテリーは冗長化することでトラブルによる墜落や強制着陸を防ぐほか、バッテリー自体に保温機能をもたせることで安定したパフォーマンスを発揮します(加温時にはモニターのバッテリーアイコンが黄色くなります)。冬場にはとても重宝する機能です。
バッテリーのアイコンが黄色くなっていると保温機能が動作している
ちなみに、バッテリーの間の銀色のスリットはSSDです。120GB~480GBのSSDを映像記録用に装着することができます。5.2Kの映像記録は240GB以上のSSDが必要になるので注意が必要です。今回は480GBのSSDを購入しましたが116,000円!PCに読み込むためには「CINESSDステーション(17,700円)」が必要になりますので、これらのコストも考えておいたほうが良さそうです。
機体後方中央下にSSDスロットがある
SSDを引き出したところ
通常の映像記録用microSDは機体前方のサイドに挿入します。INSPIRE 2では映像エンジンが機体に内蔵された(INSPIRE 1では映像エンジンはカメラ本体)のでメディアも機体本体に挿すことになります。映像エンジンを機体に内蔵することでカメラ本体の構造がシンプル化したのはよいのですが、この仕様変更はINSPIRE 1シリーズで使っていたカメラが使えないことも意味します。
機体のサイドにmicroSDの挿入口がある
カメラ~ジンバル回りは非常にシンプル
フライトの感覚はPhantom 4シリーズに近くなった?INSPIRE 2の初フライトレビュー
フライトは屋外と屋内でテストしました。総じて感じたことは、旧型では少し敏感で不安定さも残った操縦感が、INSPIRE 2になって非常にマイルドな味付けになったこと。Phantomユーザーならわかるかと思いますが、Phantom 3からPhantom 4にバージョンアップしたときのマイルド感に似ています。前方ビジョンセンサーをOFFにすると、Phantom 4と同じく少し機敏性がアップします(最大傾斜角度が25°から35°に拡大します)ので、撮影現場の状況に合わせて選択するとよいかと思います。
屋内では、下方ビジョンセンサーがステレオになったこともあり、非常に安定した飛行をします。もちろん、天井へ近づくと赤外線センサーが反応します。対障害物センサーの上方はFPVカメラ(デフォルトでは画面右下の小さな小窓)内に出ますので見逃さないようにしてください。
レビューテストにご協力いただいた「ドローン女子」のめいさん(左)と夏子さん(右)
また、この日は体育館の気温が5°しかなく、装着直後のバッテリー温度が10°以下に留まっていたのですが、約5分後には21°~22°に上がっていました。フライトすることによる通常の温度上昇もあったかと思いますが、自己加温機能を持ったバッテリーには安心感があります。
4:50後にバッテリー温度は22°~21.3°に上昇
屋外では前述のとおりマイルドな味付けの動きで操作性もよく、狙った飛行経路を確実にフライトさせることができました。そして、何より良かったのは被写体をロックする新機能「スポットライトプロ」です。
スポットライトプロはモニター左側のアイコンより選択が可能。「フリー」+「クイック」にすると被写体を事前に設定することで機首方向に関係なく被写体を常に追尾するモードになる
INSPIREシリーズの特徴でもある2オペレーション(機体操縦とカメラ操作を別々のプロポで行う)空撮を擬似的にできます。設定方法はとても簡単で、アクティブトラックと同様にモニター上で被写体を選択するだけでOKです。被写体設定後は機体アングルを変えても常に被写体を画面の中央に自動で捉えてくれます。
INSPIRE2+X5S(3840×2160/29.97)で撮影したスポットライトプロ映像サンプル。被写体ロックの対象を女性に設定すると常に女性が中央にくる
きめ細かいバージョンアップは素晴らしいがコスト評価は必要
DJI製品バージョンアップで毎回感じることは、本当にかゆいところに手が届くバージョンアップをしてくるというところです。今回も冗長化されたセンサー類にデュアルバッテリー&デュアルカメラ。しかもバッテリーは保温機能付きで、なおかつ航空機の持ち込みに制限がかからないレベルの出力。バージョンアップは派手なところも地味なところもありますが、どれもユーザーの現場からの意見を真面目に反映させていると感じるものばかりです。
ひとつ、あえて苦言を呈するとすれば、コスト面でしょうか。2つ1組になったバッテリー、仕様が変わったカメラ、大容量映像データを記録するためのSSDとリーダー。導入にはこれら周辺機器も含めた機材のコストとのバランス評価が必要になりますね。今回のレビューがその参考になれば幸いです。